表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/51

第17話 それでも、罰は下る

17話です。

罰は、

怒鳴り声では来なかった。


説明も、

説教もない。


ただ、

数字が一つ、書き換えられただけだった。



会議室。


記録官が、

淡々と板を指す。


「第三坑道、

 事故未然防止一件」


一拍。


「……ただし」


視線が、

こちらに向く。


「規程外判断」


その一言で、

空気が締まった。


「……結果は、

 良好でした」


現場監督が、

慎重に口を挟む。


「崩落は防げています」


「結果の話ではない」


記録官は、

即座に返す。


「手順の話です」


(……来た)


予想は、

していた。


だが、

胸の奥が、

静かに重くなる。


「教育官」


監督官が、

こちらを見る。


「君は、

 現場作業員の“違和感”を

 判断材料にした」


「……はい」


「それは、

 規程にない」


「……今後、

 前例になる」


前例。


それは、

制度にとって

最も嫌われる言葉だ。



処分は、

軽かった。


少なくとも、

表向きは。


「教育官の

 単独判断権を制限」


「今後、

 規程外判断は

 監督官承認を要する」


「……以上だ」


紙が、

配られる。


誰も、

こちらを見ない。


(……軽いな)


そう思った瞬間、

理解する。


これは、

首輪だ。


噛み付く必要もない。

引くだけで、

首が締まる。



現場。


第三坑道。


昨日まで、

視線を向けてきた坑夫たちが、

今日は、

目を逸らしている。


「……先生」


昨日の新人が、

小さく頭を下げる。


「……昨日は……

 ありがとうございました」


声が、

震えている。


「……でも」


言葉を、

続けなかった。


続けられない。


(……分かってる)


感謝は、

危険だ。


関わったと、

記録される。


「……気にするな」


そう言った。


それしか、

言えなかった。



午後。


第二坑道で、

小規模な事故。


判断は、

割れた。


「……教育官、

 どうします」


現場監督の声。


以前なら、

即答していた。


だが――


「……監督官に、

 確認を」


その一言で、

数分が失われる。


返事を待つ間、

天井が、

きしむ。


「……教育官」


監督官から、

返ってくる。


「規程通り、待て」


その瞬間、

胸の奥で、

はっきりと何かが折れた。


「……了解」


返事は、

静かだった。


結果。


軽傷二名。


数字上は、

問題ない。


だが――


「……昨日なら……」


誰かが、

呟いた。


誰も、

続けない。


続ければ、

疑いになる。



夜。


机に、

新しい通達。


「規程外判断の

 影響評価」


読めば、

分かる。


昨日の判断は、

 “危険行為”として

 整理されている。


(……そうか)


救った事実は、

消される。


残るのは、

逸脱だけだ。


「……先生」


扉の外。


監督官の声。


「……今回の件だが」


言葉を、

選んでいる。


「……君の判断は、

 人心を揺らす」


「……だが」


一拍。


「完全に止めるわけにはいかない」


(……利用する気だな)


「……君には、

 現場の“異物”として

 残ってもらう」


異物。


それは、

排除される前段階。


「……分かりました」


そう答えた。



一人になる。


机の上の規程書を、

開く。


昨日、

自分が書き足した一文。


「現場報告は、

 教育官が直接確認する」


その横に、

赤い印。


「※例外的措置

 要承認」


(……殺されたな)


言葉が。


意味が。


だが、

完全には消えていない。


赤い印が、

逆に示している。


そこに、

 火種があると。



坑道の奥。


人は、

今日も働いている。


考えながら。

だが、

声を出さずに。


自分は、

その中心にいる。


制度の側で。

だが、

完全には溶けきらずに。


(……罰は、下った)


だが――


消されたわけじゃない。


それが、

一番厄介だ。


善意を、

殺しきらない。


希望を、

残したまま縛る。


制度が、

最も得意とするやり方だ。


机に手を置く。


逃げ道は、

ない。


だが――

戻り道も、

完全には消えていない。


その狭い隙間に、

自分が立っている。


それが、

次に起きる地獄の

前兆だと、

もう分かっていた。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