十 分裂と統合 七
「これでようやく、俺は現在の岩瀬に至った。苦労して木辻から抜けて岩瀬に取り憑き、さっさと餅探しに行きたかった。不可能だとわかった時の俺の落胆! 岩瀬は俺の血を一番濃く継いでいるが、邪魔者の血も入っていたんだ。取り憑いて初めて知った」
ということは、岩瀬は我知らず多少なりともホラフキさんに抵抗していたことになる。
「岩瀬には、瓜子姫の血も受け継がれていたんだ。正直、誤算だったぜ」
「瓜子姫!」
岩瀬と恩田は異口同音に叫んだ。天邪鬼がいるなら瓜子姫だって当然いる。論理としては正しい。正しいが……。
「俺は、瓜子姫を食べたりなりすましたりしたんじゃない。殺したんだ。あいつの血は、俺の力を失わせてしまうからだ。それは江戸時代なんかよりずっと前の話だが、瓜子姫は子孫を遺していた」
すなわち岩瀬は瓜子姫の遠い子孫にもなる。どれだけ縁が近いかは不明瞭ながら。
「瓜子姫の血をどうにかしないといけない。だから俺は、岩瀬に病気を授けてやった。回転体眩惑症という病気をな。ついで、夢という形で久慈にそれを伝えた。久慈は俺が作った脚本に沿って岩瀬にでたらめな治療をほどこした」
度を越してナンセンスすぎる展開に、岩瀬は怒る気にもなれなくなった。人を物扱いするという次元すら超越している。
「嘘が蓄積されればされるほど、瓜子姫の血は弱くなっていく。本人が自分でつく嘘でなくとも構わない。嘘にさらされること自体が重要だ。最後の決め手が都市伝説……ホラフキさんだよ」
だから神出が病的にこだわったのか。
「さて。ようやくお楽しみの……」
「ワハハハハハ! アハハハハハハ!」
ホラフキさんの説明を、久慈は爆笑でさえぎった。彼のこれまでの態度からして、二重三重に不可解としか思えない。古里も、爆笑ではないが同調して笑っている。
「何がおかしい?」
ホラフキさんは、つと顎を上げて久慈を睨んだ。
「時空を超越する執念、まことにご立派! ですが、私も自分で自分の猿芝居に飽き飽きしましてね。ホラフキさん、あなたの役目はもう終わったんですよ」
「どういう意味……」
ホラフキさんが聞く前に、古里はポケットからピストルに似た道具を出した。注射器がセットされている。抜く手も見せない早業で、彼はホラフキさんに対して引き金を引いた。ホラフキさんは軽くよけたが、彼の背後にあった三方に当たって砕けた。そもそも注射針がついてないから、固い物に当たれば自動的にそうなる。中身は赤い液体で、たちまち蒸発してガス状の帯になった。臭いからして血のようだ。
「ぐぐっ……こ、これは……」
帯に巻きつかれ、ホラフキさんはうめきながらもがいた。どうにもならない。
「目には目、オカルトにはオカルトだ。我々も、文献から瓜子姫の血がお宅の弱点だと突きとめていたのだよ。薄山君さまさまだな! 心配せずとも殺しはしない。我々の研究材料として永遠に生きてもらおう」
「薄山は殺された!」
岩瀬は反射的に怒鳴った。




