14.5.欠けたピース
窓の外をぼんやり眺めても、気分は晴れなかった。気持ちをどうにかして切り替えたいのに、曇天続きの梅雨の季節は太陽とともに希望も隠してしまった。
「この一つ目の三次関数を微分して......」
寛斗は心ここにあらずといった様子で、なかなか板書がままならなかった。あの練習試合以来、どこかが欠けような、そんな心持ちだった。祐飛は逆に勉強に専念して、気を紛らわせていた。
「......レシーブの後のフォローの反応が遅れてたかなぁ」
裕太郎は色々考えながら、授業のノートにこの前の試合の分析をしていた。
啓司と英成は目の前で行われている実験をぼーっとただ眺めていた。
「......俺たちとあいつらとは確実に差があったよな」
「......そうだな......」
朔斗はうつ伏せになって授業を完全に放棄していた。
「......伯斗にあって俺にないもの……」
そのことだけが頭にこびりついて、何もする気になれなかった。
郁瀬も弁当を食べる箸がなかなか進まなかった。11番に言われた言葉がずっと頭の中で繰り返し鳴り響いていた。
「おーい、郁瀬。どうしちゃったんだー」
「なんか、土日明けてからずっとこの調子だよね」
「大会前だから、いっそのことギア上げてるのかと思ったけど……この前の練習試合で何かあったのか?」
黒田や及川、晴はそんな郁瀬を心配して声をかけるけど、返事は決まって、
「......いや、なんでもない」
の一点張りだった。
放課後、今日の練習は遅い時間からのスタートだったので、開始時間まで部員全員でミーティングをすることにした。
「魚海は圧倒的にスパイク力が段違いだったよな......」
「攻撃はオーソドックスだけどパワータイプって感じで」
「それに比べて神葉西はレシーブが上手かったよな。春の大会の時よりもまた一段と上手くなってた」
「和野城はライト多めの攻撃だったな。サウスポーが多くて対応も難しかった。しかも二年生中心らしいから、まだまだ伸びしろもあるよな」
「神止上代は高さがあった。ブロックしてもその上をいかれるし、こっちのスパイクもちゃんとキルブロックしてくる」
「ブロックといえば、総武学院もだよな。あのリードブロックは厄介だった」
「しかも総武学院にはサーブっていう強力な武器もあった」
試合のビデオを見ながら各々が出した意見を寛斗は簡潔にまとめた。
「俺たちはたぶん、他のチームに比べて技術面はもちろんだけど、特にサーブ力が足りてないんじゃないかって思う」
サーブ力の欠陥は、誰もが認める事実であるのは間違いなかった。しかし、優斗が、
「でも、あと二週間しかない。どうするんだ?」
と言うと、その先の答えは出てこなかった。確かに、優斗の言ったことは変わりようがない事実である。残されたあと二週間で、できることは限られていた。
「もちろん、これからはサーブ練習も比重を大きくしていくけど、それじゃあきっと間に合わない」
「......何か策でもあるんですか?」
行き詰まった空気に寛斗は一つ大きな提案をした。
「前から、うちはサーブ力が足りないのは分かってた。......足りないというよりは、欠けてしまった」
「欠けてしまった......?」
三年生は寛斗が表現を訂正したことで、何を言いたいのか察したようで、寛斗に驚きの視線を送った。
「もしかして、戻ってくるのか?」
「戻ってくるって、誰が戻ってくるんですか」
一方の二年生や一年生は何もわからないようで、きょとんとしている。
「まぁ二年も一年も、知らないのは無理もない」
寛斗の真剣な表情から、下級生たちは今から明かされることがただの戯言ではないことを察した。
「......実は、俺たちの代はもう一人、バレー部の奴がいた」




