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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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第12話 逆らう者は、数字になる

12話

最初に逆らったのは、

勇敢な人間ではなかった。


英雄でもない。

扇動者でもない。


ただ、

現場を知っている人間だった。



「……この命令は、守れません」


会議室で、

現場監督がそう言った。


声は大きくない。

だが、はっきりしていた。


「第二坑道の崩落は、

 現場判断なら防げた」


空気が、静まる。


「教育官の指示は、

 状況に合っていなかった」


誰も口を挟まない。


皆、

次の言葉を待っている。


「……数字上は、

 正しいかもしれません」


監督は続ける。


「だが、

 現場は数字じゃない」


胸の奥が、

小さく軋んだ。


(……分かっている)


それは、

自分が一番よく知っている。


「……では」


記録官が、

淡々と口を開く。


「あなたは、

 教育官命令を無視したと?」


「無視した」


即答だった。


「……一人、

 助けられた」


「……だが」


記録官は、

板を指差す。


「結果として、

 死亡者は一名」


「遵守していれば、

 平均死亡率は、

 さらに下がっていた」


(……平均)


その言葉で、

場の空気が傾く。


「……平均の話を、

 しているんじゃない」


監督の声が、

少し強くなる。


「……目の前の人間の話だ」


「それは、

 例外です」


記録官の声は、

変わらない。


「制度は、

 例外に合わせて作れません」


誰も、

反論できなかった。



処分は、

即日だった。


「第二坑道監督、

 配置転換」


「……左遷ですか」


「再教育です」


言葉は、

柔らかい。


だが、

意味は硬い。


「……あの人は」


誰かが、

小声で言った。


「……事故を、

 一番減らしてきた人だ」


その声は、

届かなかった。


届く必要が、

なかった。



夜。


酒場の隅で、

声をかけられる。


「……先生」


現場監督だった男。


もう、

監督ではない。


「……最後に、

 聞かせてください」


視線が、

まっすぐこちらを見る。


「……あの命令、

 本気で正しいと

 思ってますか」


逃げ場は、

ない。


「……正しいかどうかは、

 分からない」


正直に言った。


「だが、

 守らせる必要はある」


男は、

ゆっくり息を吐いた。


「……やっぱり、

 そうか」


怒ってはいない。


ただ、

理解した顔だ。


「……俺は、

 あんたを信じてた」


その言葉が、

胸に刺さる。


「……現場に、

 立ったことがある人間だと」


(……あった)


確かに、

あった。


坑道で。

血の中で。


だが――


「……今は、

 違います」


そう言うしかなかった。


男は、

笑った。


「……だろうな」


「……制度の人間だ」


その一言で、

全てが終わった。



翌日。


板に、

新しい項目が追加される。


「命令遵守率」


数字が、

人の価値を測り始める。


「……遵守率が低い者は、

 危険要因だ」


誰かが、

当然のように言った。


「……再教育を」


「……配置転換を」


言葉が、

軽い。


(……来た)


これは、

もう教育ではない。


粛清の前段階だ。


「……教育官」


監督官が、

こちらを見る。


「君の意見は?」


全員の視線が、

集まる。


(……ここだ)


ここで、

止めなければ。


だが――


「……遵守率は、

 重要です」


そう言った。


声は、

震えなかった。


「命令が、

 統一されなければ、

 事故は増える」


真実だ。


同時に、

嘘でもある。


「……では、

 基準を厳格化する」


記録官が、

即座に書き留める。


(……決まった)



夜。


一人、

規程書を閉じる。


逆らった者は、

もう現場にいない。


数字上は、

改善している。


事故は減り、

秩序は保たれる。


だが――


「……先生」


扉の外から、

小さな声。


若い坑夫だ。


「……あの人、

 明日から

 下層坑道だって……」


下層は、

危険だ。


誰もが、

知っている。


「……俺、

 命令、

 守ります」


必死な声。


「……だから……」


続きを、

言わせなかった。


「……それでいい」


そう言った。


それが、

教育官としての答えだった。


扉が閉まる。


静寂。


(……逆らう者は、

 数字になる)


それは、

誰かが決めた法則ではない。


自分が、

許可した現実だ。


教育は、

人を育てるものだった。


今は――


逆らわない人間を、

 残すための装置になっている。


その装置の中心に、

自分がいる。


それだけが、

確かな事実だった。


誤字脱字はお許しください。

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