5 反響
家に着くともう、夜中の1時を過ぎていた。
「昴くん、先にお風呂入る?」
「一緒に入る」
「……」
「あ!へへへ」
いきなり昴くんがにやけた。
「何?」
「だって、今、ひかり喜んでいたから」
「私が?」
「一緒にお風呂嬉しいなって」
「思ってないよ」
「思ってたってば。お風呂でいちゃつけるわ~~。やった~~って」
「思ってない!」
もう~~。勝手なことばかり。
『本当に思ってたってば。素直じゃないんだからな~~』
心の中で昴くんは、ぶつくさ言っていた。
バスタブに一緒に入った。
「窮屈だから、疲れ取れないんじゃないの?」
私が聞くと、
「ぜ~~んぜん!一気に疲れふっとんじゃうよ」
と、昴くんは後ろから抱きつきながら言ってきた。それから、首筋にキスをしてくる。
『わ…』
『わ…?』
「なんでもない」
『そういえば、最近また俺、夜遅くって、夢でしかHしてなかったね』
『Hって言うな~~』
「なんで?あれ?照れてるの?」
『なんとなく、嫌だ』
「ふ~ん…。じゃ、愛し合ってなかったよね?」
「夢じゃ、昴くんじゃれついてきてたじゃない」
「でも、夢だし…」
昴くんはそう言いながら、また私をぎゅって抱きしめた。
「ひかりにこうやってくっついてると、すんごい癒される。だから、疲れなんかなくなっちゃう」
「…うん。それは私も同じ」
「でしょ?」
「今日の緊張でがちがちだった体も、今、ふにゃふにゃになってるかも…」
「あはは。何それ!また、もしかして溶けそう?」
「うん……」
しばらく黙って二人で、同化していた。それから、ふっと昴くんは私から離れると、
「ラジオ聞いてた人どうだったかな…」
とぽつりと言った。
「え?」
「何を感じてくれたかな…」
「うん…。本当に私また、ゲストで出ることになる?」
「…。多分ね」
「だけど、視聴者が空野いのりの話なんて聞きたくないって言ったら?」
「あはは。それはないと思うけど」
「わかんないじゃない」
「ま、先のことはいいや。流れに任せようよ」
「うん…」
「それより!ディズニーランド!絶対に行こう!」
「え?でも撮影」
「今のドラマが終わったら、絶対に行こう。1~2日はオフあると思うし…」
「うん。わかった」
『やり~~!』
昴くんから、うきうきわくわくのエネルギーが伝わった。
『昴くん、本当に可愛いよな~~』
愛しくなって、昴くんの腕を両手でぎゅって握り締めた。
「あ。その気になりました。俺…」
「え?!」
ここ、お風呂!!
『いいじゃん!』
ええ…?!
お風呂から出ると、髪を半分乾かして昴くんは、
「も、駄目限界…」
と言って、ベッドに倒れこんだ。そしてすぐさま、寝息を立てて寝てしまった。相変わらずのこの寝つきのよさ…。
『もう、だからお風呂でHなんてしなければいいのに』
『あ。ひかりもHて言った…』
寝ているのに昴くんが、私の心の声に答えてきた。
『ああ。今のナシ!』
『ぶふ!面白い、ひかりって』
『なんだよ~~。もう、寝ているくせに…』
『ひかり~~。早く夢の中に来て!』
え?夢でもまさか…。
『そうそう。愛し合おうよ、ね?』
『……』
『やった~~!』
え?何がやった?
『今、ひかりが喜んでた』
喜んでた?うそ。呆れてたの間違いじゃないの?
『喜んでたよ。もう、ひかりってば~~』
……。そうか。喜んでるのか。私…。
『そうそう。素直にならなくっちゃね』
は~~。そうだよね。多分、喜んでるの。でもまだ、隠そうとしてるの。なんでかな?昴くんなんて、嬉しいと本当に嬉しいって思ってるし…。
『ひかりはね、俺にすけべだって思われたくないんだよ』
え?
