10 記者会見
翌日、朝のワイドショーは、昴くんのいきなりのプロポーズで持ちきりになった。
それより何より、朝7時になるかならないかの時間に電話が鳴り、事務所から昴くんは呼び出された。
「え?今日もロケですけど…。え?その前に行かないと駄目ですか?」
眠気眼の昴くんはそう言うと、半分まだぼ~~ってしたまま、電話を切り、顔を洗いに行った。
「だ、大丈夫なの?怒られるんじゃないの?」
「え?なんで?」
「だ、だって、一緒に暮らしてたことも内緒にしてた」
「大丈夫だよ、だってさ、俺の人生だよ?なんで、そこで人から怒られなきゃならないの。そりゃ、秘密にしてたことは謝りに行くけど。結婚を決めるのも、プロポーズするのも、俺が決めることで、事務所の人は関係ないじゃん」
そ、そっかな~~。
「心配しないで、ひかり。安心してて。ほら、黒い霧出たよ」
昴くんはそう言うと、パッと光を出して霧を消した。
「あ、ありがとう」
そうだよね。いきなりこんなことになって、動揺した。でも、何も心配することなんて、一つもないんだよね。
「そういうこと!すべて流れに任せて!ね?」
「うん」
昴くんは軽く私にキスをして、それから着替えると、
「じゃ、ちょっくら事務所に顔出してくる」
と、家を出て行った。
『あれ?ご飯!』
『うん、いいよ。どっかでなんか適当に食べる』
昴くんの声がした。
ああ…。もしや、これからすごく大変なことが起きるんじゃないのかな?あ…。また、黒い霧が出ちゃった。もっと、宇宙を信頼して生きなきゃね。
2時間して、昴くんから話しかけてきた。
『ひかり、聞こえる?』
『うん』
『いきなりだけど、明日、記者会見するよ』
『え?!』
『早めの方がいいって、事務所の人も言ってるから』
『早すぎる』
『ひかりも一緒に出ることになりそう』
『うそ。なんで?』
『そういう要望多いんだって。どうする?』
『私が決めていいの?』
『う~~ん。俺はもう、こうなったら、二人で出てもいいかなって思ってるけど』
『え?』
『低い次元の時みたいに、光を二人で出してさ、記者会見の会場ごと光で包んじゃおうよ。それに、テレビを通して観ている人まで、光は届くよ』
『これもミッション?』
『きっと、そうだよ』
『わかった』
き、緊張!!!
『低い次元で、経験してるじゃない』
『それとは違う。結婚の会見だし、ここでは昴くんは、売れっ子の俳優だし』
『それにひかりは、売れっ子の作家だし』
それは自覚ないよ。まったく…。
昴くんは、すごくあったかいエネルギーを送ってくれて、交信をきった。
どうやら事務所で、怒られたりすることもなかったようだ。
そうだよね…、もうそういう次元じゃない世界になってきてるんだもんね。
ノエルさんから電話が来た。
「ラジオ聞きましたよ。結婚おめでとうね」
「あ、ありがとうございます。それで明日会見を開くことにもなって」
「まあ、楽しみね」
楽しみ…?そっか。そんなとらえ方なんだな。
徹郎と、緒方さん、それに珠代ちゃんからもメールがあった。どれも、
「おめでとう。お幸せに」
というメールだった。ああ。本当にみんなして祝福してくれるんだな。
ワイドショーを見ていても、コメンテーターが、
「ラジオでプロポーズなんてやるわね。でも、昴くんはずっと彼女とのことのろけてばかりだったし、本気で思ってるのね」
「みんなに祝福して欲しいって言ってたけど、祝福しちゃうわよね。なんだか、いつも幸せをおすそ分けしてもらってる気分になる」
そう言うと、司会の女性もうなづいて、
「そうですよね。自分もあのくらいのろける恋したいって思いますよ。羨ましいけど、お二人には幸せでいて欲しいって思います」
と言っていた。
「会見が明日開かれるっていうことですが、楽しみですね。どうやら、彼女、空野いのりさんも同席するようですよ。」
男性の司会者がそう言うと、
「まあ、楽しみね。またのろけまくってくれるんじゃないの?」
コメンテーターが笑って、そう言った。
はあ……。もう私も同席することになっちゃってるのね。だけど、みんなあったかく思ってくれてて、嬉しかった。
その後、昴くんから、明日の会見が、何時になるかメールが来た。
『なんでメール?』
『だって、事務所の人が、ちゃんと今すぐ送っておけって。一緒に住んでるし、あとで言いますって言ったら、今日も遅くまで撮影だし、早めにメールしてあげなさいってさ…。すぐ後ろで見てるんだ。送らないわけにはいかないじゃん。心で話しておきます…なんて言えないし。あ、もうそれもばらしちゃう?』
『ばらさないよ、それは~~。そんなこと言ったら大変じゃない』
