9 プロポーズ
「まじめに話すのは、これが初めて。今までも、ひかりに言ってたけど、今回は本気、超まじめ…」
「は?」
何?何を言い出すのよ?!
「俺と、結婚、してください!」
「は~~~?!!!!」
プ、プロポーズ~~~~?!
ラ、ラジオで~~~~~?!
それも、これ、生放送~~!!!!!
だ、だ、だだだ、だめだ。何も考えられない~~~~~~!!!!
「あ、頭の中真っ白になってる?」
「あ、当たり前でしょ?!!」
思わず、そう怒鳴ってしまった。
「だって、ほら…」
だって、ほら?
「俺とひかり、一緒にもう、住んでるんです」
う~~~~わ~~~~~~~!!!!!!!
「でも、それもずっと隠してた。あ、事務所にも」
「わ!昴くん、それ今言ってもいいの?!」
ブースの外を見ると、ディレクターはにやにやしてて、止める様子はなかった。
なんで?!
『気づいてないの?ディレクターさん、もう目覚めてる仲間だよ?』
『え?!』
そういえば、たまに光が出てたけど…。
「ひかりは、結婚とかそういうのも、こだわらないって言ってたけど。俺もそう思ってます。うん…。だけど、世間的にはそうはいかないでしょ?」
「世間?」
世間って何?必要なこと…?
「その辺をちゃんとしないと、こうやっていつまでも隠して、こそこそしてないとならない。だって、一緒に住んでいたって、別々に外に出たりしてたでしょ?近所で一緒に腕組んで歩いたり、買い物にも行けない。そういうのって、ちょっと寂しかったし…」
「そ、そうだけど」
「どうせなら結婚しちゃって、みんなに祝福されて、どうどうと町歩きたいじゃん」
「そ、そうだけど…」
「でしょ?」
ま、待って。今、私たちラジオに出てて、生放送してるのよね。
「そう。ラジオに出てて、生放送中に俺、プロポーズしてます」
し、信じられない~~!!!!!
「そういう展開になっちゃった。これも必然だよ」
「え~~~?」
「で、返事は?」
「へ、返事?」
「そう」
「返事?」
「だから、プロポーズの返事」
「それは…。待って。昴くんてまだ、20歳だよ?」
「あれ?男の人って18歳で結婚できるんですよね?」
いきなり昴くんは、ブースの外にいる人に向かって聞いた。ディレクターが、にっこりとうなづいた。
「ほら、できるってさ」
「そういうことじゃなくて」
「ひかりの親も、籍は入れないのかって心配してたんでしょ?」
「そ、そうだけど。だけど、昴くんのご両親は?」
「きっと、まったく問題なし。あ、うちの親も結婚早かったんだよね。えっと、母さんが26で、父さんが22の時」
「そうなの?」
「そうだって前に聞いたことがあるよ。社内恋愛で、赤ちゃんが出来て…とか」
そんなこと、言ってもいいの?
「ひかりは、今年でもう30だよ?」
「うん。…え?もしかして私の年齢のこと、気にしてる?」
「そうじゃない。ほんと、みんなに黙って、一緒に暮らしてるのが嫌になった。そういうの隠してるのも…」
「……」
ど、どう答えたらいいの?
『素直な気持ちだけ、言ってくれたらいいよ。嫌なら嫌でもいいんだ』
『嫌じゃないけど…』
「ずっと、俺はひかりといたいって思ってるけど?」
だから、これ、ラジオ!
「どうせなら、ファンのみんなが聞いてるところで、プロポーズしちゃえって…」
「なんで?」
「祝福してもらいたいから」
「……」
そんなこと言われたら、断れない…。
「断るつもりでいた?」
「…ううん」
「だよね?」
だよねって何?
『だって、心の中じゃ、もうひかりもOK出してたよ』
『え?無意識に?』
『そう』
「じゃ、OKなんだよね?」
昴くんはそう言ってきた。
「…はい」
「やった~~!」
昴くんの喜ぶ声と共に、ブースの外にいるスタッフも、大喜びしていた。あ、女優さんはいつの間にか、姿が消えてたけど。
「あはは…。もしかして、前代未聞?ラジオの生でプロポーズ…」
「そうだよ~~。もう~~~!!」
「あ、怒ってる?」
「呆れてるの!」
「あはは…違うでしょ?照れてるんでしょ?ひかり、真っ赤だもん」
「う、うるさいよ、もう~~」
「あ…。ディレクターさんが何か言ってる…。え?パソコン?あ、メールのことか」
パソコンでメールをチェックし始めると、たくさんのメールが届いていたのがわかった。
「わあ。すんごいたくさんの、おめでとうメールが届いてた。すげえ、嬉しい。まじ、嬉しい!」
昴くんが喜ぶと、思い切り光が飛び出てダンスをした。ブースの外を見ると、ディレクターさんからも光が飛び出ていた。
「あ…。これ、悟さんからだ。おめでとう、とうとうやったなってさ」
「え?悟くん?」
「他にも、知ってる人からもぞくぞく来てます。みなさん、ありがとうございます。あ…。もしかして、明日いきなり、記者会見とかかな?ひかりも一緒に出るのかな?」
「私は遠慮しておく」
「う~~ん。そうなるかな。どうかな。一般と言っても、ひかり、しっかりもう作家だし。有名人だし」
「え~~?」
嘘!
