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十二.1863年、続・回想~楠 小十郎~

尾形も山野に負けず劣らず朝に弱い。只、尾形については(もっぱ)ら本の虫からくる夜更しが原因であるが。

空が完全に白んで仕舞(しま)った時間帯に尾形は目を覚ます。未明を深い闇と過す事はあっても、旭日(きょくじつ)来光の現場に入隊してから未だ一度も立ち会った事が無い。


「・・・・・・」


むくりと身体を起すと、場に相応しくなく山野が佇んでいる。珍しく(しっか)りと覚醒しており、その上顔色が蒼褪めていた。



『尾形 俊太郎・・・・・・オマエ・・・・・・そういうヤツだったのか・・・・・・』



美男五人衆の一人とは思えぬ程顔が崩れ易いのが美男枠に()ける山野唯一の特徴である。くっきりとした目鼻立ちの美貌と相俟(あいま)って、整形疑惑が隊士間で浮上しつつあるのも特徴といえば特徴か。

顔の歪みの余りに唇が突出し、鼻唇溝(ほうれいせん)が遺憾無く発揮された死んだ目の(オランウータン)に化ける美男がいて堪るか。

・・・・・・尾形は少し怯んだ。

山野を呆然と見る視線の先に、自身と同じ表情をした島田が居た。だが若干、山野とも似た顔つきをしている。島田の場合は天然の(オランウータン)だが。


『なーーっはっはっはっは!山野きゅんも(ようや)く納得したのですますか!そうでげすます、尾形くぅんも所詮そういう男。キミの心の傷を僕が癒して・・・ひいい!!?』


どう嗅ぎつけてきたのか入隊早々本作群の小悪党枠に収まりつつある武田が乱入し、人間から退化する山野にすぐさま目玉が眼鏡を割る程の悲鳴を上げる。武田も流石(さすが)に退化したイケメンは好みではない様だ。

まぁ、武田のその怯えの走る顔も小心者の眼鏡猿の様なものだが。


『こうなりゃヤケだ・・・武田観柳・・・・・・』


『い・・・嫌・・・・・・っ・・・!』


珍しく武田が山野を拒絶する。二人の追い追われる仲は逆転して、組んず(ほぐ)れつ理性の無い退場の仕方をする。尾形と島田は唖然とした表情の侭(それ)をただただ見送った。

『・・・・・・凄い剣幕(かお)だったな、山野・・・・・・』

『・・・・・・ええ・・・・・・』

尾形は思わず島田に同意した。

・・・・・・島田は尾形を横眼で一瞥すると、

『そういうお前も凄いがな』

と、言った。・・・・・・尾形の表情は素に戻る。先程から表情の記述がある様に、尾形は素顔を晒している。


―――床に触れる長さの髪を受け止める白い手が()る。


ふわりと舞きあがるその髪が、一本の組紐に()って束なかれる。表情を隠す前髪は横髪となって頬に沿っていた。


・・・尾形の背後に、白い影が張りついている。


まるで、末期の病に侵された人間に幽霊がとり憑いている様だった。



―――楠 小十郎。



美男五人衆最後の一人は、此の世の者とは思えぬ霊妙な美貌を纏った少年であった。

顎の部分に横髪を合わせるその指は、其の侭尾形の首を(つか)み、向う岸へ引き()り込みそうである。


楠だけではない。副長助勤から平隊士に降格し、彼の世に近い男となった佐伯 又三郎も叉同じ部屋に居る。


(いず)れも、尾形預りの隊士だ。

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