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ホーリーブライト  作者: あさま勲


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6/6

ブライト3

『虚空の支配者』冒頭より十年ぐらい前という設定で書いてます。

 賢い子だな……

 ホーリーと話をしつつ、俺は思う。

 俺には妹が居るが、ホーリーと同じ年頃だった頃は、もっと聞き分けが悪かった……恐らく、当時の俺自身もそうだっただろう。対しホーリーは、自分で状況を判断し、もう逃げ切るのは無理と結論付けたようだ。

 だから、最後の思い出作りに遊園地に行きたいと言い出したわけだ。

 ……俺にもリスクはあるが、それでも付き合ってやるつもりだ。

 今回、ホーリーが追っ手の意識を逸らしてくれなかったら、俺の逃走劇は、ここで殺されて終わっていただろう。足掻いたところで結末は変えられないだろうが、それを先延ばしする程度の事はできた。

 だから、その借りは返したい。

 とりあえず、子連れって事で追っ手の目は欺けるはずだ。短時間なら、それほどリスクは無いだろう。

 なにより車での移動で距離も稼げた。これで、ホーリーに付き合ってやる程度の時間は確保できたはずだ。

 ホーリーの端末から転送された目的地が、車のモニターに表示される。

 単純に、一番近くを選んだようだ。

 前々から計画を立てて……といったわけではないらしい。

 流し読みだろうが、複数のデータを呼び出したような気配があった。事前に計画していたことならば、呼び出すデータは一つだけのはずだ。

「ねえ……ブライトって何者なの?」

「ブリステル宇宙軍の少尉で、一応は戦闘機乗りと航法士の資格も持ってる」

 嘘は言ってないが、ホーリーが聞きたいのは、そんな事ではないだろう。

「なぜ追われてる……じゃなくて、命まで狙われてるの?」

 ストレートに聞いてくれるな……

「俺が悪人だからだよ」

 こうしておいた方が、後々は都合が良い。いや、ホーリー経由で事態を公に……っといったような事まで口にしたような?

