第21話 拍手は、先に来る
21話です。
王都は、
音が多かった。
馬車の軋み。
呼び声。
金属が擦れる音。
坑道の沈黙に慣れた耳には、
すべてが騒がしすぎる。
「……教育官殿」
案内役が、
一歩先を歩く。
背筋は伸び、
歩幅は一定。
(……慣れている)
この場所に。
「本日は、
短い式典がございます」
「式典?」
「はい。
成功事例の共有です」
成功。
その言葉が、
空気のように流れる。
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広間は、
明るかった。
高い天井。
磨かれた床。
壁には、
王家の紋章。
並ぶのは、
貴族、官僚、軍服。
視線が、
一斉に集まる。
(……見世物だな)
だが、
拒否はできない。
「――鉱山教育官、
前へ」
名を呼ばれ、
一歩進む。
拍手が、
起きた。
思ったより、
大きい。
「……素晴らしい成果だ」
老いた官僚が、
満足そうに言う。
「死亡率の低下。
秩序の回復。
生産の安定」
数字が、
祝辞になる。
「恐怖を抑え、
理性で現場を動かした」
理性。
その言葉に、
小さな違和感が走る。
(……違う)
だが、
訂正はしない。
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続いて、
質問が始まる。
「規程遵守率は?」
「現場の反発は?」
「処罰の基準は?」
どれも、
前提が同じだ。
正しいに決まっている。
「……反発は、
ありません」
事実だ。
「……命令は、
どのように浸透させた?」
一瞬、
間が空く。
「……明確に、
示しました」
それ以上、
言わない。
沈黙が、
最短の説明だ。
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式典が終わる頃。
一人の男が、
近づいてきた。
軍服。
装飾は、
控えめ。
だが、
目が違う。
「……教育官」
低い声。
「あなたの方法、
戦場でも使えますか」
周囲が、
静まる。
(……早いな)
「……前提が、
異なります」
逃げではない。
事実だ。
男は、
微笑んだ。
「前提は、
作れます」
その一言で、
場の空気が変わる。
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別室。
重い扉が、
閉まる。
「……率直に言おう」
軍人は、
椅子に座る。
「我々は、
命令を待つ兵を
欲している」
「考える兵は、
高価だ」
「だが、
従う兵は、
安定している」
言葉が、
刺さる。
「……あなたのやり方は、
後者を量産できる」
(……量産)
「……兵は、
坑夫とは違います」
「同じだ」
即答。
「恐怖、
時間、
数字」
「人は、
それで動く」
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廊下に出る。
胸が、
少し苦しい。
(……見抜かれている)
だが、
評価されている。
「……教育官殿」
別の声。
振り向くと、
若い貴族。
服は、
派手。
目は、
計算している。
「あなたの方法、
下層街の治安にも
使えますよね」
「……治安?」
「ええ。
黙らせるのは、
得意でしょう?」
拍手は、
もう聞こえない。
代わりに、
期待の視線が
まとわりつく。
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夜。
宿舎の部屋。
窓の外で、
王都が光る。
綺麗だ。
「……先生」
扉の外。
王都付きの
書記官だ。
「……明日から、
面談が続きます」
「軍。
工房。
治安部局」
「……休みは?」
「……ありません」
そうだろう。
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机に、
新しい資料。
「応用可能性一覧」
項目が、
並ぶ。
・軍
・都市労働
・治安維持
・囚人管理
(……全部だ)
自分が作ったのは、
教育ではない。
沈黙を生む技術だ。
それが、
理解されてしまった。
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ふと、
鉱山の新人を思い出す。
天井の音を、
口にしかけた青年。
(……彼は、
今も黙っている)
その沈黙が、
王都まで届いた。
届いてしまった。
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翌朝。
最初の正式要請が、
机に置かれる。
「軍訓練所
試験導入」
署名欄。
ためらいは、
短い。
断れば、
別の誰かがやる。
断らなければ、
自分がやる。
どちらにしても、
広がる。
なら――
ペンを取る。
署名をする。
その瞬間、
拍手はない。
だが、
確信がある。
ここから先は、
もう戻らない。
王都の朝は、
明るい。
沈黙は、
今日も
拡張されていく。
誤字脱字はお許しください。




