【3】 -警護騎士シンハ、殺人教団の首魁ジャイラダと邂逅す。-■11■
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怒りに身を震わせていたシンハは、鼻息荒く彼女の指示した床を見た。
良く見ると床面は掃き清められ、びっしりと記号や文字が書き込まれている。
広間を見渡すと、その文言や記号は床一面に描かれている事に気が付いた。
「…何だ…これは…っ??」
シンハは始めて見る光景に声を漏らした。
だが、見た目と雰囲気で、この広間全体が"祭壇"だと気が付いた。
広間全体が、何かを崇める"祭壇"。
しかも、魔法に覚えの無いシンハでも、見てわかる。
この広間全体が、祭壇と同時に巨大な魔法円。
蛍の様に音も無く飛び回る光球は、すうっと魔法円の中央へと吸い込まれて行く。
そこには、大きな光の玉が浮かんでいた。
その光に向かうように描かれた床面の文様と文字は、整然とした幾何学的な美しさを持っており、
その上を漂う光と相まって、神々しさを醸し出している。
その魔法円の上を男が一人、這いつくばっていた。
四つ足の獣の様に伏せて、魔法円へ頭を下げている。
祈る様にも見え、トカゲの様に這っている様にも見えた。
顔は見えないが、戦った時に魔物を召喚した魔法使いだと、シンハは気が付いた。
魔法使いは、床に顔を擦り付ける程に伏せた姿勢で、必死に魔法円へ加筆をしている。
"一体、この巨大な魔法円は何なんだ…??"
シンハは驚きを隠さずに、魔法円全体を見渡した。
狂信者達が、自分に理解出来ない何かを企てている事だけは理解できる。
黄色い光に満たされた広間。
その明りに照らされて、もうひとつの祭壇がシンハの目に止まった。
広間の壁をえぐり、道祖神を崇める様な小さい祭壇。
シンハは吸い寄せられる様にその祭壇へと近づいた。
彼を拘束していたザジー教徒は、その祭壇へ向かう事を許さず、引き綱を強く引く。
だが、ジャイラダがそれを制止して、シンハが祭壇を見ることを許した。
細く長い手脚と美しい輪郭。
だが、その右腕は綺麗に切断され、消失していた。
肌の色は白さを超え、乾燥しているが銀色がかっている。
そんな完全に干からびたミイラが一体、安置されていた。
周囲には、数多くの調度品が無造作に並べられている。
その体は無数の宝飾品に飾られていた。




