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ホラフキさんの罰  作者: マスケッター


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45/80

六 なし崩し 七

 聞き覚えこそあるが、二度と思い出したくない声音だった。ドスの効いた低く太い……ホラフキさんの。


 相変わらずホラフキさんの姿は目に見えない。声がするだけ。つまり、赤い布をかぶっているのが事実かどうかは知りようがない。にもかかわらず、あたかもその姿でつきまとっているような錯覚を感じた。


「早く教えてやれよ。かわいそうだろ」

「ど、どこから話しかけてきている!?」

「どこだっていいじゃないか」

「俺は罰を受けた! 終わったはずだ!」

「ところがまた始まったのさ」

「どうして俺にばかりつきまとうんだ!」

「じゃあそっちのお嬢さんにしてやろうか?」

「……」

「俺や覚正村の謎を解きたいんだろう? 俺はむしろ、親切心で来てやったんだぜ」

「お前にいわれる筋あいはない!」


 これは妄想や幻聴の類なのか。浦原病院で以前より強い薬を処方してもらい、今日は飲んだ。変則な飲み方になったが、ここまではちゃんと効いていた。夜に飲む時刻にはなってない。


「あんなオクスリで俺を消せるはずがないだろう。とにかく彼女を待たせるなよ」

「うるさい!」

「せ、先輩……いきなり変な独り言始めちゃって、何の冗談です?」

「俺は冗談じゃなくてちゃんと存在するぞ」

「いや、してないだろ。じゃなかった、無視してくれ」

「はぁ……。で、それは一体……」

「機雷の部品だ」


 岩瀬は素で答えた。


「ええっ? すごい! ちょっとした遺物じゃないですか! 先輩、良く知ってましたね」

「俺が教えてやったからな」

「……いや、それほどでも」


 音声多重のせいで頭が破裂しそうだ。


「どんなことに使う部品でしょう?」

「電気が余計なところに流れないようにするための絶縁体だ……おい、早く復唱しろよ」


 従わないと、どう騒ぎ出すか予想もつかない。しぶしぶ復唱した。


「へえええっ。先輩、物知りですね」

「ま、まあな」


 どうせなら、岩瀬こそホラフキさんに聞きたいことがいくつもある。しかし、まともな答が帰ってくるとは思えない。


「よしよし、ちゃんということを聞いたな。なら、褒美をやるよ」


 いかにも押しつけがましくホラフキさんは宣言した。


 さっき岩瀬が絶縁体を出したばかりの亀裂から、一枚の写真がひとりでにせり上がってきた。まるで、昔のファックスのようだ。海面はまだ引き潮のさなかで、物理的にあり得ない。


「さあ、手にしろよ。さあ、さあ」


 ホラフキさんに促されるのはしゃくにさわる。無視できないのがなおさら。


 絶縁体をポケットに入れてから、写真を拾った。海水まみれではあるが、はっきりと内容が理解できる。崩れたり破れたりする気配もなかった。


 岩瀬は、現像された写真を直接さわった経験がほとんどない。まして白黒写真とあっては生まれて初めてになる。


 色こそ不明瞭ながら、写真には明らかに天邪鬼が写っていた。背景は民家だが、洋風に思える。


「先輩……写真が岩から出てくるってどうなっちゃってるんでしょう?」

「俺にもわからん」

「いいじゃないか、出てきたものはしかないだろ? それより、俺について知りたかったんじゃないのか? 大事な手がかりだぜ」


 ホラフキさんは一向に消える気配がなかった。


「先輩、私にも見せて下さい」


 恩田が気にするのも当然だ。

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