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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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第1話 坑道は、血と数でできている

第一話です

目を覚ました瞬間、

自分がまだ潰れていないことだけが分かった。


暗い。

何も見えない。


だが、胸が重い。

息を吸うたび、肺の奥が擦れるように痛んだ。


(……生きている)


確信ではない。

判断だった。


胸の上に、石がある。

崩れた坑道の壁材だ。

腕を動かそうとして、右肩から先がわずかにしか動かないことに気づく。


動かした瞬間、

ぴちゃりと湿った音がした。


血だ。


自分のものか、他人のものかは分からない。

ただ、生暖かい。


遅れて、匂いが来た。

鉄と土。

汗と油。

そして、――内臓が空気に触れたときの匂い。


胃が反射的に痙攣したが、吐けなかった。

吐く余裕が、なかった。


「……おい」


近くで、声がした。

すぐそばだ。だが、姿は見えない。


「生きてるやつ、いるか……?」


声は怒鳴る形を取っていたが、実際は震えていた。

泣き声に近い。


「……いる」


自分の声が、思った以上に落ち着いて出た。

喉が焼けるように痛む。血の味がした。


「動くな! 瓦礫が――」


言葉の途中で、

ごりっという音がした。


すぐ隣。


続いて、短い、息が漏れるような音。


悲鳴ですらなかった。


何かが潰れ、

何かが弾け、

温かい液体が、頬に飛んできた。


(……頭か)


理解した瞬間、思考が一段冷える。


「……潰れた」


誰かが言った。

妙に淡々と。


「首から上が……なくなった」


その言葉で、坑道が沈黙した。


泣く者はいない。

祈る者もいない。


酸素が足りない。


それだけが、全員に共通する現実だった。


息が浅くなる。

誰かが、無意識に呼吸を早める音が聞こえる。


(まずい)


なぜそう思ったのかは分からない。

だが、確信だけがあった。


「……何人だ」


自分の口が、勝手に動いた。


「……え?」


「生きてるのは、何人いる」


返事がない。


「今、声を出せるやつだけでいい。何人だ」


沈黙の後、

指を折る音が聞こえた。


「……七」


「こっち入れて、八だ」


「……九」


「……十、いや……」


途中で、数えるのをやめた声が、嗚咽に変わる。


「分からねぇ……」


(分からない、は一番まずい)


理由は分からない。

だが、分からない状態が続くと、人は無駄に動く。

無駄に動けば、空気を使う。

空気が減れば、全員が死ぬ。


「いいから――声を出せ」


自分でも驚くほど、強い声が出た。


「返事だけでいい。

 生きてるなら一回。

 怪我してるなら二回」


間があった。


だが、やがて――


「……一」


「……二、二……」


「……一……」


短い声が重なり、混じり合い、

闇の中に生存者の数が浮かび上がる。


(……十三)


正確ではない。

だが、全滅ではない。


「聞け」


自分は続けた。


「今から無駄に動くやつは死ぬ」


息を呑む音が、いくつも聞こえた。


「酸素は有限だ。

 叫ぶな。

 祈るな。

 死体に触るな。――それ以上、血を撒くな」


言いながら、奇妙な感覚があった。


なぜ、こんな順番で考えられる。

なぜ、こんな言葉が出てくる。


「……お前、何者だ」


誰かが、低い声で問うた。


答えは、なかった。


ただ、昔――

どこかで、誰かが言っていた気がした。


「まず数を数えろ。

人が死ぬ現場では、それが一番の救いだ」


誰の言葉だったかは思い出せない。

理由も分からない。


だが――


今は、それで十分だった。


坑道の闇の中で、

血と死体に囲まれながら、

教育は、音もなく始まっていた。


誤字脱字はお許しください。

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