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ホラフキさんの罰  作者: マスケッター


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33/80

五 浜辺の悲劇 二

 病院から帰ってきた日と違い、客がいるので芯からくつろぐわけにはいかない。その代わり、重要な意見が入手できるかも知れない。


「それで、俺が体験したことだが……」


 おもむろに、岩瀬は奇怪な一連を明かした。ただし、発作が絡んで頭に浮かんできたことはさすがに手控えた。


「先輩、天邪鬼に好かれ過ぎですよ」


 岩瀬が話し終えてすぐ、にこにこしながら恩田はコメントした。


「好かれ過ぎ!?」


 余りにも予想を外した反応に、岩瀬は愕然とした。


「だって、先輩のこと死ぬほど好きだから湿地まで追って来たんでしょ?」

「い、いやそういう問題じゃなくて……」

「何だか納得できません。どうしてあたしは川に落ちて、先輩は天邪鬼に好かれるんですか!」


 変なところで恩田は怒り始めた。


「知らないよ!」

「なーんてね。嘘ですよ、嘘」

「あのな……」

「ちょっとしたシャレじゃないですか。それより、薄山先輩がちょっと気になりますよね」


 突然ふざけたり真面目になったりで、恩田の思考ペースは支離滅裂だった。


「そうだな、俺もだ」


 つまらない冗談に振り回されるのがようやく終わり、岩瀬は心の中でほっとした。


「ドアを閉めたってことは、わざと閉じられないふりをしていた……?」

「そうなるな」

「じゃあ、やっぱり薄山先輩と天邪鬼はグルですよ絶対」

「俺も似たような結論になりつつあるんだが……いつ、どこでそんな関係になったんだ?」

「先輩」

「ん?」

「そのいい方、ほんのりBL風味が……」


 BLとは男性同士の恋愛を描いた分野の作品である。


「やかましい!」

「天邪鬼が女性ってパターンもあるか……いや男の娘かも……あ、いや先輩。ちょっと可能性の取捨選択を広めただけです」

「真面目にやれ」

「はい」


 恩田は首をすくめた。岩瀬はビスケットを一枚かじった。


「そもそも天邪鬼って本当にいるんですか?」

「いや、いるはずがない。あくまで民話なんかにでてくるファンタジーだ」

「ということは、やっぱり天邪鬼にそっくりな格好をした人間ということですよね」

「そのくらいは想像できる。なんのためにあんなことをするんだ?」

「よそ者が気にくわないとか?」

「薄山はどうなんだ」

「薄山先輩は覚正村の出身かもしれませんよ」


 それは死角だった。


「それだけで、ああまでするのか?」

「なにか故郷のことでトラウマを抱えてるのかも」


 トラウマなら、岩瀬こそ薄山よりはるかに深い物を飼っている。


「そういえば、村を散々けなしていたな」

「でしょでしょ? どうせ天邪鬼のことはわかりはしませんし、薄山さんについて調べませんか?」

「どうやって」


 内気で人の輪に入らない人間だったから、ネットでも現実でもほとんど発言を残してない。


「薄山先輩のハンドルネームって何でしたっけ」

「あつしだ」


 自分の名前に『薄』があるから、その反対ということで思いついた。本人がそう語っていたのは知っている。


 今にして思えば、本人なりの冗談だったかもしれない。岩瀬はさほど関心を持たなかった。


 恩田は自分のスマホを出した。


「調子が悪いんじゃないのか?」

「検索くらいはできるんです。すごく時間かかりますけど」

「そうか」

「『あ、つ、し』と……あと、薄山先輩の学部は……」

「史学部だ」

「『あつし』、『歴史』、『覚正村』……これで検索したらどうかな……」

「俺もやらなきゃいけないな」


 二人でスマホを使って調べると、数分で共通のブログに突き当たった。あつしと名乗る学生が日々の雑感を書き連ねたもので、『あつしのブログ』と題名がついている。ブログそのものは良くある無料レンタル形式で、誰でも簡単に使える。


「何というか……そのまんまですね」

「一年前から始めたのか。二人で手分けしよう」

「じゃあ、あたしは古い方の半年を読みます」

「俺は直近半年分か」


 薄山は、几帳面にも毎日ブログを更新していた。大半は日々の講義についての感想だった。自分の記事についてはコメント欄を閉じており、連絡先も非公表となっていた。


 『合理主義と新大陸の魔女』……。今から二か月ほど前の記事にある書名に、岩瀬は目をみはった。紛れもなく岩瀬も購入した本だ。かなり注意深く読み込んでいるが、書評ではなく参考文献として挙げたようだ。記事自体は、『鬼と機雷』と名づけてあった。


「うーん、あんまり収穫ないですね。勝田川機雷爆発事故くらいかなぁ」

「えっ!?」

「ど、どうしたんですか先輩? 食いつき良すぎますよ」

「いや、俺も追悼行事のときに調べてはいたんだ」


 神出が岩瀬や薄山からひんしゅくを買っていたことが、もう何か月も前に思えてくる。

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