表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/48

第29話 播かれるもの、動かされるもの

29話です

叙爵式の前夜、

王都は静かだった。


静かすぎて、

兵の足音が

よく響く。



「……準男爵殿」


そう呼ばれたのは、

その夜が初めてだった。


私邸の廊下。

近衛が、

自然な調子で言った。


(……もう、

 戻らないな)



通された部屋は、

小さく、

暖かい。


火が、

静かに燃えている。


「……お疲れでしょう」


声の主は、

以前会った

王族の遠縁。


年齢は、

測れない。


目だけが、

冷静だ。



卓上には、

地図が広げられている。


国境。

補給線。

駐屯地。


その横に、

家系図。


(……同じ扱いか)


「……軍は、

 動きます」


彼女は、

淡々と言った。


「北の辺境で、

 不穏な動き」


「……対応は」


「あなたの

 方式を使う」


沈黙。

数値。

遵守。


(……兵にも、

 家にも)



「……同時に」


彼女は、

一歩近づく。


火の匂い。

肌の匂い。


匂立つ空気。


「……血も、

 動かします」


言い切りだった。



「……理解していると

 思いますが」


彼女は、

視線を外さない。


「あなたは、

 もう個人ではない」


「……はい」


答えは、

短い。


「……家名が

 必要です」


「兵に、

 旗が必要なように」


(……象徴か)



扉の向こうで、

足音。


報告が入る。


「……北部軍、

 配置完了」


「補給線、

 安定」


軍事が、

順調だ。


「……よろしい」


彼女は、

満足そうに頷く。


「では――」


一拍。


「こちらも、

 準備を」



別室。


香りが、

変わる。


甘く、

重い。


昨夜の夜会より、

露骨だ。


そこにいるのは、

地方貴族の

若い女性。


衣装は、

控えめ。


だが――

豊満さは

隠れない。


視線が、

交わる。


言葉は、

いらない。


(……命令だな)



「……閣下」


彼女は、

そう呼んだ。


それだけで、

意味は通じる。


「……王家の

 許可は」


「……あります」


短い答え。


選択肢は、

ない。



外では、

軍が動いている。


内では、

血が動く。


どちらも、

国家のため。


どちらも、

個人の意思は

関係ない。



再び、

地図の部屋。


彼女が、

報告を読む。


「……初動は、

 成功」


「反発は、

 限定的」


「……あなたの

 方式は、

 兵にも効く」


(……効きすぎる)


だが、

口には出さない。



「……子が生まれれば」


彼女は、

さらりと言う。


「あなたは、

 完全に

 こちら側です」


完全。


その言葉が、

重い。


「……生まれなくても」


一拍。


「努力した

 という事実が

 重要」


努力。


その言葉が、

一番残酷だった。



夜明け前。


窓から、

兵の整列が見える。


静かだ。


完璧だ。


(……同じだな)


兵も、

血も。


管理され、

 期待され、

 消費される。



近衛が、

最後の報告。


「……叙爵式は、

 予定通り」


「……軍も、

 問題なし」


二つの報告が、

同時に来る。



一人になる。


衣服に、

まだ匂いが残る。


甘く、

重い。


それは、

夜の名残か。


それとも――

役割の匂いか。



机の上に、

新しい文書。


「準男爵叙爵

 最終確認」


「軍事顧問

 正式任命」


「家名登録

 仮」


三つが、

並ぶ。


(……同時だ)



ペンを取る。


署名する。


その瞬間、

外で

号令がかかる。


兵が、

動き出す。


そして――

血も、

動き始めた。



空が、

白む。


王都は、

今日も平和だ。


その裏で、

播かれ、

 動かされたものが

確かにある。


それが、

何を生むかは

まだ分からない。


だが――

引き返せないことだけは、

はっきりしていた。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