第38話 問いを殺す
38話です。
それは、
処刑ではなかった。
講習会だった。
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王都北の学院。
白い壁。
広い講堂。
兵は、
立っていない。
代わりに、
教師がいる。
(……よく考えたな)
剣より、
黒板の方が
安い。
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「……閣下」
学院長が、
深く頭を下げる。
「……再教育対象者は、
こちらに」
再教育。
便利な言葉だ。
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集められたのは、
三十名。
年齢は、
ばらばら。
共通点は、
一つ。
“疑問を口にした”
という記録。
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「……目的は、
対話です」
そう説明される。
「……強制は
ありません」
その言葉に、
誰も笑わない。
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最初の講義。
テーマは、
「秩序と安定」。
教師は、
丁寧だ。
怒鳴らない。
脅さない。
「……安定とは、
予測可能性です」
黒板に、
図が描かれる。
混乱→不安→暴力。
「……不安を
減らすには?」
答えは、
用意されている。
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「……統一された
判断基準です」
法律。
家名。
権威。
言葉は、
滑らかだ。
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受講者の一人が、
手を挙げる。
「……誰が、
その基準を
決めるのですか」
静かだ。
だが――
問いだ。
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教師は、
微笑む。
「……良い質問です」
その言葉が、
一番危険だ。
「……歴史が
決めます」
「……成功した
仕組みが、
残るのです」
成功。
誰の成功かは、
言わない。
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別の受講者。
「……村が
静かになったのは、
本当に
良いことですか」
教師は、
一瞬だけ
間を置く。
「……静かであることは、
安全の証です」
「……声がないのは、
満足の可能性も
あります」
可能性。
証明は、
不要だ。
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休憩時間。
廊下で、
学院長が言う。
「……順調です」
「……反発は」
「……ありますが」
一拍。
「……言語化されません」
(……殺したな)
問いを。
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午後。
次の講義。
テーマは、
「役割」。
「……人は、
全てを
理解する必要は
ありません」
「……適切な人が
判断すればいい」
適切。
それは、
今の権力だ。
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後方の男が、
小さく呟く。
「……それは、
思考の放棄だ」
声は、
小さい。
だが、
拾われる。
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教師は、
怒らない。
「……放棄では
ありません」
「……委託です」
委託。
その言葉で、
場が静まる。
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「……信頼とは、
委託の
積み重ねです」
「……信頼できない
状態こそ、
社会の
病理です」
病理。
反論すると、
病人になる。
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夕方。
簡単な
確認テスト。
問いは、
選択式。
自由記述は、
ない。
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結果は、
ほぼ全員合格。
「……理解が
進みましたね」
教師が、
微笑む。
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修了証が、
配られる。
紙一枚。
だが――
行動制限解除
という特典付きだ。
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王宮への報告。
「……再教育、
成功」
「……思想的反発、
沈静化」
「……再発率、
低下見込み」
数字は、
完璧だ。
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王族が、
満足そうに言う。
「……剣は
不要だな」
「……君の
やり方は、
血が出ない」
血。
出ていない。
見えないだけだ。
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夜。
私邸。
机に、
一枚の紙。
再教育を受けた
男の署名。
理解しました
もう、
問いません
その一文が、
重い。
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(……これでいい)
そう
思おうとする。
だが――
思えない。
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思い出す。
あの教え子の
最後の言葉。
「問いは、
返ってくる」
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今、
確かに
返ってきている。
ただし――
声を持たずに。
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翌朝。
新しい提案書。
「模範家名
教育制度化」
「全国展開」
自分のやり方が、
教科書になる。
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理解した。
ここで
止めなければ、
問いは
二度と
生まれない。
だが――
止める理由は、
もう
どこにもない。
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窓の外。
学院の鐘が、
鳴る。
それは、
始業の鐘だ。
だが――
どこか、
葬送に
似ていた。
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