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閃く星は空を翔ける  作者: 武尾 さぬき
第1章 5人の編入生
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第5話 5人の叡智

 セントラル魔法科学研究院は、3回生の前期までは幅広く魔法学全般について学ぶ。それは、魔法科学の研究・実験、実戦的な魔法の技術、魔力の込められた道具、通称「マジックアイテム」の生成などなど……、多岐に渡る。




 3回生の後期からは、世間で活躍するいわゆる「魔法使い」、彼らの技術体系や理論を研究する「魔法研究員」、アイテムの生成やその技術開発を専門とする「魔技師」といったそれぞれの専門に別れていく。




 かつてセントラルで学び、今は魔法ギルドで活躍するパララやアレンビーは、共に魔法使い専門の道を進んでいる。そして、ギルドに所属していなくとも、その名では圧倒的存在感を誇るラナンキュラスもまた、かつてこの道を歩んでいたのだ。





 スピカはアフォガードの話を熱心に聞き入りながら、同時にここに並ぶ編入生たちのことを考えていた。




『あたしは魔法使いを目指しています。他の皆さんはどうなのでしょうか? そういえば、アトリアさん以外まだお名前も伺っていませんね……。うむむ』




 アトリアを除いた3人。1人は長身でがっしりした体型の男の子、真っ黒の逆立った髪形をしている。スピカは何度か彼に視線を送って見たが、一度も目が合うことはなかった。




 続いて、スピカと変わらないくらいの背丈で少しぽっちゃりした体型の女の子。ブロンズの髪が耳の横でカールしている。真ん丸で縁の大きい眼鏡がとても印象的だ。スピカは、彼女と何度か視線を合わせているが、話しかける機会を掴めないでいた。




 最後に、女子生徒たちよりもわずかに背丈が低く、細身の体型で深い紫色の髪をした男の子。彼に限っては前に垂れ下がった前髪が完全に目を隠しており、視線どころか、前が見えているのかすら不安になるくらいだった。





「――君たち5人は、競争率の高い編入試験を突破した選ばれし者たちだ。しかしながら、ここへ入っても競争は続く。むしろ一層厳しくなる、と言ってもいいだろう。各人各様の思い描く未来があるはずだ。そこへ向かって、努力を怠らないように」




 アフォガードはこう締めくくって大まかなカリキュラムの説明を終えた。彼はそのまま編入生たちを学生寮へと案内しようとした……、その時――。





「じっ……、自己紹介をさせてくれませんかっ!?」





 講義室に大きな声が響き渡る。その声の主は、スピカ・コン・トレイル。彼女の顔を一瞥したアフォガート。その目をスピカの真っ直ぐな眼差しが捉える。




「ふむ……、たしかに編入生同士、お互いをよく知っておくのは良いことかもしれない。よろしい、ならば君からはじめたまえ?」




 アフォガードはぼそぼそと小さな声で呟きながら、最初にスピカを指名した。




「はいっ! ヴィルゴ村から来ましたスピカ・コン・トレイルです! 魔法使い志望で、風の属性が得意です! よろしくお願いしますです!」




 スピカは立ち上がると、よく響く透き通った声で簡潔な自己紹介をしてみせた。その表情は輝くような笑顔で、彼女の明るい性格をそのまま物語るようだ。




 一瞬の静寂の後、次に立ち上がって口を開いたのは隣りにいたアトリア。どうやらスピカの視線から次の指名だと察したようだ。




「……アトリア・チャトラーレ。魔法使い志望、属性は氷が得意です。よろしく」




 あっさりとした自己紹介を終え、アトリアが席に着くと残された3人はそれぞれに視線を交わした。そして、長身の男が立ち上がり、片手で頭を掻きながら話し始めた。




「ベラトリクス・ヌーエンだ! 魔法使い志望っ! 雷の魔法なら誰にも負けん! 以上っ!」




 ベラトリクスは、誰にも視線を合わせず終始上向きながら声を出し、話し終えるとその場の席にどっかと座り込んだ。




「えぇーとぉ……、ポラリス・ワトソンですぅ。魔技師志望です、よろしくお願いしまぁす」




 ベラトリクスの自己紹介が終わると、ポラリスは間髪入れずに立ち上がった。先のベラトリクスとは逆で、常に視線を下にやって肩を揺らしながら話している。




 そして、最後に残された背の低い男子生徒は、顔の半分を覆い隠す長い前髪をかき分けながら話を始めた。濃い紫色をした髪の隙間からは細く鋭い目が覗いている。




「アルヘナ・ネロス。魔法研究員志望、よろしく」




 アルヘナは誰よりも短い自己紹介を終えるとすぐに席に着いた。彼の前髪は再び、その表情をベールで包むかのように隙間なく目を覆ってしまった。





 スピカ、アトリア、ベラトリクスの3人が魔法使いを志望。ポラリスとアルヘナはそれぞれ魔技師と研究員を志望している。


 この5人は今日から、王立セントラル魔法科学研究院に招かれた「新たな叡智」としてその一歩を踏み出すのだった。

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