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葉月の奇跡 season 1  作者: 岩河尚輝
Ⅴ インハイ県予選開幕篇
25/53

22.本当の仲間

 大会一日目は無事に終了し、二回戦までの全試合を終えた。これで県ベスト16が揃ったことになる。勝ち上がったのは、総武学院(そうぶがくいん)高校、河北(かほく)高校、魚海成英(うおみせいえい)高校、魚海(うおみ)高校、宮平(みやひら)高校、市立中央(しりつちゅうおう)高校、稲ヶ丘栄春(いながおかえいはる)高校、海原北溟(うみばらほくめい)高校、神佐総合(かみさそうごう)高校、創明学園(そうめいがくえん)高校、沖見ヶ丘(おきみがおか)高校、星野(ほしの)高校、海央(かいおう)高校、三尊寺(さんぞんじ)高校、魚海青陵(うおみせいりょう)高校、星野済矢(ほしのすみや)高校。この十六校のうちのたった一校だけに勝利の女神は微笑む。

 郁瀬はトーナメント表を確認して喜びで満ちた心を切り替えた。

「いよいよか……」

 西日がさすアリーナ入口は朝とは違う景色に見えた。既に涙でここを去った者の足跡、それと明日へ闘志を燃やし続けている者の足跡が郁瀬には見えた気がした。

 すると、後ろから聞き覚えのある声がした。振り返ると、羽月が笑って歩いてきた。

「まずはお互い勝ち残れて良かったな」

 寛斗は「あぁ」と力強く答えた。それからきちんと向き直って手を差し出した。羽月は目線を逸らさずにその手を強く握った。

「明日は楽しもうぜ」

「あぁ、望むところだ」

 その隣にいた羽柴は祐飛を見て、少し笑みを浮かべていた。その笑みには何か含みがあるようにも見えた。

「容赦はしませんよ」

「それはこっちのセリフだな」

 祐飛は一切怯まずに、同じく笑みを浮かべて見せた。

 朝は梅雨空だったけれど、いつの間にか太陽が顔を出していたらしい。日はだいぶ傾いてきて、辺りは既に薄暗くなってきた。明日、またここに日が昇るとき、目の前の彼らは倒さなければならない敵同士になる。

 三回戦、市立中央の相手は宮平高校だった。





 梅雨明けがいつなのかといった話題のニュースを見ながら朝食を食べていると、郁瀬のスマホから通知音が鳴った。

「頑張れよ」

 たった一言だったけれど、それで十分だ。何も今更、飾った言葉など必要なかった。

 それからリマインダーの通知が遅れてやってきた。大会二日目と記されたそのメッセージを見て、郁瀬は体の内から込み上げる熱を感じた。一日を生き残ることは簡単なことではない。限られた者だけが見れる景色は、だからこそ綺麗なんだ。あの日も、その景色を見たかっただけのに。

「クゥ......?」

 寝床から起きてきたウィルが寝ぼけた様子で郁瀬に体を寄せてきたので、頭を撫でてやった。柔らかなウィルの毛並みは郁瀬の心を落ち着かせた。

 家を出て会場に向かう途中に、裕太郎はホームページに公開されたトーナメント表をもう一度確認した。今日は三回戦と準々決勝の最大二試合を行う。市立中央の反対側から伸びている赤い線の先には宮平と記されていた。俺はあの時何ができたのだろう。いつも心だけは何かをしよう逸るのに、結局何をしていいのか分からず体が動かなかった。あの試合の時も、みんなが明らかに不調子なのはわかっていた。でもそれを支えるほどの技量は自分に持ち合わせておらず、負けた悔しさもあったがそれ以上に自分の無力さに言葉を失っていたのだ。

 二ヶ月前に大敗を喫してから、自分たちはあらゆる波を乗り越えてきた。きっとそれは相手だってそうだろう。この二ヶ月の成長をぶつけるときが来たのだ。俺は今回、何をするべきだ。いつものように偽りの楽観的な態度で雰囲気を和ませているだけでいいのか。何もしていないのにここで終わるわけにはいかない。先の見えない未来に少し不安もあるけど、今はあの時とは違うから。




「裕太郎って、ちょっとめんどくさいんだよな。真面目すぎるっていうか」

「ノリ悪いもんなー」

「でもなんでもやってくれて、結構使える奴だから、テキトーに仲良くしとけばいいんじゃね」

「じゃあとりあえず、あいつに班長やらせとけばいいよな」

「おお、そうしようぜー」



 本当の仲間って、何だ。ずっとそう思ってた。でも今なら胸を張って言える。俺の仲間はお前たちだ、って。裕太郎は足首に巻いたサポーターをもう一度巻き直して、バスを降りた。





 会場に入って、市立中央の選手一同は身支度を整えていると、ちょうど目の前で第一試合が始まった。市立中央の属するBコートでは、稲ヶ丘栄春高校と海原北溟高校の試合が行われている。

「やっぱりどっちも強ぇな」

 海原北溟は伝統の強さが今年も光っている。特にエースは毎年パワータイプで、今年も県でトップクラスの力を持つエースだった。対する稲ヶ丘栄春は持ち前の高さで対抗する。県大会も二日目となれば昨日とは確実にレベルが上がっているのは確かだった。

 市立中央はサブアリーナで軽くアップを済ませて、アリーナ入口で待機していた。

「先輩、北溟がマッチポイントです」

 序盤はほぼ互角の戦いをしていた両者だったが、県四強の強さは一枚上手だった。栄春の速攻が不発に終わり、それをチャンスボールに変えた北溟がエースにトスを送る。相手が弱っている時に確実に仕留める。まさに強豪校の風格がプレーに出ていた。試合終盤にもかかわらずトスをきちんと最高打点で打ち込んだ北溟がマッチポイントを取り、試合はストレートで決着が着いた。栄春もインターハイで引退なのだろう、ちらほらと涙を流している者が見えた。

「よし、それじゃあ行くか!」

 寛斗の声とともに市立中央の二日目が始まる。士気を高めてアリーナに入った市立中央の向かいから威勢のいい声が聞こえてきた。二ヶ月前に歪む視界にあった因縁のエメラルドグリーンのユニフォームを目にした寛斗たちは、一層闘志を燃やした。

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