表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/48

第36話 血の命令

36話です。

呼び名が、

先に変わった。


「……閣下」


その声は、

懐かしかった。



野営地の端。

朝靄の中で、

一人の男が立っている。


背は低く、

肩は張っている。


軍服ではない。

だが、

姿勢が違う。


(……生きていたか)



「……久しぶりです」


男は、

頭を下げない。


下げる必要が、

ないからだ。


「……今は、

 何と呼べば」


「……閣下でいい」


短く答えた。


その一語で、

距離が決まる。



男は、

かつての教え子だった。


鉱山で、

数字の前に立っていた。


沈黙を、

学んだ。


同時に――

疑う癖も。



「……村の件で」


男が、

本題に入る。


「……拘束者が、

 戻っていません」


「……夜逃げも、

 増えています」


報告は、

冷静だ。


だが、

目は怒っている。



「……調査中だ」


事実ではない。


だが、

嘘でもない。


「……理由は」


問われて、

初めて気づく。


理由を、

 用意していない。



「……家名の

 安全だ」


そう答えた。


それで、

十分なはずだった。



男は、

一拍置く。


「……それは、

 命令ですか」


(……来た)



「……命令だ」


そう言った。


言葉は、

簡単だ。


簡単すぎて、

痛い。



「……誰の」


男は、

続ける。


「……国の」


「……家の」


「……それとも」


一歩、

踏み出す。


「……あなた自身の」



沈黙。


周囲の兵が、

緊張する。


一言で、

血が出る距離だ。



「……退け」


副官が、

小さく言う。


だが、

手は出さない。


(……出すな)


目で、

止めた。



「……答えろ」


男は、

視線を逸らさない。


「……何のために、

 村を

 締め付けた」



言葉が、

喉で止まる。


(……数字)


そう言えば、

終わる。


だが――

数字は、

今は盾にならない。



「……守るためだ」


ようやく、

そう言った。


「……誰を」


「……家を」


「……血縁を」



男は、

笑った。


短く。


「……それ、

 最初に

 教わりました」


「……守るために

 縛る」


「……縛るために

 黙らせる」


「……黙らせるために

 数字を使う」


(……覚えているか)



「……でも」


男は、

声を低くする。


「……最後に

 言ってました」


「……人を

 数字に

 するな」



胸の奥で、

何かが鳴る。


(……言ったな)


確かに。



「……今は違う」


そう答えた。


「……立場が」


「……違う」



「……立場が

 変われば」


男は、

言葉を切る。


「……正しさも

 変わるんですか」



答えは、

用意されていない。


(……命令だ)


それだけが、

確かだ。



「……退去命令を

 出す」


「……これ以上の

 詮索は、

 反逆に

 近い」


言葉が、

冷える。



男は、

一歩下がる。


だが、

目は下げない。


「……分かりました、

 閣下」


その呼び方が、

一番痛い。



「……一つだけ」


最後に、

言った。


「……血で

 命令するなら」


「……血で

 返されます」


脅しではない。


予告だ。



男は、

去る。


兵は、

動かない。


動く理由が、

ない。



天幕に戻る。


机の上に、

新しい文書。


「家名周辺

 反対派整理」


整理。


その言葉が、

すべてを包む。



ペンを取る。


一瞬、

止まる。


(……ここからだ)



署名する。


その瞬間、

自分の中で

線が引かれた。


過去と、

今。


教えと、

命令。



外で、

号令がかかる。


兵が、

動き出す。


沈黙は、

再び広がる。



理解した。


これは、

善悪の話ではない。


継承の話だ。


問いを、

どこで

捨てたか。



次に会うとき、

彼は

味方ではない。


だが――

敵とも

言い切れない。


その曖昧さが、

一番危険だ。



夜。


火が、

小さく揺れる。


その向こうで、

家名が

育っていく。


血で。


命令で。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