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ホラフキさんの罰  作者: マスケッター


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73/80

十 分裂と統合 四

 地下に神社を作ること自体が狂気の沙汰である。とりわけ本殿たるや、大雑把な見取りだけでも横幅二十メートル、奥行十メートルはあろうか。屋根は緑色の銅ふき、柱は全て朱色も鮮やかな丹塗りだ。


 秘密施設というからには、パイプだのカプセルだのがびっしりとならび、大小無数の計器盤がずらりと整列したパネルなどを予想していた。そんな代物はどこにもない。せめて、自分の後をついてきている久慈達の表情が見られたら少しは現状が把握できるものを。


 違和感は、それだけではない。


 岩瀬は、夢と微妙に外れる本殿の雰囲気に立ちどまって首をひねった。背後に久慈らを待たせたまま数秒消費し、理解した。鳥居に比べて新しすぎる。または、汚損がなさすぎる。もっとも、本殿の正面には土がむきだしになっている。砂利も敷かれてなければ造花一本ない。


 ホラフキさんは何も語らない。ならば、実際に足を運ぶしかない。


 本殿への階段に面して、さすがに靴は脱いだ。礼も柏手もないままだが、必要なかろう。そういえば鈴も下がってなかった。


 両開きの扉を開けると、がらんどうに近い室内に三方が一つだけ置いてあった。大きさも、上に餅があるのも夢そのままだ。ただ、餅は長方形に近い楕円形をしていた。夢でどうだったかは良く覚えてない。いつ作ったのか知らないが、つきたて同然の艶やかさだった。


「恩田、俺と餅の両端をそれぞれ持ってくれ」

「はい」


 岩瀬は、恩田と三方の両脇に立った。餅を手にして持ちあげると、二人がかりなのに相当重かった。


「持ったままうしろに引っ張れ」

「はい」


 岩瀬は夢の内容を見よう見まねで再現しているだけだが、妙な自信があった。ホラフキさんが静かなままなのが、逆説的に彼の考えを補強していた。


 餅は、指をかけるとずぶずぶめり込んだ。そのくせいたずらに伸びたり変形したりもしなかった。


 数秒踏ん張ったらぱちんと音がした。夢と同調していたのはそこまでで、二人そろって尻餅などつかない。だいいち、餅は三方の真上で割れはしたが完全にはちぎれてない。


 餅の割れ目から、青い液体がどばどばほとばしった。噴水さながらで、岩瀬も恩田もペンキを塗りたくったように頭から爪先まで青一色になった。


「ありがとよ。芯からありがとよ」


 ホラフキさんの感謝が終わるや否や、猛烈な頭痛が襲ってきた。餅を手ばなし、床にうずくまる。恩田も似たような姿勢になっていた。餅は割れ目が入った状態のままどすんと三方の上に落ちた。


 遠くなりかけた意識の隅に、ちらっと薄山のブログが浮かんだ。江戸時代、斬りつけられた鬼からは青い血が出てきたのではなかったか。餅から血が出るなど予想できるはずがない。いや、餅は鬼の身体か何か……。


 ばりばりばりと恐ろしい音が頭の中で響いた。思わず手をやると、頭蓋骨にぽっかり穴が開いている。さらに、得体の知れないぬめぬめした代物がうごめきながらずるずると穴からはいでてきた。


 これほどの重傷なら、気絶したり嘔吐したりしてもおかしくない。岩瀬は、頭痛こそ強烈な反面それ以外には異常を感じなかった。むろん、異常が頭痛だけなのが異常極まりなかった。


 はいでてきた物は、青く親指くらいの大きさをしていた。形はヒルに似ている。伸び縮みしながら三方から餅の上にはい上がった。恩田からのも同様で、二つが餅の割れ目にもぞもぞ入りこむ。


 次の瞬間、音も煙もないまま一人の鬼が立っていた。覚正村に初めて来た時、岩瀬を追い回したあの鬼だ。身長は二メートル近く、痩せているが筋肉は引きしまっている。金棒こそかついでないが、全身から漂う邪悪な知性がそれを補ってはるかに余りあった。


「やっと復活したぜ」


 ホラフキさんの声で、鬼は宣言した。


「や、やはり……天邪鬼はホラフキさんだったのか」


 岩瀬は、両手を床についたまま鬼を見上げた。


「そりゃあ逆だ。ホラフキさんが俺だったのさ」

「天邪鬼様、良くぞ、良くぞご復活を! 何卒我らに功徳を示したまえ!」


 久慈が、五体投地せんばかりに熱く訴えた。


「まあ、そう慌てるな。そうそう、二人とも手当てがまだだったな」


 言葉が終わるが早いか、岩瀬の頭痛はあっさりと引いていった。

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