『それから、自分でも認めたくないんだよ。だけどさ、俺と愛し合うのを喜ぶのは全然すけべ~なことじゃないじゃん』
…そうか。
『あ。いや、すけべでもいいんだけどさ。俺なんかすんごいすけべだし…』
『アイドルのくせして、そういうこと言うしな~~』
『いいの、それよか、早く寝ようよ~~』
…昴くん、ぐーすか、うっすらいびきもかいてるのに、なんで心で会話が出来ているのか…。謎だわ。
髪を乾かし、ベッドに入り、昴くんにくっついて眠りについた。
「ひ~~か~~り~~。待ってたよ~~~!」
夢でもベッドの中で、昴くんに思い切り抱きつかれた。
ぎゅう~~。
「あれ?じゃ、今まで、夢の中で一人で寝てた?」
「うん。声だけ聞こえてたけど」
昴くんはいつものごとく、しっぽがはえてて、ぐるんぐるん振りまわってた。
「今度さ、耳もはやしてみない?」
「耳はもう、あるじゃんか。人間の耳」
「あ。そっか。じゃ、肉きゅう…」
「無理無理」
なんでも可能なんじゃないの?夢なら…。
「だって、犬の手になったら、ひかりとこうやって、指を絡ませられないでしょ?」
昴くんは私の指に指を絡ませながら、そう言ってきた。
「ひかり、いい匂い」
「え?昴くんと同じ匂いだよ。同じ石鹸つかってるんだもん」
「違うよ。シャンプーだよ。これ…」
「ああ。シャンプーは違うもんね」
昴くんは、夢の中じゃちょっと強引。なんでかな?強気になるのかな?でも、昴くんのぬくもりを夢でも感じられて、私は幸せに浸っていた。
翌朝、早めに起きて、朝ごはんを作った。今日もまた、昴くんは早くに出る。
「おはよ~~」
寝癖爆発、眠気眼の昴くんが起きてきた。
「おはよう」
昴くんは私がそう言うと、後ろから抱きつき、またうなじにキスをすると、洗面所に向かっていった。
『えっと~~。今日はなんだっけ?あ…。そうだ。ロケだ…』
今日のスケジュールを頭で、思い返しているようだ。
それから、朝食を取り着替えをしていると、携帯が鳴り、マネージャーが迎えに来てるから、もう行くねってキスをして、さっさと部屋を出て行った。
『行ってらっしゃい』
『うん。行ってきます』
心で返事が返ってきた。
さて、洗濯をして、掃除をしようかな…。
洗濯も実は、幸せだ。昴くんの洗濯物を干すのが嬉しい。ベランダが南向きで、お日様が良く当たる。そこに二人の洗濯物を干すのが、なんだか嬉しかった。
ある日、なんとなくそれを写真で撮ると、ベランダに太陽光線が入り込んでて、その回りを小さな光が嬉しそうに飛んでいた。
「なんの光?」
わからなかったが、喜んでる感じがして、私も嬉しくなった。太陽を写すといつも、その光が一緒に写る。
「不思議…。今度昴くんにも見せてみよう」
何かのエネルギー体なのかな?
それから次のラジオの日までに、昴くんのブログにも、私の小説のコメント欄にも、たくさんのメッセージが来た。ラジオを聞いてた人からのメッセージだった。
>もっと、空野いのりさんとのやりとりを聞いていたかったです。
>昴くんの素が見れて、嬉しかった。空野いのりさんとのやり取りは、すごく自然で、ますます昴くんのことを知ることが出来て、嬉しかった。
>恋愛の相談をもっと、受けて欲しい。空野さんの意見と昴くんの意見をどっちも聞きたい。
>私の悩みを聞いてくれてありがとうございます。結婚については、もう少し考えてみます。でも、彼が大好きだから、一緒にいることをもっと、喜び味わいたいと思います。先のこともですが、今が大事なんですもんね。
あ…。彼とのことを相談してきた人だな…。
>私と彼のことで、相談に乗ってもらえて嬉しかったです。昴くんも、大好きな人が亡くなった経験をしたんですか?今度、その辺をもっと詳しく聞かせてください。
あ…。この人は、彼氏が病気の人だ…。
そうか…。なんだか最後のほうは、わけわからないことを言っちゃってなかったかなって思ったけど、こんなに反響があったんだ。
ラジオだからって気負わないでも、いつものように昴くんと話をただしている…それだけでもいいのかもしれないな。…そんなことを感じた。