表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/52

第24話 技術は、静かに殺される

24話です

都市工房は、

鉱山とも軍とも違う。


怒鳴り声は少ない。

命令も、少ない。


代わりにあるのは、

誇りだった。



「……納期が、守られません」


工房長は、

疲れ切った顔で言った。


「技術は、

 王都随一です」


「ですが……

 作業が止まる」


「……理由は?」


そう聞くと、

工房長は言い淀む。


「……衝突です」


「職人同士の」



工房に入ると、

空気が張り付く。


金属音。

火花。

沈黙。


誰も、

目を合わせない。


だが、

敵意はある。


「……派閥が?」


「……はい」


工房長は、

小さく頷いた。


「伝統派と、

 新技術派」


「どちらも、

 腕は確かです」


(……だから厄介だ)



衝突の原因は、

単純だった。


「……あいつらは、

 手順を省く」


「……危険だ」


「……古いやり方に、

 固執している」


「……効率が悪い」


どちらも、

正しい。


どちらも、

間違っている。


そして――

どちらも、

 譲らない。



初日にやったことは、

説得ではない。


会議でもない。


評価基準の変更だった。



掲示板を、

工房の中央に置く。


そこに、

三つだけ書く。


・作業時間

・不良率

・再加工率


名前は、

書かない。


流派も、

書かない。


ただ、

数値だけを書く。



「……これは?」


職人の一人が、

眉をひそめる。


「……評価です」


そう答えた。


「……技術を、

 数字で測ると?」


「……測れます」


即答した。


「……測れない技術は、

 再現できません」


空気が、

少し冷える。



二日目。


数値が、

並び始める。


伝統派。

作業時間、長い。

不良率、低い。


新技術派。

作業時間、短い。

不良率、やや高い。


誰も、

口に出さない。


だが、

全員が見ている。



三日目。


数値が、

微妙に変わる。


伝統派が、

わずかに作業時間を縮める。


新技術派が、

不良率を下げる。


誰も、

話し合っていない。


数字が、

 命令している。



「……教育官」


工房長が、

小声で言う。


「……喧嘩が、

 なくなりました」


「……作業は?」


「……止まりません」


「……納期は?」


「……守れています」


それで、

十分だった。



五日目。


掲示板の前に、

職人が集まる。


言葉はない。


だが、

目の動きが変わった。


敵を見る目から、

数値を見る目へ。



七日目。


一人の職人が、

ぽつりと言った。


「……どっちが、

 正しいかじゃないな」


誰も、

否定しない。



「……教育官殿」


工房長が、

報告書を持ってくる。


「……生産効率、

 三割改善」


「……不良率、

 半減」


「……衝突、

 ゼロ」


王都への報告には、

十分すぎる。



だが――

工房を見渡して、

違和感が残る。


(……静かすぎる)


冗談がない。

怒号もない。


議論もない。


あるのは、

最適な動きだけだ。



「……先生」


若い職人が、

声をかけてくる。


「……前は、

 自分のやり方を

 誇れました」


「……今は?」


「……間違えない方を、

 選びます」


それは、

不満ではない。


安心だ。



夜。


王都から、

正式な評価が届く。


「都市工房

 安定稼働達成」


「対立構造解消」


「模範事例として

 他工房へ展開」


辞令が、

添えられている。


「産業監査官」


肩書きが、

また増えた。



机に戻る。


今日の報告書を、

書く。


「職人の自主性は、

 数値によって

 自然に収束した」


嘘ではない。


だが――

書かなかったことがある。


誇りが、

 消えたこと。



窓の外。


工房の灯りが、

整然と並ぶ。


美しい。


無駄がない。


(……次は、

 どこだ)


答えは、

もう来ている。


机の端に、

次の封筒。


「下層街

 治安改善要請」


(……次は、人だな)


物でも、

技術でもない。


人そのものを、

 最適化する番だ。


ペンを取る。


署名する。


また一段、

階段を上った。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