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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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25/48

第25話 相談は、夜に来る

25話です。

最初の依頼は、

公式ではなかった。


昼間ではなく、

夜。


公文書ではなく、

手紙だった。



封筒に、

紋章はない。


だが、

紙の質で分かる。


「……貴族だな」


封を切る。


短い文面。


夜分、失礼する


王都南区の屋敷にて

非公式に話を聞きたい


――友人として


(……友人、か)


肩書きは、

書かれていない。


だが、

拒否権はない。



屋敷は、

静かだった。


門番は、

何も聞かない。


名前を告げると、

通された。


「……教育官殿」


迎えたのは、

中年の男。


服装は控えめ。

だが、

立ち方が違う。


(……地方貴族)


それも、

領地を持つ側だ。



応接室。


酒は出ない。


茶だけ。


「……突然、

 呼び立てて

 申し訳ない」


「……構いません」


男は、

少しだけ間を置いてから

本題に入った。


「……領地で、

 問題が起きている」


「……反乱ですか」


「いや」


即答。


「不満です」


(……一番厄介だ)



話は、

よくあるものだった。


年貢。

徴税。

労役。


どれも、

制度上は正しい。


だが、

農民は不満を持つ。


「……軍を出せば、

 鎮まる」


男は、

そう言った。


「……だが、

 それは最後にしたい」


(……賢い)


「……あなたなら、

 どうしますか」


ここで、

初めて分かった。


これは、

命令ではない。


相談だ。



「……声を、

 集めません」


そう答えた。


男が、

眉を上げる。


「……話し合い、

 という意味では

 ありません」


続ける。


「……数を、

 見せます」



翌日。


領地に向かう。


随行は、

最小限。


農村は、

静かだった。


だが、

視線は刺さる。


(……鉱山と同じだ)



最初にやったのは、

説得ではない。


掲示板だった。


・今年の収穫量

・徴収予定量

・不足分


村ごとに、

数字を出す。


「……なぜ、

 見せる」


男が聞く。


「……誰も、

 全体を

 見ていないからです」



二日目。


農民たちが、

掲示板の前に集まる。


誰も、

文句を言わない。


だが、

計算している。


三日目。


村同士で、

小さな動きが出る。


「……こっちは、

 余る」


「……あっちは、

 足りない」


声は、

小さい。


だが、

確かだ。



「……手を出さなくて、

 いいんですか」


男が、

不安そうに言う。


「……はい」


そう答えた。


「……動かせば、

 反発が出ます」


「……動かさなければ、

 勝手に調整が

 始まります」



一週間後。


不足は、

消えた。


完全ではない。


だが、

暴発もしない。


「……奇妙だな」


男が、

呟く。


「……誰も、

 逆らっていない」


「……逆らう理由が、

 なくなっただけです」



王都に戻る。


数日後、

別の手紙。


今度は、

紋章付き。


「……増えたな」


内容は、

似ている。


・領地経営

・工房の揉め事

・使用人の管理


すべて、

武力では解決したくない案件。



夜。


書斎で、

一人考える。


(……使われ始めた)


軍でもない。

工房でもない。


貴族の私生活に。


それは、

意味が違う。


「……先生」


書記官が、

控えめに言う。


「……王宮から、

 内々に

 問い合わせが」


(……来たか)



数日後。


王宮の、

小さな控えの間。


王族は、

現れない。


代わりに、

近衛の一人。


「……殿下は、

 あなたを

 “便利”だと

 評価されています」


便利。


それは、

最大級の称賛だ。


「……近く、

 正式な

 地位を

 与える可能性がある」


「……ただし」


視線が、

鋭くなる。


「貴族としての

 責任を

 負えるか」


(……責任)


数字では、

処理できない。


だが――

断れない。


「……はい」


そう答えた。



屋敷を出る。


夜風が、

冷たい。


(……次は、

 肩書きじゃない)


身分だ。


鉱山の教育官は、

もう遠い。


気づけば、

貴族と王族の間に

立たされている。


そして――

その位置こそが、

一番逃げられない。



翌朝。


机に、

新しい文書。


「叙爵準備に関する

 予備調査」


まだ、

称号はない。


だが、

道は敷かれた。


ペンを取る。


署名する。


また一段、

階段を上った。

誤字脱字はお許しください。

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