第34話 血縁は、命令になる
34話です。
命令書は、
朝に届いた。
封は、
王家の色。
だが――
内容は、
家の話だった。
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準男爵閣下
婚姻候補に関する
安全確保を最優先とする
当該地域の不穏要素は
事前に排除せよ
排除。
軍事用語だ。
(……来たな)
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地図を広げる。
北部。
昨日、
制圧したばかりの
周辺村落。
そして――
婚姻候補の実家領。
(……同じ線だ)
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幕僚が、
静かに言う。
「……閣下、
この区域は
まだ不安定です」
「……反発は」
「……沈黙しています」
沈黙。
それは、
安全の証明でもあり、
爆薬の箱でもある。
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「……守る対象は」
「……家名です」
即答だった。
兵ではない。
民でもない。
血だ。
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指示は、
簡潔に出した。
「……監視を
強化」
「……集会は
事前に解散」
「……抵抗の兆しは
即時拘束」
誰も、
異議を唱えない。
異議は、
家名に向けられた
反逆になる。
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午後。
現地から、
報告。
「……農民が、
夜に
集まっています」
「……内容は」
「……分かりません」
(……分からない、
か)
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「……解散させろ」
「……理由は」
一瞬、
考える。
「……家の安全だ」
それだけで、
十分だった。
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夕方。
拘束者、
数名。
武器は、
なし。
罪状は、
曖昧。
だが――
家名の近くにいた。
それで、
足りる。
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「……閣下」
副官が、
低い声で言う。
「……過剰では」
その問いは、
個人的だった。
「……過剰かどうかは
結果で決まる」
答えは、
冷たい。
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夜。
私邸。
香りが、
また戻る。
婚姻候補が、
訪れていた。
「……お忙しい中」
声は、
穏やか。
だが――
目は、
知っている。
(……守られている)
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「……最近、
領地が
静かだと」
彼女は、
言う。
「……少し、
怖いくらい」
(……気づいているな)
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「……安心してください」
そう答えた。
「……全て、
把握しています」
嘘ではない。
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彼女は、
近づく。
匂立つ距離。
「……私の存在が、
重荷なら」
その言葉が、
一番重い。
「……いいえ」
即答だった。
「……役割です」
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その夜、
別の報告。
「……拘束者の一人が、
自害しました」
(……またか)
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理由は、
記録されない。
「恐怖による
混乱死」
いつもの言葉。
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翌朝。
王宮。
文官が、
満足そうに言う。
「……迅速な対応です」
「……家の安全は
国家の安定」
その等式が、
完成した。
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「……今後は」
続ける。
「婚姻候補の移動には
必ず軍の確認を」
「……承知しました」
拒否は、
存在しない。
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帰路。
馬車の中で、
考える。
(……いつからだ)
血を、
守るために
人を縛る。
それが、
自然になったのは。
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野営地。
兵が、
整列する。
彼らの視線は、
変わらない。
(……守る対象が
変わっただけだ)
沈黙は、
同じだ。
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夜。
机に、
新しい書類。
「家名周辺
常時警戒体制」
「軍配置
長期化」
紙を、
指でなぞる。
(……命令だな)
家が。
血が。
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窓の外。
村の灯りが、
遠い。
誰も、
声を上げない。
上げれば――
家名に触れる。
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理解した。
これは、
個人的な堕落ではない。
制度の完成だ。
血縁が、
命令になる。
命令が、
軍を動かす。
軍が、
沈黙を作る。
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そして、
その中心に
自分がいる。
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翌朝。
正式通達。
「準男爵家
保護強化」
「反対派貴族
沈静化」
成功だ。
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だが――
胸の奥で、
小さな音がした。
最初に破れた
あの声が、
また
遠くで
響いた気がした。
誤字脱字はお許しください。




