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ホラフキさんの罰  作者: マスケッター


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九 逆回転 一

 通路は上がりの階段で終わった。懐中電灯のハンドルから手を離してスイッチをつけると、今度はしっかりした光の束が階段の上を照らした。長方形の上げ蓋で終わっている。大人一人が充分に出入りできる広さだ。水は一滴もこぼれてきてない。ということは脱出の公算が高まったことになる。


 上げ蓋に手が届くところまで階段を上がり、片手で押して見た。意外にも軽い手応えがして、簡単に開く。ただ、ちょうつがいのきしむひどく甲高い音と舞い散るほこりには閉口した。


 上げ蓋を開けて階段を上がりきると、それなりに立派だったソファーや重々しい執務机が据えられた部屋だった。厳密には、執務机と書類棚に挟まれた床に上げ蓋が仕込んであった。


 壁の上半分には、一枚一枚が岩瀬の胸くらいありそうな写真が額縁に入れて納めてある。全員が年配の男性だった。額縁ごとの真下にある帯のような厚紙によれば、一人一人が覚正小学校の歴代校長だそうだ。


 ここが校長室なのは当然として、さっきの地下室は何なのか。


 いずれにせよ、まずは身の安全を確保せねばならない。窓から外を確かめると、すっかり陽が暮れていた。雨雲のせいで月明かりもないが、断続的な稲光りに照らされて多少なりと状況が飲み込めた。雨で川がはんらんしている。ただ、岩瀬がいるこの小学校の辺りは問題ない。最初から川よりは標高の高い土地に建てたのだろう。


 しかし、恩田の無事がますます危ぶまれる。廃村であるから救助隊など来るはずがない。スマホも壊されている。有線電話など論外だ。


 つまるところ、ただでさえ孤立している

状況が余計に深刻になった。


 恩田を救助するにせよ脱出するにせよ、まずは確実な情報が必要だ。幸い、ここは小学校だ。必ず自分達の村について勉強するだろうし、児童達がまとめた研究だってあるだろう。


 それから、自分の体力とも相談せねばならない。最低でも濡れた身体を乾かさないと、この状況で風邪でも引いたらおしまいだ。


 自分を気絶させ、土建屋まで運んだ何者かがここに来る可能性もある。どんな選択を優先すべきか。


 思案を重ね、まず職員室を目指した。どうせ鍵がかかっているだろうが、ことここに至っては廊下側の窓を壊してでも入る。


 学校なるものは、とりわけ地方の小さなそれはどこでも似たような造りだ。簡単に行きつけた。出入口にはやはり鍵がかかっているが、隣の教室から椅子を拝借して廊下側の窓に叩きつけた。やっていることが強盗並みだが仕方ない。まず窓の鍵を外し、窓から室内に入った。それから出入口の鍵を外した。校内の鍵は壁にまとめてかかっていたので失敬し、教員の机を適当に開ける。ほとんどは空だったが、こういう環境ではずぼらな人間が一人はいる。


 案の定、教材から生徒の名簿まで入れっ放しの机があった。机を覆うように敷かれたガラス板には、校内の見取図がある。


 むろん、個人情報などどうでもいい。必要なのは土地勘の材料だ。


 机に社会の教材を広げて頁をめくり、ようやく理解できた。まず、薄山を拘束したのは村役場だ。四階だけ和室だったのは、休憩室か何かだろう。診療所の位置関係もはっきりした。役場からほぼ真東になる。今いる小学校は同じく真南だ。小学校と診療所を結ぶ直線の、ちょうど中央辺りに神出建築事務所があった。役場にせよ小学校にせよ、直近の建物までいずれも一、二キロ同士だった。ちなみに釘抜きを手にした廃屋は個人営業の飲食店だった。


 ふと思いたち、岩瀬はさらに頁をめくった。村の歴史にかかわるくだりを拾って読んでみる。


 『覚正村は、かつて林業で栄えた。とりわけ神出一家は村一番の林家であり森林組合の元締めだった。戦時中は軍の干渉から森を守りとおしたことでますます尊敬されたが、その時分での組合長は神出 善治である。戦後しばらくして事故で亡くなった』


 善治。小学校の教科書でも善治。善冶ではない。記念碑がこんな大事な名前を間違えるはずがない。もしやらかしたら、遺族が厳しく抗議するに決まっている。

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