『だよね。あ、メールしたとおりだから。それと、今夜も夜中になる。寝ててもいいよ。早めに寝ないと、お肌に出ちゃうでしょ?」
『年だって言いたいの?』
『違うよ。でもさ、ひかりが肌のこと、気にしてるじゃんか』
『……。先に寝てるよ』
『うん』
でも寝れるかな。緊張で寝れないかも…。
『ぶ…。もう、緊張?』
そりゃそうだよ。緊張してるよ~~。
『じゃ、寝れたら寝てて。寝れなかったら、待っててね。俺が隣にいたら、すぐ寝れるでしょ?』
『うん』
『あ、ひかり、今、めっちゃ喜んでた…』
『え?ほんと?』
『なんだ、また無意識?昴くんが隣にいたら、安心してすぐ寝れるって喜んでたよ』
そ…。そうかも…。
夜、やっぱりベッドに潜りこんでも、なかなか寝れなかった。昴くんは、静かに家に入ってきた。どうやら、私が寝てるかと思いながら、入ってきたようだ。
『昴くん?』
『あ、起きてた?』
『やっぱり、寝れなかったの』
ガチャ…。部屋のドアが開くと昴くんが、
「ただいま~~~。うにゃ~~~っ!」
と言って、ベッドに飛び乗ってきた。
「うわ!昴くん、何~~?」
「へへへ。撮影ハードで、ハイテンションのままです」
「お疲れ様」
ヘロヘロで倒れこむときと、ハイのままのときとあるよね…。
「風呂入ってくる」
「うん」
昴くんはベッドからスタッと飛び降りると、早足でバスルームに向かっていった。
…すぐそばにいる、昴くんのエネルギーを感じた。あっかたくって、愛しい…。それだけで幸せになる。
『ん?何?呼んだ?』
『ううん。呼んでないよ。ただ、昴くんのエネルギーを感じたかっただけ。あったかい…』
『風呂入っているから?』
『ふふふ。違うよ。昴くんがあったかいの』
『ひかりも、あったかいよ。すげえひかりの気が気持ちがいいんだ。あ、それもそうだよね、俺ら同じ魂なんだから』
『そうだね…』
『ひかり…』
『……』
『あ、うそ。寝ちゃった?』
ホワホワ、いい気持ちだ。昴くんエネルギーに包まれて、すごく幸せ。
その時には、もう私は寝ていたようだった。昴くんが、いつの間にか横にいて、私の肩を抱いた。そこは、雲の上だった。
「すげえ、俺ら雲の上にいるんだ!」
昴くんが喜んだ。
「気持ちいいね」
「うん。最高。どうしたの?なんで、ここにいるの?」
「なんでかな?わかんないけど、フワフワ気持ちがいいまま寝てたら、雲の上にいたの」
「おもしれ~~!」
昴くんは大喜び。
「どっかに雷様とかいないかな」
「ええ?」
「それとか、天使とか」
「ふふ…。いるって思ってたら、いるかもよ。夢なんだし」
「そうだね。でも、ひかりとこうやって、雲の上で寝転がってるのが1番いいや」
そう言うと昴くんはごろんと寝転がった。
「あ~~。雲の上にいても、空が青い。太陽、まぶしい~~!」
「ふふ…」
昴くんの腕枕で、雲のベッドに寝てるみたいだ。
「ベッド?そうだね。じゃ、ここでHもしちゃう?」
「Hって言うなってば!」
「え~~。いいじゃん、別に」
「このまんま、フワフワ浮いていたいよ」
「そ?じゃ、そうしよう」
昴くんはそう言うと足を組み、空を見上げながら、鼻歌を歌い出した。
ふ…。目が覚めた。外はもう明るかった。
昴くんは気持ちよさそうに、まだ寝ていた。そっとベッドから抜け出し、顔を洗いに行った。
会見だ…。鏡を見ながら、ため息をついた。
朝食を作っていると、昴くんが起きてきた。
「おはよ!」
けっこう元気で、目覚めがいい。
「あふ…。今日だね、会見」
昴くんはまったく、緊張していないみたい。
「ひかりは?緊張してる?」
「うん」
「大丈夫だって!」
そう言うと、昴くんはにかって笑った。
会見は午後から。それまで、撮影があるらしい。
「ハードなスケジュールだね」
「うん。一緒に住んでなかったら、夢でしか会えないよね」
「うん」
「昨日の夢、面白かったな。雲の上、初めてだよ。今度は海の中はどう?」
「息苦しそう」
「あはは…。夢だから、水の中でも、息が出来るってことにしちゃおうよ」
「うん、いいかも」
そんな話をしながら朝食を済ませ、それから着替えると昴くんは、ハグしてキスして出て行った。
『あとでね!』
昴くんから、声がした。
『うん』
どきどきだ…。でもきっとすべてが、うまくいく。大丈夫。そう自分に言い聞かせ、洗濯をしたり掃除をした。
そして、会見の時間の1時間前、家を出た。
昴くんの所属している、事務所にまず向かった。そこで、昴くんと落ち合って会場に行く。
『ひかり、もうすぐ着くけど、ひかりは?』
『私ももうすぐ、着くよ』
