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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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21/50

第21話 拍手は、先に来る

21話です。

王都は、

音が多かった。


馬車の軋み。

呼び声。

金属が擦れる音。


坑道の沈黙に慣れた耳には、

すべてが騒がしすぎる。


「……教育官殿」


案内役が、

一歩先を歩く。


背筋は伸び、

歩幅は一定。


(……慣れている)


この場所に。


「本日は、

 短い式典がございます」


「式典?」


「はい。

 成功事例の共有です」


成功。


その言葉が、

空気のように流れる。



広間は、

明るかった。


高い天井。

磨かれた床。

壁には、

王家の紋章。


並ぶのは、

貴族、官僚、軍服。


視線が、

一斉に集まる。


(……見世物だな)


だが、

拒否はできない。


「――鉱山教育官、

 前へ」


名を呼ばれ、

一歩進む。


拍手が、

起きた。


思ったより、

大きい。


「……素晴らしい成果だ」


老いた官僚が、

満足そうに言う。


「死亡率の低下。

 秩序の回復。

 生産の安定」


数字が、

祝辞になる。


「恐怖を抑え、

 理性で現場を動かした」


理性。


その言葉に、

小さな違和感が走る。


(……違う)


だが、

訂正はしない。



続いて、

質問が始まる。


「規程遵守率は?」


「現場の反発は?」


「処罰の基準は?」


どれも、

前提が同じだ。


正しいに決まっている。


「……反発は、

 ありません」


事実だ。


「……命令は、

 どのように浸透させた?」


一瞬、

間が空く。


「……明確に、

 示しました」


それ以上、

言わない。


沈黙が、

最短の説明だ。



式典が終わる頃。


一人の男が、

近づいてきた。


軍服。

装飾は、

控えめ。


だが、

目が違う。


「……教育官」


低い声。


「あなたの方法、

 戦場でも使えますか」


周囲が、

静まる。


(……早いな)


「……前提が、

 異なります」


逃げではない。

事実だ。


男は、

微笑んだ。


「前提は、

 作れます」


その一言で、

場の空気が変わる。



別室。


重い扉が、

閉まる。


「……率直に言おう」


軍人は、

椅子に座る。


「我々は、

 命令を待つ兵を

 欲している」


「考える兵は、

 高価だ」


「だが、

 従う兵は、

 安定している」


言葉が、

刺さる。


「……あなたのやり方は、

 後者を量産できる」


(……量産)


「……兵は、

 坑夫とは違います」


「同じだ」


即答。


「恐怖、

 時間、

 数字」


「人は、

 それで動く」



廊下に出る。


胸が、

少し苦しい。


(……見抜かれている)


だが、

評価されている。


「……教育官殿」


別の声。


振り向くと、

若い貴族。


服は、

派手。


目は、

計算している。


「あなたの方法、

 下層街の治安にも

 使えますよね」


「……治安?」


「ええ。

 黙らせるのは、

 得意でしょう?」


拍手は、

もう聞こえない。


代わりに、

期待の視線が

まとわりつく。



夜。


宿舎の部屋。


窓の外で、

王都が光る。


綺麗だ。


「……先生」


扉の外。


王都付きの

書記官だ。


「……明日から、

 面談が続きます」


「軍。

 工房。

 治安部局」


「……休みは?」


「……ありません」


そうだろう。



机に、

新しい資料。


「応用可能性一覧」


項目が、

並ぶ。


・軍

・都市労働

・治安維持

・囚人管理


(……全部だ)


自分が作ったのは、

教育ではない。


沈黙を生む技術だ。


それが、

理解されてしまった。



ふと、

鉱山の新人を思い出す。


天井の音を、

口にしかけた青年。


(……彼は、

 今も黙っている)


その沈黙が、

王都まで届いた。


届いてしまった。



翌朝。


最初の正式要請が、

机に置かれる。


「軍訓練所

 試験導入」


署名欄。


ためらいは、

短い。


断れば、

別の誰かがやる。


断らなければ、

自分がやる。


どちらにしても、

広がる。


なら――


ペンを取る。


署名をする。


その瞬間、

拍手はない。


だが、

確信がある。


ここから先は、

 もう戻らない。


王都の朝は、

明るい。


沈黙は、

今日も

拡張されていく。

誤字脱字はお許しください。

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