33.きっかけ
「急に上手くなったな。なんで最初っから3番出さなかったんだ?」
「さぁ。それにしてもあのレシーブは、俺たちの強み潰されちゃうなぁ......って涼?」
涼は今の得点に複雑な表情を浮かべていた。切り替えなければいけないのは分かっている。このような雰囲気が一番マズい。ただ、皮肉なことに、ネットを挟んで目の前に立つのは、涼の心の鎖であった。
やっと吹き始めた追い風に乗って、朔斗のサーブは海原北溟のレシーブ陣を崩した。レシーバーが弾いたボールが市立中央のコートに返ってくる。
「チャンス―!」
裕太郎は数歩下がり、ボールをしっかり見て助走に入る。そして三歩目で力を足に溜めて、一気に上空へと飛び上がった。
チームでもトップクラスに打点の高い裕太郎のAクイックは、相手のレシーブの穴を正確に突いた。裕太郎のガッツポーズは先ほどよりも大きくなっている。
そして、オーバーカットやスパイクだけでなくブロックも冴えていた。相手はこちらを波に乗せないように、朱俐が屈したハイスピードのトス展開で、あの手この手でブロッカーを振ってくる。それでも裕太郎は必死に食らいついた。せめてワンタッチでも取る。そうすれば、自分が信じた仲間たちが繋いでくれる。でも妥協はしない。「自分の牙を向け続けろ」と自分を鼓舞した。そして市立中央が連続得点で遂に17点目を取り、逆転した。
市立中央が17点目を取って逆転した時、そして23点目のセットポイントを取った時、たちまち海原北溟はタイムアウトを要求したが、流れが変わることはなかった。一セット目とはまるで別人のように、ただ軸は変わらずに、市立中央は得点を重ねていった。
そして最後に、裕太郎のキルブロックで攻撃を抑え、セットポイントを奪った。ブロックしたボールが地について間もなく笛が鳴らされた瞬間、体が温かいものに覆われた。物理的な熱だろうか、それとも......。それから、裕太郎はひとつ、一心に願っていた。神様どうか今だけは、こいつらとバレーさせてください。痛みも悲しみも悔しさも置いて、ただ純粋に繋ぐことを楽しみたい。
25-18。裕太郎が交代して入ってから、2点しか譲らぬまま二セット目を勝ち取り、勝負は第三セット目に託された。
セット間の雰囲気は今までで一番悪かった。その原因が誰にあるかは自分でも分かっている。ただ、向き合い方が分からない。自分の罪はやはり罪だった。このようにして自分に返ってくるのも、世界の理なのだろう。
「涼、いい加減にしろ」
普段怒りを面に出さない大治郎ですら、言葉に怒りが含まれている。個人的な問題に関係のない人を巻き込むつもりはなかったが、これ以上黙っていると雰囲気が悪くなる一方だったので、涼は腹を決めて、話し出した。
「あいつは……3番は……裕太郎は、俺が昔......虐めてたやつだ」
涼の発言に三人は耳を疑った。よりによって四人の中で一番まともな涼がそんなことをするはずがないと、真実として受け入れ難いことだった。中学校からは四人でほぼ一緒にいたので、もしその事実が本当であれば、きっと小学校の頃のことであろうと悟った。
「でも、そんな昔のこと、今更気にしたって仕方ないだろ。しかも今あいつは俺たちの敵だ。全国行くためには、倒さなきゃいけない相手なんだぞ?」
変わらず俯き加減の涼の目が少し光った気がした。きっとこの問題は三人が思っている以上に大きいことなんだと三人は察した。言葉を濁していた涼が次に口を開いた時、その問題の大きさが明かされた。
「......俺がバレー始めたきっかけは……あいつなんだ」
しばらく沈黙が続いた。もうすぐ三セット目が始まる。彼らがコートに立った時、立ち込めた霧は晴れるどころか、濃さを増していた。




