11 幸せの連鎖
部屋でぼ~~ってしていると、私の声が体から聞こえた。
『高い次元の、私、聞こえるかな?』
『聞こえてるよ!』
低い次元の私からの、声だった。
『私、昴くんと籍を入れたの』
『え?』
『結婚したの』
『え~~?もう?』
『うん。それで、それを今日昴くんが会見で発表した』
『私も出たの?その会見』
『私は家で、テレビで観てた』
ああ…。それは違ってるんだ。
『こっちでは、まだ結婚はしてないけど、結婚するって会見は開いたよ。今日』
『え?本当?そっちでも?』
『うん。でもね、私も会見に出たの』
『そうだったんだ…。籍はまだ?』
『まだ、これから』
『そうか~~。やっぱり起きてくること少し違うけど、リンクしてるね』
『うん。そうだね。あ、もっと低い次元の私はどうかな、ちょっと聞いてみる』
『うん。じゃ、交信切るね』
『うん、またね』
私は、もっと低い次元の私を呼びかけた。すぐに返事が来た。
『元気?』
『うん。そっちの私は?』
『元気だよ。昴くんも元気?』
『うん。もう、仕事も決まって一緒に住んでるんだ』
『仕事?』
『うん。昴くん、記者会見に出てから、スカウトがあって、ずっとそういうのを断ってたんだけど、ファッションモデルの仕事を一回してから、はまっちゃって』
『ファッションモデル?』
『今は、モデルの仕事の後、舞台の仕事も来て…』
『舞台?!』
『ミュージカルの…。昴くん歌手になるのが夢だったから、喜んでる』
『やっぱり、そういう方向に行くんだね』
『高い次元でも、昴くん俳優してるんだっけ?』
『うん』
『一緒に暮らすんだからって、その前に籍も入れたんだ』
『結婚?』
『うん。父も母も、許してくれて…』
『そうか~~。なんだ、どの次元でも結婚するんだね』
『そっちも?』
『籍はまだだけど、結婚することになったんだ』
『そうか~~。ふふ。どの次元でも幸せいっぱいなんだね…、私』
『うん。ふふ…』
みんなで幸せだ~~。そしてきっとどの次元でも、みんなに祝福されてて、昴くんとも熱々なんだろうな…。
幸せ気分を満喫しながら、ぼけってしながら昴くんの帰りを待っていた。昴くんは、マンションのエントランスに着くなり、
『ひかり!ただいま~~~~!!!!』
と、ものすごいハイテンションで部屋まで、駆け上がってきた。
「おかえり!」
と玄関を開けると、
「ただいま~~!!」
と大きな声を出して、入ってきて抱きついた。
「し~~。もう夜中だよ」
「あ、そっか。ごめん。今まで近所にばれないように、黙って帰って来てたから。もう隠さなくていいかと思ったらつい」
「もう~~。時間は気にかけないと~~」
昴くんは、私が部屋に行こうとすると、後ろから抱きしめてきた。
「歩けないよ」
「一緒に風呂はいろ!」
「もう入っちゃった」
「え~~~!!!!!」
昴くんはがっくりして、抱きしめてる腕を離した。
「あったまってるから、すぐ入れるよ」
「ちぇ~~~」
昴くんは、そのままリビングに行かず、バスルームへと直行して中に入ると、
『ひかり、着替え持ってきといて』
と心で言ってきた。
『うん』
下着とパジャマを持って行くと、もう鼻歌が聞こえてきてて、機嫌は直っていた。
『立ち直り、早…』
『さっさと出るから、いちゃつこうね~~!』
『……』
『あ、喜んでる?』
『呆れてるの…』
『あはは!』
ほんと、楽しいな。昴くんといると…。
昴くんは本当にあっという間に出てきて、またいつものように、バスタオルを頭にかぶり、歯ブラシをつっこんで部屋に来た。そして、鼻歌まじりで歯を磨く。
「なんか、すごいご機嫌だね。そんなに撮影ハイテンションになったの?」
「違うよ!ひかりともう堂々と、暮らしていけるからそれで嬉しいんじゃん。あ、明日はさ、昼から撮影なんだ。だから、この辺でブランチでもしない?」
「ブランチ?」
「遅い朝食。寝坊して、遅くに朝食食べようよ」
「いいよ。でもどこで?」
「ファミレスでいいや」
「うん」
昴くんは口をゆすいできて、それからドライヤーを持ってきて、
「乾かして!」
と甘えてくる。
「しょうがないな~~」
と言いつつも、昴くんの髪を乾かすの嬉しいんだよね。
「でしょ?」
でしょってね~~…。ま、いっか。
昴くんは急に静かになった。何を考えてるのか、エネルギーをあわせると、まったく何も考えていなかった。ただ、ぼ~~ってしてる。
『幸せ、かみしめてるの』
くす…。そうなんだ。
『あのね、今日低い次元の私から交信があって…』
『うん』
『結婚したんだって』
『え?あっちの次元でも?』
『うん。もっと低い次元の私たちも結婚したって。それから一緒に暮らしてるって』
『おお~~。そうなんだ。あ、俺って何してるって?』
『舞台。ミュージカルの出演するってよ』
「まじで?!」
「うん」
昴くんが大きな声を出して聞いてきたから、私も声を出して答えた。
「へ~~!そうなんだ。歌手になるの夢だったもんな~~。ミュージカルか!」
「やっぱり、そういう方向に行ったね」
「うん。あれ?じゃ、俺らだけまだ、結婚してないの?」
「うん」
「そっか~~。ひかり、いつ籍入れる?今度の大安吉日にする?」
「うん…。いいよ」
なんだか、照れくさいな。そういう話。
「え?そう?ひかり、天宮ひかりになるんだね」
「そうだね」
「えへへ」
「?」
「なんか、嬉しい」
昴くんは本当に嬉しそうだった。
髪が乾く前に、昴くんはもううつらうつらしていた。
「も、駄目だ…」
そのまま、ベッドにバタン…。そしてぐ~~ってもう、寝息を立てた。
「ほんと、昴くん、寝付きいいよね」
私も、昴くんの隣に潜り込み、ひっついて寝た。昴くんは、いっつも何かいい匂いがする。なんでかな?