「あはは…。ま、いいじゃん。一緒にのろけまくろうよ」
す、昴くん~~!!!
それから、FAXも、メールもどんどんやってきた。ほとんどがおめでとうメール。ひやかしのメール。中には、羨ましいとか、ショックっていうのもあったけど、それでも最後には、祝福しますって書いてあった。
昴くんが、みんなに祝福されたいからなんて言ったら、みんな祝福するしかないよね?
「あ~~!これでどうどうと、一緒にマンションのエントランスから出れるね。近くのスーパーにも買い物に行けるしっ!」
昴くんが嬉しそうにそう言った。
「…今頃、もし母や父がこれ聞いてたら、ひっくり返ってるかも」
「なんで?俺らが付き合ってることも、賛成してくれてるのに」
「反対はしないと思うけど、まさか、ラジオでプロポーズするなんてさ…」
「あ。そうか。えっと…。ちゃんと、ひかりさんをくださいって今度、言いにいきます」
「え?」
「挨拶、ちゃんとしないと、俺」
そういうのまで、ラジオで言っちゃう?
「わ。いきなり、俺、緊張してきた。突然ひかりのお父さん、反対だ!なんて言って、怒ったりしないよね?」
「た、多分ね…」
「…俺の親も聞いてたら、目飛び出してるかも…」
「そうでしょ?びっくりしてるでしょ?」
「うん。でも、反対はしないよ。一緒に住んでることも、何も言わなかったし…」
「そうだね…」
「式は?」
「え?」
「結婚式」
「いいです。しなくても…」
「え~~~っ!ウエディングドレス姿、見たい!」
え~~?もう、ラジオで何を言ってるの!っていうか、
「昴くん、もう時間」
「あ!ほんとだ。えっと、最後に、曲をかけます。あ、ディレクターさんが選んでくれたみたい。何?嵐の『ワンラブ』?お聞きください…」
♪100年先も愛を誓うよ 君は僕のすべてさ
信じている ただ信じてる 同じときを刻む人へ
どんな君もどんな僕でも一つ一つが愛しい
君がいれば何もいらない、きっと幸せにするから♪
うわ……。なんて歌詞?思い切りプロポーズの歌詞?
曲が終わると、昴くんが、
「わ、これ、すんごい歌詞ですね。ディレクターさん、こんなの選んじゃったの?聞いててまじで、恥ずかしいんだけど。ね?」
「うん…」
「でも、はい。そんな気持ちです。俺も…。100年先どころじゃないだろうな。何万光年も先まで、きっと一緒にいるよっていうか、その頃にはもう、ひとつの魂かな?ね?」
「う…、うん」
ああ。駄目だ。照れくさくて、何も言えない。
「じゃ、今日もミッドナイトデート聞いてくれてありがとうございます。たくさんの祝福のメールもありがとうございます。また、来週まで、幸せな一週間をお過ごしください。あ…。俺は、めっちゃ幸せです!おやすみなさい!!!」
放送が終わり、脱力してると、ディレクターさんが入ってきて、
「おめでとう~~!」
と、拍手をしてくれた。他のスタッフも、手をたたいて喜んでくれた。
「だけど昴、これからが大変だ。明日はワイドショーで持ちきりだろうし、しばらくレポーターに追いかけられるぞ」
「その前に、会見しちゃいます。俺…」
「ま、頑張れよな。応援してるから」
ディレクターさんはそう言うと、光で包んでくれた。
「ありがとうございます!」
昴くんはにっこりと微笑んだ。
それから他のスタッフにも、おめでとうと言われながら、私たちはラジオ局を出た。
帰りのタクシーに乗り込むと、いきなり運転手が、
「ラジオ聞いてたよ。おめでとう」
と言ってきた。
「え?」
驚いて、聞き返すと、
「天宮昴くんでしょ?一緒にいる人が、彼女?」
と運転手がバックミラーを見ながら、微笑んで聞いてくる。
「あ、そうです」
「いきなりラジオでプロポーズ、すごかったね~~」
「はい…」
昴くんも私も、真っ赤になってしまった。
マンションに着き、コンビニに昴くんが寄り、私は先に部屋に上がった。
昴くんが、玄関を入ってくると足早にリビングに来ながら、
「わ~~。コンビニの店員まで、ラジオ聞いてたみたい。なんで?店で働いてないのか?」
と真っ赤になって言った。
「え?」
「これからは、一緒にどうどうと、買い物に来てくださいってさ」
そ、そうなんだ。う~~ん、恥ずかしいな。しばらくは…。
「ひかり…」
昴くんは、後ろから抱きしめてきた。
「ん?」
「ごめん。いきなり、ラジオで…」
「ほんと、驚いたよ」
「うん…。ごめん」
昴くんは、心底悪かったって思ってるみたいだった。
「なんで?」
「え?」
「なんでいきなりプロポーズ?」
「だってひかり、ああしないと、受けてくれないような気がして」
「結婚を?」
「そう」
「……」
そうかも…。どうしても、昴くんに気兼ねして、結婚はいいよって言ってそうだ。
「でしょ?心の中でもそんなこと、思ってたよね?」
「気づいてた?」
「うん」
昴くんは私を昴くんの方に向かせると、優しくキスをして、
「愛してるよ」
とささやいた。
「私も…」
私は、昴くんに抱きついてそう言った。