昴くんと心で会話をした。昴くんはずっとあったかいエネルギーを、私に送ってくれていた。
それから昴くんと会うと、マネージャーさんや、事務所の人と一緒に、会見の会場に向かった。
『はじまるね』
昴くんが心で話しかけてきた。
『うん…。ドキドキだ』
『くす…。ほんと、心臓飛び出しそうなくらいだね』
『わかる?』
『わかるよ。なんか、俺までドキドキしてきちゃった』
『ごめん、伝染した?』
『あはは。どうかな?でも、ドキドキも楽しんじゃおうか?』
昴くんらしいな…。
「さあ、もう記者の皆様は、席についています。そろそろ時間です。準備はいいですか?」
事務所の人が言って来た。
「はい」
昴くんはにこってほほえんで、答えた。
いよいよだ。
会場に入ると、いきなりフラッシュの嵐だった。記者の人たちは、みんなにこやかだった。それに何人かからは、光も出ていた。
ほ…。その光で一気に気持ちが落ち着いた。カメラをかまえながらも、光を出している榊さんの姿もあった。
そして、会見が始まった。昴くんは、静かにそしてにこやかに、記者の質問に答えていた。
「一緒にもう、住んでいるということですが、いつからですか?」
「今年に入って…、えっと、1月の中旬からだったかな」
「どうして、一緒に住むことになったんですか?」
「俺、あ、いえ、僕が忙しくなると、ほとんど会えないものですから、じゃ、一緒に暮らしちゃえば、もっと一緒にいられるよねって、そんな感じです」
昴くんは、ひょうひょうと答えながらも、光を出していた。私も、横で光を出しながら聞いていた。
「出会ったのは、いつですか?」
「昨年の夏ごろです」
「どこでですか?」
「舞台を観に来てくれてました」
「そこで、会って一目ぼれですか?」
「いえ…。そういうわけじゃなかったですけど…。でも、気になっていました」
「空野さん、空野さんは、天宮昴さんのことをどう思っていましたか?」
うわ。私にだ…。落ち着け~~!
『落ち着け~~』
昴くんもそう心で言って、くすって横で笑った。
「はい。昴くんのファンでした」
声が震えた。
「いつごろからですか?」
「昨年の、春から」
「お付き合いをしようと言い出したのは、天宮昴さんからですか?」
「え?いいえ。はじめは、なんていうか…、友達だったっていうか…。付き合うっていう気はなかったんですが、いつの間にか大事な存在になってて…」
昴くんはそう答えた。
「それで交際が始まって、一緒に住むようになったんですね。では、結婚をしようと思ったきっかけは?」
「ラジオでも言ったように、こそこそしているのも嫌でしたし、みなさんに祝福されて、どうどうと二人で暮らしていきたかったんです」
「天宮さんはまだ、20歳ですよね」
「はい」
「まだ、結婚するのは早いとは思いませんか?」
「はい、全然」
「空野さんは10歳年上ですが、年齢のギャップを感じたことはないんですか?」
「ないです」
昴くんがきっぱりとそう言うと、私にも聞いてきたので、
「ないです…」
と静かに答えた。
「空野さんのどこに惹かれたんですか?」
「全部です」
また、昴くんはきっぱりと答えた。
「空野さんは、天宮さんのどこに惹かれたんですか?」
「わかりませんが、気づいたら、もうファンでしたから」
「ファンでいた時は、テレビやスクリーンで観ていたんですよね?実際会って、印象が違ったりしませんでしたか?」
「はい。違いました」
「どこがですか?」
「はい…。あの、もっと大人なイメージがあって、落ち着いてる礼儀正しい青年だって思ってたんです」
『え?もろ、そうじゃん!』
横で昴くんは私を見て、そう言ってきた。
「でも…、実際会って話してみたら、子供っぽいところもあって、それに楽天家で、いつでも明るくて、なんでも楽しんじゃう、そんな人でした」
「子どもっぽい?」
「はい。けっこう…」
『なんだよ~~!ばらすなよ』
「では、年齢のギャップを感じたんですか?」
「いえ、それはまったく」
「ひかりも、子どもっぽいんですよ。精神年齢は変わらないです」
昴くんが勝手に答えていた。
『なによ~~!』
『反撃!』
え?何それ~~…。
「さきほどから見ていると、何度も何度もお互い視線を合わせてますけど、アイコンタクトですか?」
「はい。目を見たら、何を思ってるか、たいていわかっちゃいます!」
昴くんはそう、どうどうと答えた。
「心が通じ合ってるんですか?」
一人の記者が光を出しながら聞いてきた。あ、仲間の人だ。
「はい!もうばっちり!」
昴くんはにかって笑いながら、答えた。
「では、今、空野さんは何を思ってますか?」
『え?』
何?いきなりなんて質問?
