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葉月の奇跡 season 1  作者: 岩河尚輝
Ⅸ 閉幕篇
51/53

48.その答えは

 会場が熱い。さまざまな音がぶつかり合う中で、一つの音を見つける。その音が繋がった時に......。

 笛が鳴るまで、暫し我を忘れてしまった。周りの動きに合わせるようにしてエンドラインに並んで、光を浴びるコートを見つめる。

「ありがとうございました!」

 その挨拶の声が号砲の代わりになり、静まった会場に拍手と喝采が飛び交う。伯斗は得点板を見て、やっと自分たちの勝利を確信した。

「伯斗、もっと喜べよ! 優勝だぞ! インターハイだぞ!」

「おぉ......あぁ」

 嬉しいはずなのに曖昧な返事になってしまう。準決勝からこの瞬間まで、自分はどこにいたんだろう。ずっと空を飛んでるような感覚で、地に足がつく実感が湧かなかった。優勝は初めてじゃない。全国大会出場の経験もある。それなのに、今日の優勝は、ずっしりと重く、今までと感覚が違った。

 勝負は紙一重である。たった一点の差で終わるか続くかが決まるその舞台だから、輝くものがある。勝者だけが光るわけではない。敗者の涙も、思いを重ねて歩んできた分だけ、輝いて見えた。この大会で、伯斗が実感したことはそれだった。きっと今までの試合でもそうだった。だけど、この大会は特別で、忘れられない。兄を負かして、エンドラインに並び顔を合わせた時に、それを感じた。

 伯斗が振り返ると、仕切り用のフェンスの奥に兄がいた。朔斗も、伯斗が近づいてくるのに気づいて、笑みを浮かべた。

「お疲れ様」

 先に声をかけたのは朔斗だった。伯斗は、久しぶりに兄と落ち着いて面と向かって話すため、少し緊張した。

「見ててくれたの?」

 朔斗は少し照れくさそうにしながらも、頷いた。

「すごいな。インターハイ」

「まぁ、ここまで厳しい試合ばっかりだったけどね」

 少し笑って、それから暫し沈黙が続いた。お互い何を話していいのかも分からず、視線を逸らしていたが、今度は伯斗から話し始めた。

「俺さ、ずっと分からなかった。なんでそんなに兄ちゃんは、自信持ってエースだって胸を張れるんだろうって。飛べば飛ぶほど、技術は上がるけど、そこのところはずっと分からないままだった」

 朔斗は伯斗をまっすぐ見て、答えた。

「俺も分からなかった。けど、小さい頃は何も考えずに、自信持てたんだよ。そして、市立中央で三年間過ごして、俺の仲間たちが導いてくれた。その答えに」

「......いい仲間ができたんだね」

 自分にはないものを持っている人と出会えて、兄は良かった。兄とただ同じ景色を見たかっただけなのに、それを願えば願うほど、自分は兄を苦しめた。今こうして別々のユニフォームを着て、この舞台に立っていることは、運命だったんだ。

 伯斗は苦し紛れのような笑みを浮かべて、その場を取り繕うとした時、突拍子もなく朔斗は告げた。

「あの試合、向き合って分かった。その答えは、伯斗、お前だった」

 伯斗は拍子抜けした。自分が兄を苦しめていたはずなのに、そんなことあるわけない。

「......そんなわけ......」

 しかし、伯斗が否定しようとすると、朔斗はそれを遮った。

「性格も、身体も、スパイクのスタイルも違う。けど、見てただろ? お前も。俺と同じ景色」

 伯斗は、はっとした。あらゆる音がぶつかり合う中で、信じる仲間の音だけを頼りに飛び上がる。そして見えるのは、

「......上空約三メートルの景色」

 後ろには背中を任せる強い仲間がいて、前には全力でぶつかり合える好敵手。形は違くとも、二人の見た景色は同じ色をしていた。

「昔、俺はきっと、お前と二人で羽になれるって思ってたんだ。それを、あの試合で思い出せた」

 伯斗は、優勝の瞬間にあまり感じられなかった喜びと、涙が込み上げてきた。自分が勝ち進み、たった一枚の切符を持たされた理由が分かった気がした。

「兄ちゃん......」

 涙を拭うと、目の前には兄がいる。そして周りには、同じユニフォームを着た仲間もいる。


――俺は行くよ。この大会で見てきた笑顔も涙も全部背負って。


「......全国行ってくる。もっと強い、羽になってくる」

 伯斗はそう言って拳を突き出した。朔斗は拳を重ね、自分の思いと言葉を繋いだ。

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