夢の中では、海の中だった。
「あ、ひかり来た!どう?俺の夢。海の中だよ。でも息も出来るでしょ?」
「うん」
「海深くまで潜ってみない?遺跡とかあるかも」
「ふふ…」
「何?」
「楽しいなって思って…」
昴くんと一緒に手をつないで泳いだ。奇麗な熱帯魚、海がめ。ああ、まるでニモの世界だ。…と思っていたら、さんご礁とカクレクマノミがいた。
「昴くん、二モ!二モ!」
「ほんとだ!」
昴くんとおおはしゃぎした。それから、マンタが悠々と泳いでいて、その横をエイが泳いでいった。
「イルカに会いたいな」
私が言うと、
「じゃ、もう少し浮上してみよう」
と昴くんが言って、海上近くに行くと、横をすい~~ってイルカが泳いでいった。
「イルカ!!!」
私が大騒ぎすると、イルカが2頭きて、頭を私たちの方に向ける。
「背ひれ、つかんでみて、ひかり」
そう言われてつかむと、スイ~~。私を連れて、イルカが泳ぎ出した。
「すご~~い!」
昴くんも、もう1頭のイルカと泳ぎ出した。
感動だ…。
思い切りイルカと、じゃれついたあと、イルカと別れると、また二人で海の底まで潜ってみた。
「あった!遺跡!」
本当にそこには、海に沈んだ町があった。
「アトランティスか、ムーか…」
昴くんはわくわくした顔つきで、そう言った。
「これ、昴くんの夢なんだよね?」
「うん」
「じゃ、昴くんの思い通りになってるんだ」
「かもね」
「ふうん…。じゃ、次は何があったらいい?」
「そうだな。海賊船とかが沈んでる…」
「それは嫌だ!」
なんだか、怖そう。
「サメが出てくる…」
「やだやだやだ、絶対にやだ!」
「じゃ、人魚?」
「に、人魚?」
奇麗な女性だったらやだな…。
「あはは!ひかり、嫉妬深いんだから、もう~~」
何よ~~。いいじゃん!