 まあ、構わないか。

「嘘。だって、ブライトは体を張って、あたしを守ってくれた」

「そりゃ、目の前で幼い子どもに死なれたら寝覚めが悪くなるからだよ」

 ホーリーの言葉に、俺は即答してやる……ちなみに嘘は言ってない。

「うん。だからブライトは悪人じゃない」

「いや、極悪人じゃないってだけだ。子どもには理解できない理由で悪人にされる事だって世の中にはあるんだぞ?」

 そんな理由で、俺は追われているんだけどな。

 有耶無耶にしておきたい事態、その詳細を知ってるかもしれないって事を、一部のお偉方は悪と断定したわけだ。

 ……まあ、俺自身が全く納得していないから逃げ回ってるワケだけどな。そりゃ交渉も一切無しで殺しに掛かってきたら、誰だって逃げることを考えるさ。

 逆に、最初に交渉する素振りを見せられたら、キースも居た手前、応じて始末されていただろう。

 ……思い返すと察しが悪く付き合いづらい奴で、部署も離れていたのでワスプでの関わりも少なかったが、アイツには色んな意味で命を救われていたな。

 残念ながら、どう足掻いても仇は取れそうにないけどな。

「つまり、悪人にされたことに納得してないから逃げてるんだ?」

 俺は、答えない。

 正直に言って、答えは出せそうに無いからだ。

 一番、納得がいかないのは、乗員もろともワスプを沈める必要があったのかと言う点だ。気に入らない奴も居たが、それでも皆が仲間だった。

 そして、それぞれに家族も居た。が、生き残ったのは俺一人だけ。

 その事実に、俺は罪悪感を抱いているわけだ。

 生き残った以上、死んだ連中のために何かしてやりたい……いや、死んだ連中の家族にために、だな。

 もっとも、それを言い訳にして俺が生にしがみついてるだけかも知れない。

 ……まあ、そろそろ潮時だろう。

 ホーリーに付き合い、その後の別れを持って終わらせても良いか。

 そう考えると、肩の荷が下りたような気持ちになれた。

「あたし……ブライトの力になれるかもしれない」

 黙っている俺に不安でも感じたのか、ホーリーは口を開く。

「十分、力になってくれたよ。おかげで死なずにすんだ」

 とりあえず、あの場が切り抜けられたってだけで御の字だ。

「詳しい事情を教えて? たぶん、力になれると思う」

 俺は溜め息を吐きつつ笑う。

「子どもが、そんな事を考える必要はない」

 巻き込んでしまったら、ホーリーの命も危うくなるのだ。そうなったら、寝覚めが悪いどころの話ではなくなってしまう。

 そもそも、子どもってものは周囲に迷惑をかけて回るものだ。そうやって学習し大人になってゆく。

「あたしは、遺伝子レベルで優秀になるよう調整されたサラブレッド……いわゆる『普通』の子どもじゃない」

 ホーリーは言うが子どもである事には変わり無いのだ。だから言ってやる。

「つまり子どもである事実は変わらない。普通じゃないってのなら、俺の考えを察して忖度してくれ」

 俺の言葉に反論できないのか、ホーリーは言葉に詰まったようだ。

 そして、短い沈黙の後に口を開く。

「このままだと、ブライトは殺されちゃうと思う……」

 ……そうなると思う。

 消え入りそうなホーリーの言葉に、俺は心の中で同意した。

 だが、それを本当に口に出すわけにはいかない。

「そうならないよう、軍の対抗勢力が動いてるよ。俺を逃げ回らせることでボロを出させ、政敵を失脚させるための探りを入れてる連中がいるんだ」

 無論、嘘である。

 それらしい勢力があれば向こうから接触がある……そう思っていたが一向に接触もない。

 対抗勢力にとっても、俺は不要と判断されたみたいだ……もしくは対抗勢力など最初から存在しないかだ。

 いずれにせよ、俺にとって都合が悪い事に変わりない。

 が、ホーリーは俺の嘘を信じてくれたようだ。

 言ってはなんだが、ホーリーも所詮は子どもだ。世間ずれした『大人』の嘘を見抜けるほどの人生経験は無いだろう。

「じゃあ、そうなったら、あたしのトコロにも話を聞きに来るかな?」

 ホーリーは、どこか期待を込めた口調で問うてきた。

 俺の抱えたゴタゴタ。その関連から自分の境遇を変えられないか期待しているのだろう……結構、打算的な子だな?

「仮にあっても、事態を公にしたいワケじゃない。だから、ホーリーの境遇を変えられるかに関しては何とも言えんよ」

 まあ、俺として言えるのは期待してくれるなって事ぐらいだ。だから、曖昧な事しか言えないわけだ。

「いいのよ。話を聞きに来てくれたなら、ブライトがどこかで元気にやってるって確信できるから」

 ……俺自身が汚れた大人だって事実を突きつけてくれたな。そもそも、子どもってものは基本的に自己中な考えで動くもんだぞ?

