表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/50

第20話 成功例として、呼ばれる

20話です

知らせは、

祝賀の言葉と一緒に届いた。


「……王都から、

 使者が来る?」


監督官の声には、

隠しきれない高揚があった。


「鉱山の死亡率低下が、

 正式に評価された」


紙を差し出される。


封蝋付き。

王家の紋章。


(……来たか)


遅すぎるくらいだ。



使者は、

昼過ぎに現れた。


服は上等。

靴に、

坑道の汚れはない。


「……教育官殿」


深く、

丁寧な礼。


「あなたの成果は、

 すでに王都で

 話題になっています」


話題。


その言葉が、

胸の奥で

鈍く鳴る。


「……事故は減り、

 生産量は安定」


「労働者の統率も、

 極めて良好」


使者は、

数字を読み上げる。


どれも、

正しい。


「……素晴らしい」


その一言で、

周囲の空気が

わずかに緩む。



「王都では、

 あなたの手法を

 “模範例”として

 紹介する予定です」


「……模範、ですか」


「はい」


即答。


「無駄な混乱を排し、

 合理的に命を守る」


「理想的な

 教育行政です」


その言葉に、

誰も反論しない。


反論する理由が、

ない。



現場視察。


坑道を歩く。


使者は、

驚いた顔をする。


「……静かですね」


「ええ」


監督官が、

誇らしげに答える。


「全員、

 規程を理解しています」


坑夫たちは、

頭を下げる。


声は出さない。


質問もしない。


完璧な光景だ。


「……素晴らしい」


使者は、

何度もそう言った。



医療所。


「……負傷者は?」


「……最低限です」


数字が、

答える。


「……恐怖による

 混乱がないのが、

 最大の成果ですね」


恐怖。


その言葉を、

使者は

肯定的に使った。


(……ああ)


そうだ。


恐怖は、

最も効率のいい

教育だ。



夜。


簡素な祝宴。


酒。

拍手。

称賛。


「……教育官殿」


使者が、

杯を掲げる。


「あなたの方法は、

 鉱山だけのものではない」


その言葉で、

場が静まる。


「……王都では、

 軍・工房・下層街でも

 応用可能だと

 考えています」


(……軍)


胸の奥が、

はっきりと冷えた。


「……多くの命を、

 救えるでしょう」


使者は、

微笑む。


「そのために、

 ぜひ――」


言葉を切り、

はっきり告げる。


「王都へ来ていただきたい」



沈黙。


誰も、

声を出さない。


皆が、

こちらを見ている。


期待。

誇り。

羨望。


そして――

理解していない目。


「……光栄です」


そう答えた。


それ以外の

言葉は、

存在しない。



その夜。


一人、

部屋に戻る。


窓の外で、

鉱山が

静かに動いている。


完璧な秩序。


完璧な沈黙。


(……広がるな)


ここだけでは

終わらない。


このやり方は、

便利すぎる。


だから、

必ず広がる。


「……先生」


扉の外。


あの新人の声だ。


「……王都へ

 行くんですか」


「……ああ」


短く答える。


「……すごいですね」


純粋な声。


「……皆、

 助かりますよね」


その問いに、

すぐ答えられなかった。


「……多くは」


そう言った。


嘘ではない。


「……良かった」


彼は、

安心したように言った。


足音が、

遠ざかる。



一人になる。


机の上に、

王都行きの書類。


署名欄が、

空いている。


(……選ばれたな)


自分が。


教育官として。

成功例として。


そして――

沈黙を作る者として。


ペンを取る。


署名をする。


その瞬間、

理解した。


これは、

昇進ではない。


拡大だ。


鉱山で起きたことが、

次は――

都市で起きる。


軍で起きる。


国家で起きる。


その中心に、

自分が立つ。


それを、

誰よりも

分かっていながら。


止めなかった。



掲示板。


翌朝、

新しい紙が貼られる。


「教育官

 王都出向」


「暫定代行

 配置」


誰も、

騒がない。


沈黙は、

もう習慣だ。


坑道は、

今日も静かだ。


そして――

この静けさが、

 世界に広がろうとしている。

誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