七 疲弊という名の休息 七
茨の駆除に比べれば、あっさりと斜面を越えられた。大将の言葉通り、別な道が待っていた。
「大丈夫だ。一人で登れるか?」
「な……何とか……やってみます」
岩瀬からしても恩田の手つきは危なっかしかったが、どうにか看板の上には立った。そこから道縁に手をかけ、斜面に足をつける。岩瀬は彼女の両腕を取って、道の中央へあとずさりながら彼女を引き上げた。
「あ……ありがとうございます」
「どういたしまして」
これで、二人とも抜け道に出た。
「どっちに進むんでしょう?」
恩田は上りと下りの双方を見比べた。
「まずは上りだ。万一間違っていても、下るのは楽だからな」
「わかりました」
ふたたび二人は歩いた。十分もすると木がまばらになり、廃屋が一件見つかった。道は廃屋からカーブを描いて下りになっている。
「どうやらこっちでいいみたいだ」
「先輩」
「うん?」
「ここまで来て何ですけど……天邪鬼が現れたらどうします?」
「そうだったな……」
取っ組み合いをして勝てるとは思えない。恩田がいるので岩瀬だけ逃げるわけにもいかない。
「そこの廃屋で、使えそうな物を探しましょうよ」
「ああ」
一瞬、テレビゲームでもしている気分になってきた。しかし、これは楽しい冒険ごっこではない。現実を手放してはならない。
二人は廃屋を漁りに行った。あばら家とあって床が完全に抜けている。ゴミとガラスの欠片がそこかしこに散らばっていた。
「おっ……」
岩瀬は、スーパーのビニール袋を足でずらした。黒茶色の釘抜きが落ちている。
「先輩、中々の獲物ですね」
「うーん、こんなのを振り回して下手にケガでもさせたらなぁ」
「何いってるんですか、天邪鬼は人間じゃないですよ。仮に人間でも正当防衛ですし」
「過剰防衛だろ」
「あたし達で口裏合わせちゃえばすみますよ」
さらりと恐ろしい台詞が出てきた。とはいえ、ないよりははるかにましなので結局は岩瀬が入手した。
「あたしは石ころ持っときますから。危なくなったら、あたしが石を投げます。相手が怯んだら先輩が釘抜きでお願いしますね」
「……」
もうあとには戻れなかった。
収穫を得た二人は、廃屋を出て道なりに進んだ。少しずつ廃屋の数が増えていき、鉄筋コンクリート造りのかなり頑丈な建物にまで至った。四階建てで、民家とはまるで趣が異なる。保存もそれなりにいい。
「ここが診療所……?」
恩田は一階から屋上まで顎を上げて眺めた。建物には看板も表札もない。
「人だ!」
岩瀬は指さした。




