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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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第2話 死体をどかすか、数を減らすか

第二話です

坑道の闇は、静かすぎた。


人が十三人生きているとは思えないほど、

音が少ない。


誰も喋らない。

誰も泣かない。


代わりに聞こえるのは、

浅く、早い呼吸音だけだった。


(……このままだと、もたない)


理由は説明できない。

だが、確信だけがある。


空気が足りない。

それ以上に――時間が足りない。


「……聞け」


自分の声は、思ったよりも遠くまで通った。


「今から、順番を決める」


誰かが息を詰める音がした。


「順番……?」


「喋るな。聞くだけでいい」


言葉を重ねると、空気を使う。

それだけで、誰かが死ぬ。


「まず、動けるやつと、動けないやつを分ける」


間。


「返事はいらない。

 動けないやつは、今の位置で指を動かせ」


闇の中で、

かすかな擦れる音がいくつかした。


石に爪が当たる音。

肉が押し潰される音。


(……五)


多分。

正確ではない。


「動けるやつは、そのままじっとしろ」


沈黙。


誰も動かない。

少なくとも、そう信じたかった。


「次だ」


喉が乾く。

だが、止まらない。


「……出血してるやつ」


一瞬、躊躇が走った。


だが、ここで止まれば、全員が死ぬ。


「返事は要らない。

 血が止まってないやつは、一度だけ息を強く吐け」


――ふうっ。


――はぁ。


――ひゅっ。


音は、三つ。


最後の一つは、

肺が潰れている音だった。


(……三)


十三人生きている。

そのうち五人が動けない。

三人が致命傷。


残りは、

今は生きているだけの人間だ。


「……なあ」


誰かが、震える声で言った。


「助かるんだよな……?」


答えは、分からない。


だが、分からないと言えば、

全員が無駄に動き出す。


「助かる確率を上げる」


そう言った。


嘘ではない。

だが、全員とは言っていない。


「今からやるのは、二つだ」


自分は続けた。


「一つ。

 邪魔なものをどかす」


誰かが、息を呑んだ。


「もう一つ。

 ……数を減らす」


「……は?」


声が上ずった。


「何言って……」


「喋るな」


声が冷たくなっているのが、自分でも分かった。


「死体だ」


はっきり言った。


「頭が潰れたやつがいる。

 胴体も、もう動かない」


誰かが、嗚咽を漏らした。


「その死体が、通路を塞いでる。

 どかせば、空間ができる」


「……無理だ……」


「だから、選べ」


言葉が、坑道に落ちる。


「死体をどかすか、

 それとも――」


一拍置いた。


「空気を使う人数を減らすか」


沈黙。


重い沈黙。


「……そんなの、選べるわけねぇ……」


誰かが言った。


その声は、

まだ“人間”だった。


「選ばなければ、全員死ぬ」


淡々と言った。


感情を入れると、判断が遅れる。


「死体を動かすには、三人は必要だ。

 時間もかかる」


頭の中で、

見えない図を描く。


「その間、出血してる三人は――

 多分、持たない」


誰も返事をしない。


「……逆に」


自分の声が、少しだけ低くなる。


「今、動けない五人のうち、

 一人を諦めれば」


息を吸う音が、重なった。


「残りは、生き延びる確率が上がる」


「やめろ……」


誰かが、必死に言った。


「……人殺しだ……」


(違う)


そう言いかけて、やめた。


違わない。


これは、

殺しの話だ。


「……決めろ」


時間を与えない。


与えれば、感情が勝つ。


「俺が決めてもいい。

 だが、それは――」


少しだけ、間を置く。


「ここにいる全員が、俺を一生恨む選択だ」


沈黙が、さらに重くなる。


そのとき。


「……俺だ」


低い声。


「俺、動けねぇ」


指を動かした音がした。


「腹、刺さってる……

 もう、息が……」


誰かが、泣き声を上げた。


「……静かにしろ」


その男は、そう言った。


「うるせぇと……

 余計に……苦しい……」


空気が、止まった。


「……先生」


誰かが、初めてそう呼んだ。


「どうすりゃ……いい」


答えは、もう出ている。


だが、それを口に出した瞬間、

何かが戻れなくなる。


自分は、目を閉じた。


闇しかないのに。


「……順番を、決める」


そう言った。


坑道の中で、

教育は、最初の犠牲を選んだ。


誤字脱字はお許しください。

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