十 分裂と統合 十
断るわけにもいかない。恩田の体力も心配だが、ホラフキさんを封印できるならした方が世のため人のためだ。
「わかった」
岩瀬はホラフキさんの左脇についた。恩田は右脇。
「うう……ん……」
「くそーっ! くそーっ!」
火事場の馬鹿力を二人で発揮し、ホラフキさんは餅の上に腰を下ろさせられた。
餅の方がはるかに小さいのに、恩田の血を浴び続けるホラフキさんはひとりでに縮みながら餅へ吸収されていた。餅もまた、恩田の血を振りかけられているはずだが何故か白いままだった。
最後にホラフキさんの頭が餅の中に消えた。恩田は三方の前に倒れ伏した。
「恩田!」
岩瀬は、カッターナイフで恩田の上着から即席の包帯を作った。それを傷口を巻きつけ、出血をどうにか少なくした。
血。血がいる。
はっと思い出し、古里の白衣を探る。案の定、血液入りの注射器があった。針も別個にある。
素人がやっていいことではないし、この血液が本当に恩田の物とは限らない。例えそうでも時間がたって変質しているかもしれない。
それでも、やるしかなかった。手がひっきりなしにがたがた揺れるのももどかしく、恩田の右手首に浮き出た静脈から血液を注入した。一本だけではない。三本あった予備を全部使った。
「頼む、目を覚ましてくれ。頼む!」
注射する血液を使いきった岩瀬は、いてもたってもいられなくなり恩田の手足をさすった。
「恩田、俺も好きだ! 恩田! 好きだ!」
「知って……ますよ」
「恩田!」
「先輩……早く出ましょう、こんなところ」
「ああ」
出たところで水は引いてない。しかし、とりあえず岩瀬は久慈と古里からスマホを奪った。電波さえつながれば警察でも消防でも呼べる。
「歩けるか?」
「ちょっと……ふらつきます」
「肩を貸してやる」
「どうせなら……お姫様抱っこがいいです」
「こいつ」
思わず岩瀬は笑った。恩田も。それから、岩瀬は恩田の望みどおりにした。古里は放っておく。ここでじわじわ衰弱して、久慈と仲良くミイラにでもなるのがお似合いだ。
参道を戻り、エレベーターから展望台へ。
いざ地上へ帰ると、美しい夕陽が水びたしになった村をオレンジ色に染めていた。岩瀬と恩田が黙ってさえいれば、地下神社がバレる心配はない。それ以外の証拠は泥と砂利の下だ。
恩田をお姫様抱っこしたまま、岩瀬はスマホをつついた。すぐに電波が通った。久慈のような性格なら、万一を考えてスマホの電波が通じる段どりをたてておくだろう。
あとは、一一九だ。決して一一○じゃない。




