表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/50

第14話 沈黙は、最適解になる

14話です

変わったのは、

事故の数ではなかった。


変わったのは、

音だ。


坑道が、静かになった。


工具の音はある。

足音もある。

だが――


人の声が、減った。


「……今日の配置、確認したか」


「……ああ」


それ以上、会話が続かない。


冗談も、愚痴も、

相談もない。


皆、

命令を思い出す必要がないからだ。


(……広がったな)


自分は、

掲示板の前に立っていた。


配置表。

遵守率。

危険度。


数字が、

すべてを説明している。


説明している“ように”

見える。



「……教育官」


監督官が、

低い声で呼ぶ。


「最近、

 現場からの質問が減った」


「……良いことでは?」


そう返す。


監督官は、

一瞬だけ考える。


「……そうだな」


だが、

納得していない。


「指示待ちが、

 増えている」


(……当然だ)


指示を待てば、

責任を取らずに済む。


逆らわなければ、

切られない。


「……事故は?」


「減っている」


数字が、

そう言っている。


「……では、

 問題ない」


自分は、

そう結論づけた。


監督官は、

黙って頷いた。



その日の午後。


小規模な崩落が起きた。


第二坑道・中層。


致命的ではない。

判断次第で、

被害は抑えられる。


だが――


誰も、動かなかった。


「……指示を」


現場監督が、

こちらを見る。


(……来たか)


坑道の入口で、

全員が立ち止まっている。


「……教育官」


誰かが、

慎重に声を出す。


「……どうすれば」


(……判断できる)


本当は、

彼ら自身で。


だが、

それを奪ったのは、

自分だ。


「……待て」


そう言った。


「状況を、

 整理する」


数分。


その数分で、

崩落が広がった。


「……二次崩落!」


叫び声。


「……一人、

 巻き込まれた!」


(……遅れた)


だが――

誰も、

自分を責めない。


「……教育官の、

 判断待ちだった」


それだけだ。



医療所。


軽傷者。

一名。


助かった。

数字上は、

問題ない。


「……なぜ、

 誰も動かなかった」


独り言のように、

呟く。


「……命令が、

 なかったからです」


医療兵が、

淡々と答えた。


「……勝手に動くと、

 処分されますから」


(……完成した)


制度が。


考えないことが、

最も安全な行動になった。



夜。


部屋に戻る。


机の上に、

報告書。


「事故対応時間

 平均+三分」


小さな増加。


だが、

無視できる範囲。


「……許容内だ」


そう書き添えた。


ペンを置く。


(……これでいいのか)


問いは、

もう弱い。


強いのは、

数字だ。



翌朝。


坑道に、

張り紙が増えた。


「判断に迷った場合、

 必ず教育官の指示を待て」


その一文が、

空気を決める。


人は、

迷わなくなった。


迷わない代わりに、

考えなくなった。


「……楽になりました」


若い坑夫が、

ぽつりと言う。


「……間違えなくて、

 済むので」


それは、

感謝だった。


だが――


「……そうだな」


自分は、

そう返した。


否定できなかった。



夕方。


監督官が、

小さく言った。


「……最近、

 誰も文句を言わない」


「……いいことだ」


自分は答える。


「秩序が、

 安定している」


監督官は、

苦笑した。


「……安定しすぎて、

 少し怖いな」


その言葉に、

何も返さなかった。


怖さを、

一番よく知っているのは、

自分だからだ。



夜。


坑道の闇を、

思い出す。


あのときは、

選ぶしかなかった。


今は――


選ばなくていい世界を、

作ってしまった。


それは、

優しい世界だ。


同時に、

残酷な世界だ。


誰も、

責任を負わない。


誰も、

間違えない。


誰も、

声を上げない。


沈黙が、

最適解になる。


その沈黙の中心に、

自分が立っている。


それが、

この鉱山の

新しい音だった。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