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ホーリーブライト  作者: あさま勲


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ブライト1

 金もないのに何やってんだろ……

 歩きながら、俺は内心そうぼやく。

 つい先程、腹を減らしているにも関わらず買い物できず困っていた女の子に牛乳を買ってやり、そして自分の買ったホットドッグを一つ譲ってやったのだ。

 かわいい娘ではあったが迷子だろうか?

 まあ、あの屋台の店主は人が良さそうに見えたので任せておけばいいだろう。

 食い物が減っちまったわけだが、急遽、走らなければならない事情ができたので、どのみち全部は食えなかっただろう……いや、残しておき夜に食えば良かったっけな。

 そう思い再度ため息をつく。

 買い物直前に周囲を窺ったときは、尾行されている気配は感じなかった。だが、買い物直後に周囲を窺ったところ尾行されていると確信したのだ。

 サングラスの汚れを気にするフリをし、レンズの映りこみを利用し周囲を窺ったのだが、最初に映りこんだ時は背中を向けていた二人組が、買い物を終えた直後は俺にしっかり視線を向けていた。

 そして、その二人組は、今も俺を尾行中である。

 とりあえず、今は人目もあるため仕掛けては来ないだろう。だから、まずは飯を食ってしまおう。

 そう思い、俺はベンチに腰掛ける。

 そして、袋から先程買ったホットドッグを取り出した。

 本音を言えば買い食いは控えたいが、自前で料理する時間が取れないんだ。

 実を言うと追われてる身なんでね……が、別に悪さをしたわけじゃない。強いて言えば、死んだはずの人間が生きているってのが一部の連中にとっちゃ都合が悪いらしい。

 ……正しくは、殺したはずの人間が生きているってトコロなワケだけどな。

 もっとも、俺は他人に殺したいほど恨まれるような事はした記憶はない。というか、俺は……というか、俺たちは巻き込まれて殺されたようなモンなワケだけどさ。

 それを説明するには……まず、俺が何者かって話になるよな?

 名前はブライト・ビル……半年前まで、ブリステル宇宙軍の士官だった。階級は少尉……駆逐艦ワスプの航法士と偵察機のパイロットを兼任していた。

 ブリステルってのはディアス多星系連邦の構成国の一つだな。

 超光速通信網ディアス・ネットワークによって五十を超える星系が繋がり出来上がった一大経済圏。その経済圏が大国の脅威に対抗すべく結束して構成されたのがディアス多星系連邦ってワケだ。

 まあ、寄り合い所帯なんで連邦として足並みを揃えるってのは、かなり難しいみたいだけどな。

 士官になって二年ほど艦隊勤務していたわけだが、ディアス多星系連邦の構成国との合同演習なんて一回もなかったしな。

 五年十年に一回あるかどうかって頻度でしか合同演習はやってないみたいだ。

 まあ、光の速さで年単位の時間が掛かる距離を隔ててるんだ。超光速航法たる空間跳躍航法が実用化されているとは言え、色々と問題も多い。

 アレは光速近くまで加速させた船の運動エネルギーを空間に作用させ、離れた二点を繋ぐ特異点を穿つって凄ごく力業の航法なんだ。

 光速近くまで船を加速させるのに、制止時間で何ヵ月……下手をしたら一年以上と言った時間が掛かるんだ。ウラシマ効果があるんで船に乗ってる側は、そこまで長い時間を過ごすわけじゃないんだが……これが原因で恒星船勤務の軍人は離婚率が高かったりする。

 その理由は、いわゆるウラシマ効果……相対性理論による光速不変の法則が関係してくる。

 光の速さは観測者にとって常に同じなのだ。

 光の半分の速度で航行する船から光の速さを観測しようと静止した場所で観測しようと光の速度は常に同じく秒速にして約三十万キロなのだ。

 これがどう言う事かと言えば、移動速度が速くなるほど時間の流れが遅くなるって事だ。

 人工衛星を使いだした頃の地球でも、人工衛星に搭載された時計と地球上の時計の時間がズレていくってのは普通に認識されていたしな。

 そして、恒星船乗りが被るウラシマ効果は、このズレの比ではない。

 結婚当初は年下だった奥さんが、恒星船勤務に伴うウラシマ効果を何度も経験する内に年上になって、って事も起こり得るわけで……まあ、離婚の主な原因は年齢の逆転より配偶者のほったらかしなワケだが。

 いや、話が逸れたな。

 俺が生きていては都合が悪いのは、駆逐艦ワスプ爆散事故の目撃者だからだろう。

 あんな爆発、意図的に核融合炉を暴走させたとしても起こらないはずだ。

 新型の核融合炉ってのは重力制御技術で水素を一点に凝縮し核融合を起こすんだ。暴走する前に重力制御が止まり核融合も連動して止まる。旧型のプラズマ式核融合炉はプラズマで核融合のエネルギーを閉じ込めるわけだが、暴走してプラズマが炉から吹き出したとしても艦が粉微塵になることはない。

 恐らく搭載された核融合弾を意図的に起爆したんだろう。核融合弾ってのは使用直前まで信管は外されているので、直近で核爆発でも起こったとしても、まず爆発はしないはずだ。そもそも爆発レベルの核融合反応を起こせる条件ってのは、相当酷しいんだ。

