表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホーリーブライト  作者: あさま勲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

ホーリー3

 ブライトの雰囲気が変わった。

 つい今しがたまでは、どこか柔らかい雰囲気があったんだけど……それが固くなった。

「おしゃべりは、そこまでだ……場合によっては飛ばすぞ?」

 その言葉に、追っ手が現れたんだと察した。

 ブライトの視線を追うと一台の車。

 乗っている人たちの雰囲気は……さっきの追っ手と、よく似ている。休憩や散策、運動といった目的で、この公園を訪れたとは思えないような固い印象を受ける……そう、いまのブライトと、よく似た固い雰囲気だ。

 幸い、あたしたちに気づいている気配はないから、このまま上手く距離をとりたいというのがブライトの考えだろう。

 ブライトは、ゆっくり車を発車させる。そして、助手席のあたしに笑いかけた……でも演技だと思う。

「親子を装って、この場を切り抜けるつもり?」

「親子……俺って、こんな歳の娘がいるように見えるのか?」

 その返事に、あたしは嬉しくなる。いまのブライトからは、固さが消えていたんだ。

 ブライトの外見は……二十代前半ってトコロ。どう見ても三十を越えているようには見えない。

 でも、あたしにも使われてるけど、遺伝子を弄って老化を抑制することで若い姿を長く保つ術が確立している。二十歳前後の外見で実は百歳……なんて例も稀だけど、あったりするのよね。

 あと、再生医療の延長上の技術だけど、脳以外の全部の組織を若い頃の状態に造り直すって技術もある……手間もお金もかかるしリスクもあるから、お金持ちでも、そんなにやらないらしいけど。

 さすがに脳は老化を遅らせるのが精一杯なんだけどね。人間の脳はコンピューターみたいに簡単にデータの取り出しや上書きはできない。だから脳が壊れたり寿命を迎えたら、中のデータもろとも、その人の人格は失われる……いわゆる『脳死』ね。

 あとコンピューターのハードディスクが稼働中は修理ができないのと同じで、人間の脳も再生しないのよね。下手に再生すると脳の中の情報に致命的な障害が起きる……だから、成長期を終えると生物の脳は成長や再生が完全に止まるのだ。

 子どもの言動には支離滅裂な部分があるけど、これも脳の成長が影響してる……知識や経験の不足ってのも、大いに関係してたりするけどね。

 たぶんあたしも、今のあたしと成人後のあたしとでは、思考に結構な違いが出てると思うな。

 あたしのカンだけど……たぶんブライトも遺伝子を弄ってあると思う。それっぽい雰囲気……というか匂いみたいなものをブライトから感じるんだ。

 そう思ったから、あたしは聞いてみる。

「たぶんブライト……遅老長命化の遺伝子改造を受けてると思う。何となくだけど、あたしの同類みたいな『ふいんき』」

 あたしの言葉に、ブライトは溜め息をつく。

「『ふいんき』じゃなくて雰囲気な」

 ブライトに訂正されちゃった……いや、ワザと言ったんだけどね。

 あたしの表情から、それを察したらしいブライトは笑って言葉を続ける。

「親父が船乗りで遺伝子弄ってた手前、俺にも恩恵はあるみたいだけどな……でも、俺は見た目と年齢は掛け離れてはいないぞ?」

 その言葉に、あたしは少しばかり違和感があった。

 船乗りは宇宙線による被曝で遺伝子が損傷しやすい。だから、その治療の一貫で自らの遺伝子を弄ることはよくあるらしい。が、それが簡単に遺伝するとは思えないのだ。

「お父さんだけ?」

「母方の祖父母も元は船乗りで遺伝子弄ってたよ」

 ということは、ブライトのお母さんも、その遺伝子改造の恩恵を受けていたわけで……ブライトは両親ともに遺伝子改造を受けた家系なのだ。

「ブライトって、いくつ?」

「二十四歳……ホーリーは?」

「五歳と二ヶ月」

 あたしの言葉には、ブライトは応えない。

 どうしたんだろうと視線を向けると、ブライトは車のミラーを注視していた。

「振り返るなよ?」

 ブライトが何を見ているのか気になったけど、先に釘を刺される……たぶん、追っ手を気にしているんだ。

 そして、ブライトは肩の力を抜いた。

「もう大丈夫?」

「たぶん、やり過ごせた……子連れってことで別人だと思われたみたいだ」

 ってことは、あたしと行動を共にすることで、追っ手の目を欺きやすくなる!?

「あたし、きっとブライトの役に立てると思うんだけどっ!?」

 実際、施設を抜け出してみて、外の世界は甘くないってことを目に沁みて知ってしまった。やっぱり、あたしは所詮は経験不足の子どもでしかない。

 でも、ブライトの手が借りられれば話は変わってくる。

 そして、ブライトにも悪い話じゃ無いと思う……とりあえず車は貸せた。

 あたしの知識と経験がブライトの役に立てられるかは怪しいが、とりあえずお金は提供できる……まとまった額の電子マネーがチャージされたカードがあるからね。

「ああ、役に立ってくれた。だから、できる範囲で、お願いを聞いてやるよ?」

 いや……そうじゃなくて、これからも役に立てるってことなんだけど?

