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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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31/52

第31話 最初に破れたのは、沈黙だった

31話です。

夜明け前、

霧が低く垂れていた。


野営地は、

驚くほど静かだ。


兵は、

動かない。


声も、

出さない。


(……よく仕上がっている)


沈黙は、

もう恐怖ではない。


手順だ。



幕僚が、

地図を広げる。


「……民兵は、

 村の中央に

 集結しています」


「武装は?」


「農具が主です」


「……統率は」


「……弱い」


弱い。


それは、

数字になる。


(……なら、

 やりようはある)



命令は、

短く出した。


「……囲め」


「……声を

 出すな」


それだけだ。


怒鳴る必要は、

ない。


沈黙は、

伝播する。



進軍。


兵の足音が、

霧に吸われる。


遠くで、

犬が吠えた。


それだけだ。



村に近づく。


民兵たちが、

ざわつく。


だが、

叫ばない。


(……慣れていないな)


恐怖が、

形になる前だ。



「……閣下」


副官が、

小声で言う。


「……民兵の中に、

 子供がいます」


一瞬、

胸が詰まる。


だが――

止まらない。


「……捕らえろ」


「……流血は

 避けろ」


矛盾した命令。


だが、

沈黙の中では

両立する。



最初に声を上げたのは、

兵ではなかった。


民兵の一人だ。


「……ふざけるな!」


怒号。


それだけで、

空気が割れる。


(……来た)



次の瞬間。


兵が、

一斉に動いた。


殴打。

拘束。


刃は、

抜かれない。


だが――

倒れる音が

続く。



「……やめろ!」


誰かが叫ぶ。


別の声が、

重なる。


恐怖が、

連鎖する。


沈黙は、

一瞬で崩れる。



「……制圧完了」


報告は、

淡々としていた。


負傷者。

数名。


死亡者。

ゼロ。


数字だけ見れば、

成功だ。



だが――

村の空気は、

死んでいた。


声が、

消えている。


泣き声すら、

上がらない。


(……鉱山と

 同じだ)



捕らえられた

民兵の代表が、

引き出される。


顔は、

怒りと恐怖で

歪んでいる。


「……閣下!」


叫ぶ。


「……俺たちは、

 悪くない!」


「……話せば

 分かる!」


(……話す、か)



「……数字を

 見ろ」


そう言った。


幕僚が、

板を掲げる。


収穫量。

徴税率。

未納分。


民兵の目が、

揺れる。


「……俺たちは、

 知らなかった」


「……誰も、

 教えなかった」


その言葉が、

胸に刺さる。



「……だからだ」


静かに言った。


「……知らないまま

 叫ぶと、

 こうなる」


脅しではない。


説明だ。



沈黙。


民兵の肩が、

落ちる。


「……帰れ」


そう告げた。


「……二度と、

 集まるな」



兵が、

引く。


村に、

沈黙だけが

残る。


勝利だ。


数字上は。



夜。


野営地。


祝杯は、

ない。


歓声も、

ない。


兵は、

規程通り

眠りにつく。


(……理想的だ)


そう思ってから、

違和感に

気づく。



「……閣下」


副官が、

ためらいがちに言う。


「……民兵の一人が、

 自害しました」


「……捕縛後です」


言葉が、

続かない。


「……理由は」


「……分かりません」


分からない。


だが、

分かっている。



天幕に、

戻る。


叙爵証書が、

机に置いてある。


その横に、

今日の報告書。


制圧成功。

犠牲最小。


完璧だ。



だが――

目を閉じると、

あの最初の叫びが

蘇る。


沈黙を破った、

あの声。


(……次は、

 どこで

 破れる)



外で、

兵が交代する音。


規則正しい。


世界は、

自分の命令で

動いている。


それは、

誇りだ。


同時に――

逃げ場がない。



夜明け前。


王都から、

伝令が来る。


「……勝利報告、

 確認されました」


「……殿下より」


一拍。


「お見事です、

 閣下」


短い言葉。


だが――

それで十分だ。



叙爵された者の

最初の戦いは、

成功として

処理された。


誰も、

異議を唱えない。


誰も、

責任を問わない。



沈黙が、

また一つ

広がった。


だが、

確かに覚えている。


最初に破れたのは、

敵の陣ではない。


人の声だった。


それを、

自分が

踏み越えた。


誤字脱字はお許しください。

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