「はは…。それじゃあね。浜辺に行って、のんびりってのは?」
「うん。いいよ。すごく奇麗な浜辺がいいな」
そして二人で浜辺に行くと、真っ白な砂浜で、すんごい奇麗な海が広がっていた。
「ここね、一応無人島っていう設定ね」
「ええ?」
「二人っきりの世界だから」
「くす…。いいね、それ」
すぐ近くに、バナナの木がなぜかあり、それを取って食べると美味しかった。それから島を探検してみると、奇麗な花や珍しい鳥がいた。
そして一気に夜になり、満天の星空が現れた。
「え?もう夜?」
「うん。やっぱり、夜の方がその気になるでしょ?真昼間だと、ひかりが恥ずかしがるかなって思って…」
何の話よ~~。もう~~。
砂浜まで手をつないで歩き、星が本当に降ってきそうな星空の下、抱き合った。
なんだか、スケールの大きな夢だよね…。そんなことを思ってると、
「じゃ、次はどこに行きたい?」
昴くんが聞いてきた。
「そうだな。オーロラを見たりするのも、いいかも」
「じゃ、次はオーロラツアーね」
「次?次の夢でのお楽しみ?」
「そ。そういうこと」
ふふ…。昴くんとみる夢は、楽しいね…。
そして、目が覚めた。昴くんも同時に目が覚めたらしい。
「おはよ!ひかり」
「おはよう…」
窓からは朝の光が差し込んでて、まぶしかった。
私が洗濯をして、掃除をしている間、昴くんはすごい集中力で台本を読んでいた。
それから昼近くになり、近くのファミレスに行った。店員が私たちに気がつき、
「会見見ました。おめでとうございます」
と言ってくれた。
「ありがとうございます」
昴くんが丁寧にお辞儀をしてた。私もそれに習って、お辞儀をした。
席に通されると、周りの人が私たちを見た。昴くんは軽く会釈をして、にこって微笑んでいた。
『え?』
それを見て、びっくりしてると、
『なんかね、嬉しくて誰にでも微笑みかけたくなってるの、俺』
と昴くんが心で言ってきた。
『ふふ…。そうだね…』
昴くんはすごい光を出していた。私からも光が出て、二人の光が混ざり合い、辺り1面を包んでいた。
「すごい光ですね」
隣の席の人が、そういきなり言ってきた。
「え?」
私と昴くんが驚いていると、その人はにっこりと微笑み光を出した。
「会見も見ました。すごい光をお二人が出しているなって思いながら」
「見えるんですか?」
昴くんがその人に聞いた。
「はい。お二人は本当に素晴らしい。ブログや、小説からも光が出ていて、私は驚きました」
「あの…。もしかして、あなたももう目覚めてる?」
私が聞くと、その人はうなづいた。
「はい。瞑想の会に行って…」
「白河さんの?」
「そうです。あなた方のことも、白河さんやノエルさんから、聞いてますよ」
「この近くに住んでるんですか?」
「はい。そうだ。この近くのお寺でも、座禅の会があるんです。良かったら今度、お二人も来ませんか?」
私が昴くんの方を見ると、昴くんはにこって微笑み、
「はい。じゃ、時間が空いたら、行ってみます」
と答えた。そしてその人は、先にお店を出て行った。
「驚いたね。目覚めた人が、こんなそばにいて」
昴くんがそう、話しかけてきた。
「うん。会見の会場にもいたよね。光を出していたよ」
「うん、見えてた。榊さんもいたし」
「目覚めの連鎖だね」
「そうだね」
「町を歩いてても、黒い霧が少なくなっているよね」
「うん」
私たちは、のんびりと遅い朝食を終え、お店を出ると、昴くんはそのまま駅に行き、テレビ局のスタジオへと向かった。
私はまたマンションに戻り、昴くんのシャツにアイロンをかけたり、雑巾がけをしたりした。そんななんでもないことが、すごく幸せだった。
そして、翌週の大安吉日、私たちは入籍した。
その日の夜に実家に報告に行くと、父も母も大喜びをして、すぐにお寿司をとり、ビールで乾杯をしてお祝いをした。
昴くんはすぐに真っ赤になり、眠そうにしていた。
『駄目だ。寝そうだ。俺…』
「昴くん、マンションまで持たないかも。今日は泊まっていってもいい?」
私が聞くと、母は大喜びをした。
「いいわよ!じゃ、広輝の部屋に泊まってく?」
「母さん、一応もう夫婦なんだし…」
そう父に言われて母は、
「そうね。でもひかりの部屋のベッドじゃ小さすぎるでしょ?あ、お客さんようの和室に布団敷きましょうか?」
と言ってきた。
「うん、そうして」
母がすぐに布団を敷いてくれた。その間に昴くんは顔を洗ったり、歯を磨いていたが、和室に行くと、そのまま布団に倒れこんだ。
「寝るの待った!着替えて、昴くん」
「着替え、ないよ…」
「兄のを貸すから」
すごいタイミングで母が、兄のパジャマを持ってきた。
「はい」
母から受け取り、昴くんをどうにか起こして着替えさせた。着替え終わると、
「も、駄目…」
と布団に潜り込み、ぐ~~~~。またかい…。ほんと、寝つきのよさ、世界一なんじゃない?
私はまったく眠れそうになくて、リビングに行くと、父が一人でお酒をしみじみと飲んでいた。
「あれだな~~。昴くんはお酒、弱いんだな~~」
一緒に飲み交わしたかったようで、がっかりしているようだった。
「ひかりは、お茶でも飲む?」
「うん。そうする」
母がお茶を私と母の分、持ってきてリビングに座った。
「昴くんは、ほんと、いつ見ても奇麗ね」
母も昴くんの顔を見て、うっとりしていたようだ。
「そうだよね。肌も私よりもつるつるだし」
「若いんだから、そりゃそうだろ」
父に言われてしまった。
「それに、ほんといい子よね」
母は、とにかくお気に入りの様子。
「息子になったんだよな~」
「え?あら、そうよね!なんか、照れくさいわよね。これから、お義母さんなんて呼ばれるのかしら」
母はちょっと、顔を赤く染めた。おいおい…。照れてどうするの…。ああ、親子だなって思ってしまった。