第22話 軍は、考えなくていい
22話です
軍訓練所は、
鉱山よりも
よく整っていた。
床は平ら。
天井は高い。
人は多い。
そして――
声が大きい。
「動け!」
「遅い!」
「気合を入れろ!」
怒鳴り声が、
空気を切り裂く。
(……無駄だな)
そう思った瞬間、
自分はもう
こちら側の人間だと理解した。
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「教育官殿」
訓練所長が、
深く礼をする。
「兵の規律に
問題がありまして」
「脱走。
私闘。
命令無視」
「……数字は?」
即座に聞いた。
所長は、
一瞬だけ詰まる。
「……把握しておりません」
(……だろうな)
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初日。
自分は、
訓練を止めた。
怒鳴るな。
走らせるな。
罰を与えるな。
兵たちは、
困惑する。
「……命令は?」
そう聞かれた。
「……待て」
それだけ答えた。
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二日目。
掲示板が設置される。
・命令遵守率
・遅延件数
・違反回数
兵の名前は、
書かない。
数字だけを書く。
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三日目。
怒鳴り声が、
消えた。
四日目。
私闘が、
止まった。
五日目。
脱走が、
なくなった。
理由は簡単だ。
考える意味が、
なくなったからだ。
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一週間後。
訓練所長が、
報告書を持ってくる。
「……遵守率、
九八%です」
声が、
震えている。
「……暴発、
ゼロ」
「……奇跡だ」
誰かが、
そう呟いた。
(……違う)
奇跡ではない。
最適化だ。
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王都への報告。
「軍訓練所、
安定運用に成功」
「脱走率、
過去最低」
「兵の統率、
前例なし」
拍手。
称賛。
その場で、
辞令が出る。
「軍教育顧問」
肩書きが、
一つ増えた。
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夜。
宿舎で、
一人になる。
窓の外で、
兵が整列している。
静かだ。
完璧だ。
(……もう、
戻れないな)
だが、
後悔はない。
ここまで来た。
ここまで
評価されてしまった。
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翌朝。
次の要請が、
届く。
「補給部隊に
問題あり」
封筒の重みが、
昨日より重い。
(……次は、
物流か)
理解している。
どこでも同じだ。
人がいる限り、
沈黙は
効率を上げる。
ペンを取る。
署名する。
また一段、
階段を上った。
誤字脱字はお許しください。