昴くんは私の方をじっと見た。
『何?何を言うつもり?』
「えっと…。あはは。多分、今、めちゃ困ってます。ね?」
「はい…」
「空野さんのことを、本当によくわかっているんですね」
他の記者が言って来た。
「はい。今日の会見も、ずっと緊張してたのわかってたし…。ひかりは、けっこうしっかりもののようで、おっちょこちょいです。シャイだし…。あ。そうなんです。恥ずかしがりやなんです。すごく」
『言うな~~。ばらすな~~!』
「あはは。今、ばらすなって思ってるでしょ?そういうところが可愛くって」
「だんだんとのろけになってきましたね」
「あ、すみません。つい…」
「結婚式はいつごろ?」
「まだ、全然決めてないです。」
「お子さんは欲しいですか?」
「それもまったく考えてないです」
「空野さんのご両親は結婚のことをなんて?」
「はい。賛成してくれてます。すごく喜んでて…」
「では、天宮さんのご両親は?」
「うちの両親も喜んでました。正月、ひかりと実家に行ったんですけど、すごくひかりのこと気にいってたし」
「ひかりさんは、あ、空野さんは…」
「ひかりでいいです」
「すみません。では、ひかりさんは、以前離婚をしたとご自分で言ってましたよね。もとだんなさんに未練などはないんですか?」
「はい。あ、結婚のことをラジオかテレビで知って、おめでとうのメールをくれました」
「じゃ、もとだんなさんも、祝福されてるんですね?」
「はい」
私はにっこりと微笑んで、うなづいた。
会見の会場は光に包まれていた。私と昴くんから出る光と、記者やカメラマンの中にいる、仲間から出る光で。
会場全体はあったかく、みんながにこやかだった。記者会見が終わっても、まだ、みんなにこやかで、
「おめでとう」
とか、
「お幸せに」
という声が、記者からも聞こえた。
「ありがとうございます」
昴くんとぺこってお辞儀をすると、会場を私たちはあとにした。
「は~~」
控え室で、思い切りため息をつき、置いてあったお茶を一気に飲んだ。
「咽からからだった…」
そう言うと、昴くんも、
「俺も」
と、お茶を飲んでいた。そこにマネージャーさんが来た。
「昴は次の仕事場へ移動ですから、送っていきます。あ、ひかりさんは、駅まで車で送りましょうか?」
「はい。お願いします」
マネージャーさんの車に乗って、そのビルの近くの駅まで送ってもらった。
「もう、ほっとできた?」
「うん。もう、大丈夫」
「じゃ、俺今日も遅くなるから、先に寝てていいよ。今日はすぐ寝れるんじゃない?」
「待ってるよ」
「そう?」
昴くんはそう言うと、私の手をぎゅって握った。駅に着くと、
「じゃね、気をつけて」
と昴くんは言って、手を振り車は出て行った。
会見の模様はすぐに、テレビのワイドショーで流れ、またメールが次々に送られてきた。
それに、母からの電話。兄からの電話。もう、仕事中だよね?兄なんていったいどうやって、テレビ見てるの?と思ったら、携帯でしっかりと、見ていたらしい。
「あ~~。終わった」
電話やメールがひととおりやってきて、落ち着くと、私はさっさとお風呂に入り、のんびりとした。
これからは、何をしたらいいんだろう?そんなことを思いながら、テレビを見ると、まだ昴くんとの会見が映されてて、その画像からは始終光が飛び出ていた。
昴くんの顔、私を見ながらすんごく優しい表情してたんだ。それにも気づけないくらい、緊張してたな。
私は昴くんを見る時、なんだか、すがってるかのようだ。昴くんにずっと助けてって心で言ってたかもしれない。だって、本当に緊張してたし…。
そんな私を、昴くんがずっと光で包んでる様子も、画面から見ることが出来た。光を見れる人なら、すぐにわかるな。これ…。
ノエルさんからも電話があり、すごい光でしたねって言われた。それに、結婚のお祝いをみんなで、しましょうねとも…。とても、嬉しかった。