十 分裂と統合 六
「一口に血のつながりといっても濃淡がある。単に位置がわかるというだけで、どれくらい強いかは取り憑かないとわからない。一度取り憑くと、そいつの心身からはなかなか抜けられない。逆にいえば、爆死したせいでそこまで俺は弱っていた」
ホラフキさんの語る時代が、だんだん岩瀬達に近づいてきた。
「餅に俺の血が混ぜられた話もそこで知った。餅がまだ覚正村のどこかにあるのもわかった。だが、そこまでだった」
「木辻が餅を隠していたからだろう」
機雷の部屋にあった資料……恩田家の血液分析と餅の成分の比較検証。あれは終戦寸前から始まっていた。研究の成果をダミーの機雷に隠すほどの用心深さといい、彼以外にありえない。
「それだよ、岩瀬! まさにそれだ! 皮肉にも、俺の血で強化された知恵を使って餅を隠していたんだ。それがここだ。戦時中の軍人らしく、神社まで作るとは恐れ入ったぜ」
ホラフキさんは一度言葉を切り、いっそうにやにやしながら久慈と古里を眺めた。
「ぼつぼつお前達の出番だな? 久慈に古里。もっとも、俺の語りはまだ敗戦直後だから、お前らの祖先になるな」
久慈と古里は、気まずそうに身じろぎした。
「敗戦直後、久慈の祖先は覚正村で診療所を運営していた。そこに、旧海軍が潰れて失業した木辻が流れてきた。木辻を医者として雇った久慈だが、木辻が旧海軍時代の研究を続けていると本人から知らされた」
何故、自分から暴露を……。岩瀬は質問したくなるのをぐっと我慢した。
「木辻は、最初は反対しても結局は学者としての好奇心に久慈が耐えられなくなると計算していた。それで協力者を作るつもりだったんだな。だが、時間差で爆発事故が起きた。手当てのためにかけつけた久慈は、もう一つの機雷が漂着しているのを見つけた。機雷の表面に刻印された番号は、木辻が生前明かしたものと一致した」
ここで、ホラフキさんの血を引く者からただの人間に研究者が切り換えられた。
「久慈の祖先は、好奇心に耐えられなかった。だから、木辻の遺した資料を使ってある程度までは研究を進めた。一人の人間に二つの脳ってやつだ。もっとも、二つ目は俺の提供になるわけだが」
いささか自慢げに、ホラフキさんは胸を反らせた。
「しかし、いかんせん奴の能力には限界があった。久慈は自分の子孫に研究を伝えることにした。俺は八十年近く、木辻や神出の子孫を探しては取り憑くのを繰り返しながら久慈の子孫が研究を進めるのを待った」
化け物にしてはずいぶん回りくどいやり方だと、岩瀬は思った。
「俺は、岩瀬の祖先が作った餅さえあれば……正確には餅から血を取り戻せば肉体を回復できる。餅は旧海軍の木辻が隠した。久慈の研究が行きつけば、俺の血を強く引き継いだ人間が現れる。俺はそいつに取り憑いて、餅を探させる」
やはり、岩瀬は鵜飼いの鵜と同じだったのだ。
「問題はタイミングだ。久慈を監視しておく必要がある。それで、現在の木辻を使って古里を誘惑させた。古里を通じて久慈の動向を把握したのさ」
前からわかりきっていることだが、やはり天邪鬼はろくなことをしない。




