4 光を送りながら
スタンバイをしていよいよ、ラジオがスタートした。昴くんもさすがに、緊張してる様子。曲が始まり、しばらくして昴くんは、
「こんばんは!天宮昴の、ミッドナイトデート、始まりました!」
と元気に言った。
昴くんは緊張していたのに、すごく快調に話し出した。そして提供を伝えると一回、CMになった。
「ほえ~~~。き、緊張~~。俺、変なこと言ってなかった?」
と私に向かって聞いてきたが、それを聞いたディレクターが、
「昴!いい調子!」
と笑いながら、言ってきた。
「あざ~~っす」
昴くんは、にこって微笑むと、ディレクターに向かってピースをした。
CM開け、また元気に昴くんが話しだしたが、すぐにゲスト紹介をしますと言い出した。
『え?もう?』
『もうだよ。さっき打ち合わせしたでしょ?』
『そ、そうか。昴くんの話聞きいってる場合じゃないね』
「今日から始まったラジオ番組ですが、第一回目のゲストは、僕が1番に呼びたかった人なんです。映画「いま このときを 愛してる」の原作者、空野いのりさんです」
昴くんに紹介された。
「こんばんは。よろしくお願いします」
昴くんから、挨拶して来た。
「はい…。こんばんは…」
「空野いのりさんです!名前もペンネームだし、顔もふせ、正体不明のいのりさんですけど、今回特別にゲスト出演お願いしちゃいました」
「空野いのりです、よろしくお願いします…」
「あ、緊張してます?」
「はい。思い切り…」
「あはは…。僕もまだ、ちょっと緊張してます。ま、でも楽しんでいってください」
「はい…」
「えっと、せっかくいのりさんが来てるんで、質問や、相談をメールやFAXで受け付けます。聞きたいことがあったら、どんどん送ってください」
「はい…」
「それまでは、僕がいろんなことを質問しちゃおうかな」
『え?!』
「あ、駄目かな?正体は明かさないんですもんね」
「はい」
「そうだ。対談して雑誌にそれが載りまして…。それを見た人から、FAXやメールをいただいています。質問もあるので、いいですか?聞いても」
「はい」
「えっと…。これは、ラジオネームが、ミッドナイトデートがしたいさんから…」
昴くんはパソコンの画面をちょっと見つめてから、話し出した。
「…あ。僕とミッドナイトデートがしたいってことか…。これ、僕といのりさんに質問できています。もし自分なら、昴くんと夜中に、星空を見ながらデートをしたいですけど、昴くんや、いのりさんはどんなデートがしたいですかって」
「夜中に?」
「いや…、それは夜中じゃなくても、いいんじゃないかな?」
「えっと…」
デート…?
「僕だったら、海、ドライブ行きたいです。あの圭介と瑞希みたいなデートいいですよね」
「あ…。免許取ってるんでしたっけ?今」
「はい。夏から教習所通ってて。まだ、忙しくて行けないこともあって、取れてないけど…」
「ドライブもいいですね。あとは、ディズニーランドとか…。あまり、デートで行ったことがないから」
私が言うと、昴くんが目を輝かせて、
「俺も!じゃなくって、僕も行きたいです。デートで行ったことないっす。まだ、小学生の頃家族で行った…、きりかも!」
「え?そうなんだ」
「いのりさんは?って内緒ですよね。正体ふせてますもんね」
「はい」
『今度、行こうよ~~!ひかり!』
『え?』
『ディズニーランド、行こうね!』
『うん…』
昴くんの目は、わくわくしてるのがまるわかりだった。
「え~~と…。あ、メールが早速来ました。いのりさんの好みのタイプは?昴くんみたいな男性は好きですか?だって…」
「好みですか?う、う~~ん。ないかな」
「ない?」
「はい」
「で?僕はどうですか?」
「え?」
『そんなこと言うの?!』
『うん、もっちろん』
「い、いいんじゃないですか?」
「何がですか?」
「だから…。素敵なんじゃないかなって…」
「ふうん。そうなんですか…」
昴くんは声は冷静な声だったけど、顔はにやけていた。