 故郷を飛び出し士官学校に入る前、親に頼まれ保育所の手伝いをさせられたんだが……ホーリーぐらいの年代の子どもは人語を介する猿って印象しか持たなかった。

 そして当時の俺も人語を介する猿だったんだと、しみじみ思ったっけなぁ……

 恐らく、ホーリーが育った環境に起因するのだろう。それを思うと、あまり恵まれた環境で育ったというわけではないだろう……だから逃げ出したと。

 ホーリーの力になってやりたいが、俺は自分の事だけで手一杯だ。あげく、自分の面倒すら見れなくなりつつある。

 そこまで考え、俺は笑った。

 もう全てを終わらせよう……そう決めたんだ。だから悩む必要など無いって事に気づいたんだ。

 気を付けるのはホーリーに類が及ばないようにという点だけだ。そして、それ自体は、さして難しいことでもない。

 俺に責任を押し付けてしまえば、ホーリー自身はお咎め無しといった落とし所も有り得るはずだ。

「ま、好きにしてくれ……途中、変装の小道具を買いたいから店に寄らせてもらうぞ?」

 だから、ホーリーの金を使う免罪符も得られたわけだ。

 連れ戻された場合、金は取り上げられてしまう……それをホーリーは自覚いているだろう。

「うん! 遠慮なく使ってくれて構わないからっ!」

 だからだろう。ホーリーは嬉しそうに言ってくれる。

 なら、遠慮はするけど、金を使わせてもらうとしようか。

 俺はナビのタッチパネルを操作する。

「音声入力は使わないの?」

 ホーリー……お前も音声入力は使ってなかっただろうに。

「慣れれば、こっちの方が格段に早い」

 だから軍用機じゃ音声入力は、あまり使われない。手が使えない時だけの補助的な操作方法だ。

 もしくは、視線を動かせない時か。

 一応は戦闘機のパイロットでもある手前、運転の片手間にナビを操作するぐらいの事なら俺にとって造作もない事だ。

 慣れない機械とは言え、戦闘機の操縦をしつつ通信や索敵機器の操作と比べれば容易い。

 近場の化粧品の専門店を見つけると、俺はそこを最初の目的地に設定する。

 かなり大きな店だ。そこから、俺やホーリーの情報が洩れるだろう。だから、遊び終わった後、ホーリーは無事連れ戻される……と、良いけどな。

「店で買い物をするが……ママに頼まれての買い物って方針で行くぞ?」

「ママに頼まれて化粧品を?」

 ホーリーは問うてくる。

 少々無理はあるが、上手いこと演技で誤魔化せると思いたい。それに店側も商売だ。買いたいと言うのなら拒まれはしないだろう。

「ホーリーの演技力には期待してるよ?」

 怪しまれても構わない。それだけ、ホーリーが連れ戻されるのが早くなるだけだ。

「うん、頑張る……話を戻すけど、さっきの立ち回りは普通の軍人には無理だと思う。ブライトって何者なの?」

 ……士官学校時代に選抜され、新古流格闘術ってのを叩きこまれはしたがね。

 いかに効率的に相手を無力化するかを突き詰めた、えげつない格闘術なので、俺の性に合わなかった。だからか、一緒に訓練を受けたグレイは特殊な部署に配属されたが俺は艦隊勤務。当初の希望通りだったんで、正直、ホッとしたよ。

「士官学校時代に、選抜訓練を受けて新古流格闘術ってのを叩きこまれたんだ」

 新古流の名前を出してもホーリーには解らない。そう思っての発言である。

「シノノメ少佐の指導を受けだんだっ!」

 驚いたようにホーリーは問うてくる。

 いや……なぜホーリーが、あの人の名前を知っている?

 シノノメ少佐は、ディアスの外から流れてきた軍人だ。

 敗戦により国が無くなり、一隻の戦艦を手土産に、ここブリステルに流れてきたそうだ。

 アルテミスという艦名の全長一千メートルを超える巨艦が手土産で、そのアルテミスを解析し、ブリステルは新たな兵器を開発しているそうだ。

 問題は、アルテミスにはシノノメ少佐と少数の部下しか乗っておらず、その部下に技術者が居なかったことだ。

 おかげでアルテミスの解析は遅々として進んでいないらしい。少佐の愚痴によると十年単位の時間がかかるとか。

「武術指南を受けただけだよ」

 軍の幹部連中は余所者にポストを奪われるのを嫌がり、シノノメ少佐は冷遇されている……けど、あの人は気にしていないみたいだ。

 それよりも、俺としてはホーリーが少佐の事を知っている事に驚いた。あの人がディアスの外から流れてきたって話は、ほとんど知られていないはずだぞ?

『新古流格闘術』

 オルミヤカズヤ(降宮一八)が帝国スメラに伝わる『オルミヤ流合気柔術』を下敷きに総合武術化した『新古流』の中核。

 他にも剣術・棒術・銃剣術など多岐にわたるが、最重要視されるのが格闘術である。

 投げ技と打撃技を主体とした格闘術で、軍隊格闘術同様に相手を殺す・壊すといった方面に特化した危険な技が多数ある。

 ブライトが打撃技を好んで使うのは、投げ技より手加減が容易といった側面によるもので、ブライトは投げ技が使えないというわけでは無い。


 ちなみにブライトは『虚空の支配者』の孫弟子……弟子の弟子にあたる。

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