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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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13/50

第13話 見せしめは、静かに行われる

13話です

見せしめは、

叫び声を伴わなかった。


処刑も、

投獄も、

公開の糾弾もない。


ただ――

配置表が、一枚貼り替えられただけだった。



朝。


坑道入口の掲示板の前に、

人が集まっていた。


誰も声を出さない。

だが、視線だけが、

同じ一点に集中している。


「……第二坑道・下層」


誰かが、

小さく呟いた。


そこに、

昨日まで監督だった男の名があった。


補足も、

理由も、

書かれていない。


ただ、

決定事項として。


「……下層か」


別の声。


「……あそこ、

 去年、三人死んでる……」


言葉が、

それ以上続かない。


続ける必要が、

ないからだ。



「……教育官」


背後から、

監督官の声。


「見ておいた方がいい」


連れて行かれる。


第二坑道・下層。


湿気。

粉塵。

天井が、低い。


「……彼は、

 ここに配置した」


監督官は、

淡々と言う。


「再教育の一環だ」


「……再教育?」


「そうだ」


「命令に従う現場を、

 身をもって学ばせる」


胸の奥が、

小さく震えた。


(……殺す気か)


だが、

口には出さない。


「……彼は、

 有能でした」


それだけ言った。


「有能だった」


監督官は、

訂正する。


「だが、

 従わなかった」


それで、

十分だという口調だった。



作業が始まる。


下層は、

狭い。


人がすれ違うだけで、

肩がぶつかる。


「……順番を」


元監督――

今はただの作業員が、

声を出す。


一瞬、

周囲が静まる。


誰も、

従わない。


「……教育官命令を、

 優先しろ」


現場監督が、

淡々と言う。


その声には、

迷いがない。


(……学んだな)


自分は、

何も言わない。


言えば、

この場の“意味”が崩れる。



事故は、

起きた。


予想通り。

予測可能な形で。


天井の一部が、

警告なしに落ちた。


「……伏せろ!」


誰かが叫ぶ。


遅い。


鈍い音。


骨が、

石に負ける音。


「……っ……!」


短い呻き。


それで、終わりだ。


血は、

少なかった。


下層では、

それすら珍しくない。


「……死傷者は」


監督官が、

確認する。


「……一名、

 重傷」


返事。


誰かが、

目を逸らす。


重傷。

それは、

長く働けないという意味だ。



医療所。


元監督は、

担架の上にいた。


脚が、

歪んでいる。


「……先生」


こちらを見て、

小さく笑う。


「……分かりました」


何を、とは聞かない。


「……命令は、

 守るべきですね」


声は、

静かだった。


「……そうでないと、

 こうなる」


その言葉が、

刃のように刺さる。


(……違う)


違うはずだ。


だが――


「……回復すれば、

 また配置される」


そう言った。


嘘ではない。

だが、

希望でもない。


男は、

目を閉じた。


それ以上、

何も言わなかった。



翌日。


掲示板に、

新しい紙が貼られる。


「教育官命令遵守率

 九七%達成」


数字は、

誇らしげだった。


「……効果、

 出てますね」


誰かが言う。


「……逆らう人、

 いなくなった」


笑い声は、

起きない。


必要が、

ないからだ。


「……先生」


若い坑夫が、

小声で話しかける。


「……命令、

 絶対ですよね」


「……絶対だ」


そう答えた。


「……じゃあ」


彼は、

ほっとした顔をする。


「……考えなくて、

 いいですね」


その言葉で、

胸の奥が、強く締め付けられる。


(……それが、

 目的だ)


考えさせない。


迷わせない。


疑わせない。



夜。


部屋に戻る。


規程書が、

また厚くなっている。


追記。

注釈。

例外規定。


すべて、

沈黙を前提に書かれている。


(……完成したな)


制度が。


見せしめは、

一度でいい。


あとは、

誰もが記憶する。


逆らえば、

こうなる。


命令に従えば、

守られる。


その単純な図式が、

坑道全体に染み込んでいく。


教育は、

もう不要だ。


残るのは、

服従の習慣だけ。


机に肘をつき、

目を閉じる。


坑道の闇を、

思い出す。


あのときは、

選ぶしかなかった。


今は――


選ばせない。


それが、

一番効率がいい。


その事実を、

自分が一番よく理解している。


それが、

何より恐ろしかった。


誤字脱字はお許しください。

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