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0.十秒の奇跡
ひとつ呼吸をする。大空へと舞った君をしっかりと見つめ、腕を引く。それは羽のごとく、伸びやかに。いつからか、わかるようになった。君がそこにいる、その瞬間に、両足で踏み込む。そうやって飛べば、いつも君に会える。そして、見える。君を追いかけた者だけがたどり着ける、上空約三メートルの景色。
「うん、今日はよく見える。向こうの景色」
たくさんの人の思いをこの刹那に込めて、腕を振り下ろす。
一連の流れがまるでスローモーションのように感じる。すると、地から体にどっと響く歓声が上がり、そんな夢の世界から覚めるのだった。この目覚めの瞬間は、他に取って代わるものがあるだろうか。
一度でも地に着けば終わってしまう。そうしないために、繊細で優しく、力と思いを丁寧に込めながら繋いで、繋いで、繋ぐ。遠い昔の人たちがそうやって繋ぎ続け、今、仲間たちが繋いで、そしてそれを今度は自分たちが未来へ繋がなければいけない。その宿命を背負っている。
たった十秒のそれは、まさに奇跡だった。