「あ、昴くんはいのりさんのこと、どう思いますか?だって…。そうだな…」
『ほんとにそんなメール来てるの?』
『来てるよ。ほら』
パソコンをのぞくと、本当に来ていた。
「あ、これはラジオネーム、圭介がタイプさんからですけど…。いのりさんは、多分、印象から言って、瑞希に似ていると思います。で、俺…いや、僕の好みかって言うと、もろ、そうですね」
「え?!!」
あまりのことを言うから、思わず叫んでしまった。
「いのりさん、そんなに驚かなくっても…」
「ごめんなさい…」
「次の質問いいですか?質問っていうか、相談事です。こういうの多いんですよ。実は自分も10歳以上年下の男性に、恋をしています。でも、怖くて告白も出来ません。どうしたらいいですか?これは、匿名希望さんから…。それとか、12歳も下の恋人がいます。結婚もしようと言われました。でもまだ、彼は22歳で、彼と結婚していいか悩んでいます。これはラジオネーム、30女さんから…」
「そういう悩みを持った人が、けっこういるんですね」
「はい。どう思いますか?」
「どう思うか?」
「うん」
「昴くんは?」
「俺?俺は年齢なんか関係ないって思いますけど。あ。俺も10歳年上の彼女いるし」
「……」
『変なこと言わないでよ』
『言わないよ』
「結婚はやっぱり、悩むのわかります」
「え?どうして?」
「彼の人生はこれからだしって思うかも」
「いいんじゃないですか?俺だったら、しちゃえばいいのにって思いますけど」
「……。それはかなり、無責任…」
「え?」
「えっと…、ただね、結婚にこだわる必要もないかなって、それは思います」
「こだわる?」
「うん。それに縛られることはないのかなって、最近思う」
「じゃあ、もしいのりさんが、10歳年下の人と付き合ってて、プロポーズされたら?」
「すぐには、受けられないかな」
「なんで?」
「なんでかな?わからないけど…。でも、結婚ってなんなのかなって、ちょっと思ってみたりする」
「うん…。そうだな…。家族になるってことかな?」
「家族?」
「縛るとか縛らないとか、そういうんじゃなくて…。なんていうのかな。そんな制度はなくても、愛し合っていたら、信頼しあっていたら、それでいいような気も、俺もするけど…。でも、家族ってことで考えたら、結婚もいいかなって」
「子どもを産んで…とか?」
「ああ。それもありだし…。子どもがいなくて、夫婦だけっていうのもいいよね」
「夫婦?」
「うん。夫婦って恋人と全然違う響きがある」
「…どんなイメージがあるの?昴くんは」
「夫婦の?そうだな…。う~~ん。なんか長年寄り添っていくイメージ。恋愛とか通り越して、信頼…。そんなものかな。長年寄り添って、「つーかー」の仲になって…。あ、フルムーンとか行っちゃって…」
「昴くんのご両親は、恋愛結婚?」
「そうですよ、社内恋愛だって言ってた」
「仲いいの?」
「いいですよ」
「ふうん…」
「圭介と瑞希は結婚したから、いのりさんは結婚に対して、そんなこと思ってないと思った」
「そんなこと?」
「結婚にこだわらないとか、縛られたくないとか、そういうの」
「うん…。最近思ったことだから」
「何かあったんですか?」
「え?」
『聞くの?ここで?』
心で言うと、昴くんは、
『やっぱ、駄目?』
と心で答えつつ、
「あ。駄目ですね。正体ふせてるから、自分のことはあまり言えないですよね」
って、言葉にした。
「うん」
「じゃ、次の質問に行きます。あれ?これ俺にだな…。えっと、このラジオは彼女聞いてませんか?空野さんが好みなんて言って、大丈夫ですか?…あ、ラジオネームみーちゃんから」
「ふふ…」
思わず私は笑ってしまった。自分に妬いたりはさすがにしないよって…。
「え?えっと~~…。笑われた?俺…。ええっと…。そうですね。でも大丈夫です。あの、俺の彼女もいのりさんっていうか、小説ファンだし…。きっと、会ったら好きになるんじゃないかな…。なんてね…」
なんてねって、本当、なんちゃって…だよ…。昴くん、そうとう焦ってない?
