第39話 模範家名
39話です。
発表は、
静かだった。
鐘も、
太鼓もない。
ただ――
官報に
載った。
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準男爵家を
模範例とし
地方統治・教育・
治安維持の
標準モデルとする
文章は、
短い。
だが――
国の隅々まで
届く。
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王宮の会議室。
地図が、
さらに広がる。
赤線が、
国全体を
覆い始める。
「……この方式で
統一します」
文官が、
淡々と言う。
「……問題は?」
誰かが、
形式的に聞く。
「……ありません」
それが、
結論だ。
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自分の名が、
資料の表紙にある。
「○○準男爵家方式」
方式。
個人は、
もういない。
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地方から、
視察団が来る。
貴族。
官吏。
教師。
皆、
同じことを
聞く。
「……どうすれば、
反発を
最小化できますか」
答えは、
決まっている。
「……声を
数にする前に、
言語を
整理する」
誰も、
異論を唱えない。
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視察団は、
満足して帰る。
彼らは、
自分の土地で
同じことを
するだろう。
少しずつ。
丁寧に。
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数週間後。
報告が、
積み上がる。
「……集会件数、
減少」
「……訴願数、
低下」
「……再教育参加率、
上昇」
数字は、
美しい。
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だが――
別の数字が
ない。
「……自発的提案件数」
欄が、
空白だ。
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「……子供たちは?」
ふと、
聞いてみる。
学院長が、
答える。
「……非常に
素直です」
「……質問は」
「……ありません」
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視察に行く。
新設学院。
教室は、
明るい。
黒板は、
白い。
教師は、
穏やか。
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「……分かりましたか」
教師が、
聞く。
子供たちは、
一斉に頷く。
声は、
揃っている。
(……揃いすぎだ)
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「……質問は?」
沈黙。
誰も、
手を挙げない。
目は、
前を向いている。
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休み時間。
子供たちは、
遊ぶ。
だが――
騒がない。
争わない。
ルールを
守る。
(……理想的だ)
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一人の子が、
転ぶ。
周囲が、
集まる。
だが――
誰も、
助けない。
教師を見る。
指示を
待つ。
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「……大丈夫?」
教師が、
声をかける。
子は、
立ち上がる。
「……はい」
それで、
終わる。
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帰り道。
胸の奥が、
重い。
(……何を
教えた)
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王宮で、
祝賀の言葉。
「……見事だ」
「……反乱は
過去のものになる」
「……次は、
安定の世代だ」
世代。
その言葉が、
引っかかる。
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「……後継の
教育も、
この方式で」
当然のように
言われる。
当然だ。
模範家名なのだから。
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夜。
私邸。
机の上に、
新しい設計書。
「次世代教育
完全統一案」
ページを、
めくる。
どこにも、
問いが
ない。
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ふと、
気づく。
自分が、
一度も
質問されていない。
「……どう思うか」
「……望むか」
誰も。
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窓の外。
学院の灯りが、
整然と並ぶ。
静かだ。
あまりに。
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理解した。
これは、
暴政ではない。
完成度の高い
善意だ。
だから、
止められない。
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そして、
次に来るのは
必然だ。
この沈黙の中で
育った者たちが、
初めて
何かを選ぶ瞬間。
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そのとき、
世界は
揺れる。
それを――
自分は
見届ける側なのか。
それとも、
原因なのか。
チョークには別先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。




