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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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28/48

第28話 選ぶたびに、何かが死ぬ

28話です

朝、

目を覚ましたとき。


まだ、

匂いが残っていた。


甘く、

重く、

どこか湿った空気。


昨夜の夜会は、

夢ではない。



机の上に、

三通の書簡。


封の色が、

それぞれ違う。


赤。

青。

金。


(……三家か)


誰が出したかは、

見なくても分かる。



赤は、

地方貴族の家。


若い女性貴族の家系だ。


文面は、

柔らかい。


正式な婚姻ではなく

まずは後見という形で


お互いの理解を

深められれば


行間に、

匂いがある。


豊満な沈黙が、

紙越しに迫る。



青は、

王族遠縁。


簡潔。


家名を継ぐ必要はない


養子縁組を検討したい


立場は保証する


感情は、

ない。


その代わり、

逃げ場もない。



金は、

王宮。


紙質が違う。


殿下のご意向


特定の血縁に

偏らぬ形で


王家の庇護下に

入る可能性


庇護。


聞こえはいい。


だが――

誰のものでもない代わりに、

 完全に王家のものになる。



書簡を閉じる。


(……どれも、

 正解だ)


そして、

どれも――

終わりだ。



昼前。


王宮から、

非公式の呼び出し。


応接室には、

三人。


文官。

近衛。

そして――

名を名乗らない人物。


視線だけで、

分かる。


王族だ。



「……選択肢は、

 理解しているな」


「……はい」


「……急がせる

 つもりはない」


嘘だ。


時間は、

与えられない。


「……ただし」


王族が、

指を組む。


「選ばない、

 という選択肢はない」


空気が、

凍る。



「……理由は?」


一応、

聞いてみた。


「……人気が出すぎた」


即答。


「才能が、

 個人に

 属している状態は

 危険だ」


「……だから」


一拍。


「血か、

 庇護か、

 縛りを入れる」


(……同じだな)


鉱山と。


沈黙か、

管理か、

排除か。



部屋を出る。


廊下の窓から、

庭が見える。


穏やかだ。


だが、

その裏で

人は動く。



午後。


別の訪問者。


反対派の貴族だ。


「……噂は、

 聞いている」


声は、

低い。


「……血に

 組み込まれるか」


「……それとも、

 王家の犬になるか」


言葉が、

露骨だ。


「……どちらでも、

 構いませんが」


一拍。


「選ばなければ、

 消します」


脅しではない。


事務連絡だ。



夜。


私邸。


火を落とし、

一人で座る。


(……考えろ)


いつもなら、

数字を出す。


効率。

安定。

最適。


だが――

今回は、

数字が出ない。



ふと、

思い出す。


鉱山で、

天井の音を

口にしかけた

あの青年。


(……彼なら)


何を選ぶ。


答えは、

分からない。



書簡を、

もう一度並べる。


赤。

青。

金。


豊満な匂い。

冷たい保証。

完璧な支配。


どれも、

甘い。


どれも、

苦い。



そのとき。


小さな紙が、

机の端にあるのに

気づく。


夜会で、

誰かが

忍ばせたものだ。


開く。


選ばれる前に

自分で選べ


――友より


友。


その言葉が、

胸に刺さる。



(……自分で、

 選ぶ)


それは――

どれかを

拒否するという

意味ではない。


条件を、

 付けるということだ。



翌朝。


王宮へ。


文官と、

王族が待つ。


「……決めたか」


「……はい」


声は、

落ち着いていた。


「……どれだ」


「……条件付きで」


室内が、

静まる。


「……条件?」


「……血縁を、

 一つに

 限定しない」


ざわめき。


「……婚姻、

 養子、

 庇護」


「……どれか一つではなく」


一拍。


「段階的に、

 組み込む」


王族が、

目を細める。


「……欲張りだな」


「……学びました」


沈黙の使い方を。



数秒。


王族は、

笑った。


「……面白い」


それは、

了承ではない。


だが――

拒否でもない。


「……叙爵は、

 進めよう」


「準男爵位」


「血縁の話は、

 その後だ」



部屋を出る。


背中に、

視線が刺さる。


だが、

今はまだ

斬られない。



私邸に戻る。


新しい文書が、

届いている。


「準男爵叙爵

 準備正式化」


名前欄は、

空白だ。


(……名を、

 作るか)


血に与えられる前に。



窓を開ける。


王都の空気は、

今日も匂立つ。


欲望と、

期待と、

所有の匂い。


その中で、

自分は

一歩だけ

先に進んだ。


選んだ。


だが――

何かが、

確かに死んだ。


誤字脱字はお許しください。

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