十一 復旧(完結)
あれから、救助はすぐに来た。大したニュースにもならず、単にハイキング中の負傷ということですんだ。山での予期せぬ雷雨は珍しい話ではない。登山というほどのものではなく、救急隊員がゴムボートを使って駆けつけるまで二時間ほど我慢すればすんだ。
手当てを受けた恩田は順調に回復し、既に退院している。岩瀬とも正式に交際が始まった。お互い瓜子姫の血を継いではいるが、数百年前の話だし肉体的には全く問題ないほど遺伝子が離れているのは明白だ。現在の法律でもいとこで結婚できるくらいだし。したがって、両者の気持ちだけが大事だった。
一方で、薄山は行方不明のままだ。久慈も古山も。浦原病院は大規模な不正会計が発覚して経営破綻し、丸部整形外科ではダブル不倫が露呈した三宅と室野の姿が消えた。
湯梨水門橋は、老朽化を理由に取り壊しが実行された。そこから少し離れた無人駅は廃駅が決定され、近所のうどん店はひっそりと廃業した。
犠牲者の一人の名前を間違えた記念碑だけは、ずっと残っている。
覚正村の一件から半年後。
初夏の柔らかな陽射しを楽しみながら岩瀬と恩田は記念碑を訪問していた。献花も考えたが、後始末が厄介になるので結局は手ぶらにした。
「先輩、事件の証人ってこれしか残ってないんですよね」
記念碑の前で手を合わせてから、恩田はいった。自分達を除いてはという行間を心で読みとりつつ、岩瀬はうなずいた。
「血を引く人達はいるけどな」
そう。濃淡こそあれ。木辻家にせよ神出家にせよ無数のホラフキさんの血を継ぐ人々がいて、これからも増えていく。
「なら、ホラフキさんも安心して封印されてくれますよね?」
「意味不明だ」
恩田の要望は、時々極端に自分勝手になった。岩瀬からすれば冗談の種だが。
「そろそろ帰りましょうか」
「ああ」
二人そろって記念碑を背にした時、二人の母娘とばったりでくわした。古里の妻子だった木辻だ。
「あら……」
「これはお久しぶりです」
岩瀬は丁寧に会釈した。
「こんにちは」
恩田も如才なく頭を下げる。
古里がたどった運命を告げるわけにはいかないが、今後は豊かな人生を送って欲しい。岩瀬も恩田も等しくそう思った。
「こちらこそ。ほら、ご挨拶は?」
「ホラフキさん、だーれだ?」
母に促され、娘はにこにこしてそう聞いてきた。娘の声は、あのホラフキさんそのものだった。
終わり