 そう言いたいけど、ブライトは、あたしに付き合う気は無いみたい……でも、もっと話して、互いに知り合えば考えも変えられるかもしれない。

 だから、あたしは正直に言った。

「お金が欲しかったの……」

「俺。金なんて、ほとんど持ってないぞ?」

 状況的に、ブライトがたいして、お金を持ってないらしい事は察していたし、そもそも、あたしは他人の財布なんて宛にする気はない。

 だから、あたしは電子マネーがチャージされたカードを取り出す。

「子どもに電子マネーは使えない……だから、中のお金を現金化して欲しかったの……」

 あたしの言葉に、ブライトは溜め息を吐く。

「現金化した段階で、持ち主経由で通報され俺が指名手配されちまう……悪いかできない」

 どうもブライトは、あたしが盗品のカードを持っていると思ったみたいだ。

「大丈夫。実在しない人が持ち主になってるし、中のお金も、あたしが稼いだお金だから」

「あたしが稼いだ? ……どうやって?」

 さすがにブライトも驚いたようだ。

「ネット経由で、エミュレーターの作成や市販ソフトの改造を請け負って稼いだの」

 エミュレーターとは特定のコンピューターでしか使えないプログラムを、他のコンピューターでも作動するよう対象をプログラム上で再現したソフトウェアだ。

 要するに生産終了になった古いコンピューターでしか使えないソフトを、最新のコンピューターでも使えるよう組んだプログラムね。

 なんとか腰を落ち着けることができたら、この方法で生活費を稼ごうと思ってたのよね……

 その言葉に、ブライトは少し考えているようだ……あたしの言葉の真偽を疑っているのだろう。

 でも実際にブライトの見てる前で、この車のセキュリティを解除して見せたんだし、あたしの技術の一端は知ってもらえたと思う。

 短い沈黙の後、ブライトは口を開く。

「アングラで黒に近いグレーゾーンの稼ぎ方だな……」

 アングラ……アンダー・グラウンドの略で地面の下の意である。つまり、公にできないような方法だってブライトは言いたいのだろう。

 ……それは、あたしにだって理解はできてる。でも、そんな方法でも使わない限り、お金を手に入れることはできなかったんだ。

「でも、そうでもしないと、お金なんて手に入らないし……」

 大人なら話は変わってくるだろうけど、あたしは幼い子どもでしかない。

 見た目だけは……そう思っていたけど、いざ外へ出てみたら計画が穴だらけってって事にも気づけてしまった。

 ここでブライトと手が組めるかが、あたしの逃亡計画の成否に関わってくるだろう。

「いいだろう。現金化してやるよ……ただ、現金を手にした後は、それを人に知られないよう注意しろ。子どもが大金を持っていると知られたら、面倒事に巻き込まれやすくなる」

 その言葉に、ブライトは早々にあたしと別れるつもりなんだと察した。

 なら、この電子マネーは、あたしにとって意味の無いものだ。だったら、全部ブライトに使ってもらえばいい。

 あたしは俯く。

 この逃走劇は、早々に頓挫し連れ戻されたあたしは、前より窮屈な環境に置かれることになるだろう。

 全ては、あたしの見通しの甘さが招いた結果で自業自得でしかない。でも、あたしの持ってる電子マネーをブライトに使ってもらえるのであれば、あたしとの出会いはブライトにとっては無意味ではないはずだ。

 そう考えると、この大失敗も少しは救われた気持ちになれる。

 ……そのかわり、ブライトには一つ、わがままを聞いてもらおう。

「あと、もう一つ。遊園地に連れていって!」

 その言葉に、ブライトは驚いたようだ。

 ブライトの反応で今更ながらに気づいたけど、遊園地の中って監視カメラだらけよね……

 あたしが居た施設の幹部なら、そのデータも覗けるだろう……恐らくブライトを追いかけてる人たちも。

 つまり、見つけてくださいって言っているようなものなのだ。

「そりゃ構わないが……それが元で居場所を特定されるぞ?」

「わかってる」

 あたしだけじゃ、どうにもできないんだ。だから、早々に見つけられ連れ戻される方が、ブライトには都合がいいはずだ。

 だけど、ブライトにとって大きな不都合もある。

「それに……ブライトも追っ手に見つかり易くなる?」

 こっちの方が大問題だ。

 あたしは連れ戻されても命の不安はないが、ブライトの追っ手は冗談抜きに殺しに掛かってきた。

「変装するから問題ない……というか、普段は髪も染めてた。カードの金、変装用に使わせてくれるのなら連れていってやるよ?」

 今のブライトは変装している気配はない……たぶん着の身着のままで逃げてきたんだ。

「このカードには、二百万ちょっとのブリスが入ってる……好きに使ってくれて良いから」

 ブリス……この国、ブリステルの通貨単位だ。一ブリスが宇宙暦初期の日本円一円に相当すると言っておけば、大きな違いはないと思う。

「大金だな……吹っ掛けたのか?」

「単に数をこなしただけだと思う」

 ブライトの問いに、あたしは答える。

 そもそも、あたしは相場を知らないから、意図せず吹っ掛けたって可能性も排除できないんだけどね。

 でも実際、時間は結構あったから、数をこなす事は難しくなかったんだ。

「じゃ、行きたい遊園地があるなら教えてくれ?」

 ブライトに問われ、あたしは自分の端末を起動する……一番近くでいいや。あたしもブライトも時間に余裕があるわけじゃない。

 特に深く考えず、最寄りの遊園地を選んだ。そして、そのデータをナビに転送する。

「じゃ、ここでお願い!」

「よしきた……あと、連れ戻されたときは、俺に誘拐されたってことにして構わないぜ?」

 そんな事をする気は全くないんだけど?

「そんな事する気は無いわよ……」

「俺としては、その方が都合がいい。騒ぎになれば、俺を始末しづらくなるはずだ」

 あたしの言葉にブライトは、そう言ってくれた……確かにブライトの追っ手は、まともな組織の人間ではない。雑踏こそ避けたものの、人目につきかねない場所でブライトを殺そうとしたのだ。

 面倒事は避けたいのだろうが、場合によっては躊躇しないぐらいに思い切りはいい。

 あと、実はブライトが悪者なんだって懸念は、今の言葉で払拭できた。

 やっぱり、ブライトは良い人……じゃなくて良い男なんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