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一 ホラフキさんのささやき 一

 晩秋の黄昏どきに、ねっころがってスマホをいじれる身分。学費がまかなえずに退学させられる人間も同じ世代にはゴマンといるが、とりあえずそうした苦難には遠い。


 来年には就活を始めねばならないが、岩瀬の悩みはそこにもなかった。地方私大の経済学部に二年近くも通えば、ある程度の見通しは……諦観といいかえてもよいかもしれない……つく。


 薄暗い賃貸一LDKの室内が、ぼんやりした青黒い光で照らされている。その源は彼が左手に持つスマホの画面だった。正確には、一度彼の顔に当たってから跳ね返った光だった。


 消すに消せない腐れ縁。


 その日のオンライン講義も一段落し、ベッドの上でとある著名なSNSをぼんやりと眺めるのはつきあいと惰性のなせる結果であった。


 『たもと鑑賞会』……通称『たもかん』。橋のたもとを研究する会などと自称しているが、たんなる旅行同好会である。ただ、会の主義として旅先で一枚は橋のたもとを背景にした写真を会のアカウントでネット公表する。幽霊会員もふくめて、参加者は十人ほどだ。代表は三年生の男子学生で、ここ半年はそれこそ就活が忙しすぎる。だから、会活動にはほとんどたずさわっていない。


 この会の問題は、名前と実態の差ではない。そもそも機能していないことだった。


 世界中にまんえんする感染症のせいで、隣の県にいくことさえはばかられる。せいぜい近所の観光名所にいくくらいだ。それもネタ切れになり、いまや会アカウントは雑談の場になり果てている。


『ホラフキさん、だーれだ?』


 またか。舌打ちしたくなってくる。


 SNSの会アカウントで質問してきたのは……ハンドルネームからすると神出かみでだ。大学の後輩で、文学部。悪い奴ではないのだろうが、静かな雰囲気を黙って受け入れることができない。自分で自分を社交性の高いイケメンと意識したがっている男だった。岩瀬も平均よりは少し背が高い方だが、神出はさらに高く、そのせいかいつも見下されているような気がする。神出は高校時代に天体観測部だったというから、ある種の意地悪な一致をも感じていた。もちろん、口にはださない。ちなみに岩瀬自身は弱小卓球部員だった。


 最近、この神出がどこからともなくおかしな都市伝説を見つけてきた。『ホラフキさん』とやらいう化け物で、名前の通りホラばかり吹いている。『ホラフキさん』に取りつかれると、犠牲者もまたホラを吹くようになる。厄介なのは、吹いたホラを実行させられることだ。無視すると罰を受ける。最悪の場合、死が訪れる。どんなホラを吹くかは『ホラフキさん』が決める。無視による罰も含めて、結果がどうあれ実行すると『ホラフキさん』は犠牲者から離れる。


 『ホラフキさん、だーれだ?』という質問は、『ホラフキさん』に取りつかれてない人間しか口にできない。取りつかれていた人間がその質問に触れたら、ホラを吹く破目になる。


 一週間ほど前、『たもと鑑賞会』の一人が神出の呼びかけを受けて『有名アニメのコスプレで大学にいく』と答えた。やりとりは全部会アカウントのSNS上だった。

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