「ああ。次、次の質問行きます。あ…。悩み相談か・・・・。愛してる人が、病気で…。あ、圭介と瑞希みたいな立場なのかな?瑞希のようには、とても寛大になれませんって」
「うん…」
「この小説は、いのりさんの実体験だったりしますか?もし、彼が病気で死ぬかもしれないってわかったら、どうしますか?」
「そうだね…。あ、これは実体験ではないんです。だけど、本当に今に生きて、がん細胞が消えちゃったっていう話は聞いたことがあります」
「うん…」
「そうだな…。やっぱり、恋人が死に直面してたら、悲しいし、苦しいかな。あ…、昴くんはどう?」
「俺?う~~ん。俺の場合は自分が体験したことから言うと…。むちゃくちゃ、悲しいですね。絶対にそんなの嫌だって思いました。すんごく悲しい。でも…、でも悲しいからって、愛してる人から去ろうとか、離れようなんて思わないですね。むしろ、相手が悲しんだり苦しんでいたら、一緒に感じるかな」
「……」
私は、低い次元で起きたことを思い返した。
「私なら…、苦しんで、悲しんで、怖がってる相手も、そのまま愛しちゃうかな…」
ぽつりとそう言うと、昴くんはにこって笑って、
『そうしてくれたもんね』
と心で、言ってきた。
「そういうのって、奇跡を生むかも…。相手が生きることを選択したら、病気も治るかもしれないですよ。あ、無責任なことは言えないですけど。でも、この世界ってけっこう、自分の思い込みでできてるし」
昴くんはいきなり、そんなことを言い出した。
「生きることを一瞬、一瞬、味わって感じて、喜んでいたら、細胞も喜んで元気になるかもしれない」
昴くんはそう続けた。
「だから、う~ん。悲しいのも苦しいのも、しっかりと味わっていいと思います。でもあまり、未来のことばかりを思って、不安になったりしないで、今を、大事に生きて欲しいです」
昴くんから、ものすごい光が飛び出した。
「いのりさんは?いのりさんが書いた小説も、そういうことを言いたかったんですよね?」
「うん。そう」
「生きることの素晴らしさを、多くの人が感じられたら嬉しいって、俺思います」
「うん」
「それと、苦しみも実は、自分が創っていることだって」
「ああ。それは私も思う」
「やっぱり?」
「うん。起きてくることって、全部、ニュートラルで、そこに意味づけをしてるのは自分だって思う。とらえ方一つで、幸せにも不幸にもなる。だから、どうとらえるかって大事なんだけど。でも、もっと大事なことがある」
「うん。本当は、みんな幸せだってことでしょ?」
「そう…。みんな生まれたときから、見守られ、愛され、幸せなんだよね」
「わかる。でも、こういうのって、なかなか話しても通じない。わかってもらえない」
「うん…」
「今、苦しんでる。不幸だって人に向かって、そんなあなたも幸せなんだよなんて言っても、やっぱり納得できないものだよね」
「うん。でも、実は幸せなの。愛されてるすばらしい存在。例外の存在なんていない。そこに気づいて、わかってくると、あまり苦しむこともなくなるし、現実が変わるかな」
私たちは光を出しながら、そんな話をした。
「あ…。いのりさん、ここで歌、いいですか?一曲かけても」
「え?はい」
「これ、いい歌なんですよね。平原綾香さんのジュピター」
「あ。私も好き」
「では、かけたいと思います。聴いてください」
歌が流れ出した。
「やべ…。もうこんな時間だ。ひか…、いや、いのりさんのゲストで出てもらう時間、もう終わりだよ。早いな」
「終わり?やった~~」
「え?なんで?」
「だってもう、喉カラカラ。緊張しっぱなしで…」
「でもまだ、一緒に伝えたいこといっぱいあったな。また、ゲストで来てよ」
「うん。またの機会にね」
「あ、曲終わる」
昴くんは咳払いをして、黙った。
「ジュピター、聴いてもらいました。今日のゲストは、空野いのりさんでした。ありがとうございました。俺としては、もっともっと、いのりさんの話が聞きたかったし…、ぜひ、また来て欲しいんですが、また、出てもらえますか?」
「はい。ぜひ」
「やった!じゃ、また、今度いのりさんを呼ぶ時に、みなさんからも相談をたくさん受け付けたいと思います」
「はい」
「空野いのりさん、本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました」
そう私が言うと、CMが流れ出した。
「お疲れ様です」
若い男の人が入ってきた。そして、私はその場を離れた。
昴くんは一人で、ラジオを続けた。私はホットコーヒーをもらい、ひといきついた。
『ああ…。疲れた~~。昴くんは、ずっとテンションを下げずに、すごいな~~』
そう思いながら、昴くんのことを見ていた。
笑ったり、相談に真剣に答えてたり…。きっとラジオを聞いてるファンの人は、喜んでるんだろうな。
昴くんからは、終始、光が飛び出していた。
ラジオが終わった。
「お疲れ、昴」
ディレクターが、昴くんの背中をぽんとたたきながら、そう言った。
「お疲れ様です」
「このあと、どうすんの?」
「タクシーで帰ります。あ、空野さんは送っていきます」
「お前が?」
「タクシーで」
「送り狼になるなよ」
「なりませんよ!もう…」
昴くんは、そう言うと苦笑いをした。
「じゃ、空野さん、今日はお疲れ様です。多分、またゲストで出ていただくことになると思いますから、その時にはよろしくお願いします」
ディレクターからそう言われた。
「はい。ありがとうございます」
私は頭を下げ、その場を昴くんと立ち去った。
「おなかすいた~~。なんか食っていかない?それとも、家で食べる?」
「うん。お店開いてないでしょ?」
「ファミレスか、焼肉か、ラーメンか…。居酒屋もあいてるかな。飲んでく?」
「帰りたいな。のんびりしたいかも」
「じゃ、タクシー乗って帰るか」
「うん」
タクシーを拾い、私たちはマンションに戻り、コンビ二でお菓子やパンを買い、家に帰った。