第24話 技術は、静かに殺される
24話です
都市工房は、
鉱山とも軍とも違う。
怒鳴り声は少ない。
命令も、少ない。
代わりにあるのは、
誇りだった。
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「……納期が、守られません」
工房長は、
疲れ切った顔で言った。
「技術は、
王都随一です」
「ですが……
作業が止まる」
「……理由は?」
そう聞くと、
工房長は言い淀む。
「……衝突です」
「職人同士の」
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工房に入ると、
空気が張り付く。
金属音。
火花。
沈黙。
誰も、
目を合わせない。
だが、
敵意はある。
「……派閥が?」
「……はい」
工房長は、
小さく頷いた。
「伝統派と、
新技術派」
「どちらも、
腕は確かです」
(……だから厄介だ)
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衝突の原因は、
単純だった。
「……あいつらは、
手順を省く」
「……危険だ」
「……古いやり方に、
固執している」
「……効率が悪い」
どちらも、
正しい。
どちらも、
間違っている。
そして――
どちらも、
譲らない。
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初日にやったことは、
説得ではない。
会議でもない。
評価基準の変更だった。
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掲示板を、
工房の中央に置く。
そこに、
三つだけ書く。
・作業時間
・不良率
・再加工率
名前は、
書かない。
流派も、
書かない。
ただ、
数値だけを書く。
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「……これは?」
職人の一人が、
眉をひそめる。
「……評価です」
そう答えた。
「……技術を、
数字で測ると?」
「……測れます」
即答した。
「……測れない技術は、
再現できません」
空気が、
少し冷える。
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二日目。
数値が、
並び始める。
伝統派。
作業時間、長い。
不良率、低い。
新技術派。
作業時間、短い。
不良率、やや高い。
誰も、
口に出さない。
だが、
全員が見ている。
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三日目。
数値が、
微妙に変わる。
伝統派が、
わずかに作業時間を縮める。
新技術派が、
不良率を下げる。
誰も、
話し合っていない。
数字が、
命令している。
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「……教育官」
工房長が、
小声で言う。
「……喧嘩が、
なくなりました」
「……作業は?」
「……止まりません」
「……納期は?」
「……守れています」
それで、
十分だった。
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五日目。
掲示板の前に、
職人が集まる。
言葉はない。
だが、
目の動きが変わった。
敵を見る目から、
数値を見る目へ。
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七日目。
一人の職人が、
ぽつりと言った。
「……どっちが、
正しいかじゃないな」
誰も、
否定しない。
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「……教育官殿」
工房長が、
報告書を持ってくる。
「……生産効率、
三割改善」
「……不良率、
半減」
「……衝突、
ゼロ」
王都への報告には、
十分すぎる。
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だが――
工房を見渡して、
違和感が残る。
(……静かすぎる)
冗談がない。
怒号もない。
議論もない。
あるのは、
最適な動きだけだ。
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「……先生」
若い職人が、
声をかけてくる。
「……前は、
自分のやり方を
誇れました」
「……今は?」
「……間違えない方を、
選びます」
それは、
不満ではない。
安心だ。
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夜。
王都から、
正式な評価が届く。
「都市工房
安定稼働達成」
「対立構造解消」
「模範事例として
他工房へ展開」
辞令が、
添えられている。
「産業監査官」
肩書きが、
また増えた。
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机に戻る。
今日の報告書を、
書く。
「職人の自主性は、
数値によって
自然に収束した」
嘘ではない。
だが――
書かなかったことがある。
誇りが、
消えたこと。
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窓の外。
工房の灯りが、
整然と並ぶ。
美しい。
無駄がない。
(……次は、
どこだ)
答えは、
もう来ている。
机の端に、
次の封筒。
「下層街
治安改善要請」
(……次は、人だな)
物でも、
技術でもない。
人そのものを、
最適化する番だ。
ペンを取る。
署名する。
また一段、
階段を上った。
誤字脱字はお許しください。




