第二章 暗殺者の悩み 一話
時は二時間前。
砂川の町の歩道で、ある男が、とある大企業の社長と秘書に近づいていく。
「あのう。弭間社長。 さすがにこのまま、各国に石油を密売するのはまずいんじゃないですか? そろそろ必要な手続きを取って、王道に取引すべきでは?」
黒いスーツの秘書の男が、高級なグレーのスーツを着ている男に、おどおどしながらそう口にする。
「君は心配性だな。何のために税関に賄賂を渡していると思っているんだ? いいかい。世の中、金を持つ者こそがこの世の頂点に君臨するのだ。どれだけ地位や名誉を持っていたとしても、金がなければ誰も追随しない。人間はどれだけ人を愛しても結局、金の魔力には抗えない」
弭間は、にやけた面持ちで偉そうに語る。
「しかし、ある噂を耳にします。各国で密輸をすると、ある企業の株価に大打撃を与えるとか。その組織は世界の一つ一つの企業に、生産した物を、安価で買い取り、各国で高額で取引しているらしいです。その組織こそが密輸を牛耳る元締めらしいのです」
秘書の男はハンカチで額の冷や汗をぬぐいながら、おどおどした様子で喋る。
「だから何だと言うのだ? どうせその組織も犯罪に手を染めているんだろ。悪党が悪党を出し抜いて何が悪いのだ? さっきも言ったろ。金こそが全てを掌握できる力なのだ。いずれ私の資産も京をいく。その時にはいくつもの島を買い、会社を設立し、我が社だけのブランドを生産し、大々的に宣伝し、海外に安価と言いながら高額で売買するつもりだ。今のように水面下で密輸する理由は、消費税や関税のコストを下げるためだった。関税を払うより、賄賂を渡した方が安上がりだしな」
反省する様子もなく、ふんぞり返るかのように流暢に語る弭間
「いえ、どうやらその組織は殺しの仕事にも携わっているとか。もし、弭間社長の密輸の件が奴らに発覚されたらと思うと、私は気が気ではなくて」
「何を馬鹿な事を。そんな殺し屋の様な仕事に逡巡していたら社長など務まらん」
秘書の言葉など気にも留めず、鼻で笑い、偉そうに胸を張る弭間。
秘書の男の忠告など聞く耳持たないという様子で。
すると、弭間たちの反対側の歩道で、小さな男の子が泣いていた。
「ママ―! ママー!」
その男の子は、どうやら迷子になったらしく、わんわん泣いていた。
「大変だ。今すぐに」
「――放っておけ」
秘書の男が信号など無視して渡ろうとしたその時、弭間が秘書の男を呼び止める。
「しかし、迷子の子供を放っておくなど」
「世の中、一日に何百何千と言う死者が出る。それに比べれば、迷子の子供など、雑排に等しい」
弭間の非道な言葉に、秘書の男は遣る瀬無い思いで唇をかみしめる。
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