 詰まるところ、何者かが事前に工作をし意図的にワスプを沈めたわけだ……恐らく、宇宙軍の改革を行おうとしていたグラス中将の暗殺が目的だろう。

 あの中将は有名な倹約家で運用コストの掛かる戦艦を嫌い、小回りが利き運用コストの安い小型艦を視察の足に使ってたからな。

 その名誉ある足に、俺たちの乗艦である駆逐艦ワスプが選ばれたわけだ……一定規模の指令室を持つ最寄りの艦で、もっとも運用コストが低いのがワスプだったんだ。

 中将が乗るってことで、ワスプには本来なら受けれることの無い別艦隊からの整備兵を一時的に受け入れたわけで……ソイツ達に細工されたんだと思われる。

 じゃなきゃ、艦外活動中に振り落とされた仲間を拾いに行ってた俺の乗る偵察機に、ワスプの航行記録が緊急転送されるとは思えないんだ。

 ワスプが小惑星の影に入り、他との交信が不可能になったタイミングでの出来事だったな……交信ってのは電波を使うんだ。

 電波ってのは光の一種で……電波交信ってのはデジタル化した情報を電波という光の点滅で遠くに伝えるワケだが、受信……つまり点滅が見えなきゃ意味はないわけだ。

 途中に中継衛星があるとは言え、その中継衛星との直線上に大きな遮蔽物があっては電波は届かない……つまり交信できない状況になるワケだ。

 オマケに小惑星の影に入っちまって光学観測もできないため、核爆発で破片しか残らなかったような残骸から原因を推察するってのも無理。だから事件の真相は闇の中……と、できたはずだ。

 問題は生き残りが二人居たことだな……俺と船外作業中に落っこちた新兵だ。

 キースって名前のまだ成人前の整備兵で、落っこちたときは仕事を増やしやがってと思いはしたが、結果的にアイツは俺の命の恩人だった。

 ただ、その命の恩人は恐らく、この世にはいない。

 俺たちは偶然、近くを通りかかった艦に拾われたわけだが……アレは偶然ではなく、計画通りにワスプを破壊できたかの確認用の艦だろう。

 あの艦の乗員が不自然なほど少なかったのも、機密保持のためだろうな。

 ワスプの爆発を見届けた俺は、交信可能な宙域まで移動後、早々に救難信号を出したわけだ。

 母艦の唐突な爆発を確認。生存者の救助を……ってメッセージも添えてな。

 ……もっとも、爆発の規模から察して、あの時点で生存者は俺たち二人しかいなかっただろうが。

 その上、救難信号に即返信があったときは面食らったぞ?

 だから回収された後、キースには色々とキナ臭いから艦の中を出歩くなと釘は刺して置いたんだが……あの爆発が仕組まれたもので、この艦は、その一味かもしれない可能性については婉曲的にしか伝えなかったからな。

 とは言え、事前情報では周囲に船は居ない事と、あの艦が丸ごと吹き飛ぶレベルの爆発も事故ではあり得ない……そう伝えたんだけどな。

 ……が、どうも伝わらなかったらしい。

 俺が艦から逃げ出す段取りを考え、いざ実行に移そうとした時、俺たちが居るべき区画からキースが居なくなってたんだ……恐らく先に始末されたんだろう。

 もっとも、察しが悪く鈍感だったキースと一緒じゃ、俺も逃げられなかっただろうけどな……

 キースが先に殺られたと判断した段階で艦から逃げ出すのを断念。そして艦が本星に着くまで、偵察機の増槽……脱着式の外部推進材タンクを改造した貨物庫に隠れてたんだ。一見したところ推進材タンクにしか見えないので、そのまま隠れおおせることができた。

 艦の乗員が極端に少なかったおかげで、俺が使った偵察機は簡単に確認されただけで放置されていた。

 それに隠れる直前、宇宙服をエアロックから投棄して艦外に逃げたように偽装したんだ。

 一気圧下じゃしぼんだ宇宙服も、真空の宇宙空間なら膨張して膨らむ。遠目には人が着ているように見えただろう。

 回収されたら即バレると思いはしたものの、そのまま放置された。

 どうも、始末する手間が省けた程度にしか認識されてなかったみたいだったな……あの条件じゃ艦外に逃げるのは自殺に等しい。勝手に死んでくれたって認識だったのだろう。

 増槽の貨物庫には、食い意地の張った仲間が隠してた保存食があったんで、それでなんとか食いつなげたよ……トイレに関しては、さんざん苦労したが。

 思い出したせいか、食欲が失せてしまった……が、次の食事が何時になるかもわからないのだ。後回しにもできない。

 奮発して買ったホットドッグではあるが、強引に飲み下し胃袋に納める……本当は味を楽しみたかったが、今の俺には、そんな精神的な余裕はなかった。

 一緒に買ったコーラは飲まずとっておく……炭酸飲料は使い方次第では武器になるのだ。

 まず深呼吸。

 追手は、まだ二人だ。仲間を呼んだかもしれないが今なら手に負える人数である。

 俺が覚悟を決めた途端、さっきホットドッグをやった娘が視界に入ってきた。そして、俺と目が合うと笑みを浮かべ一直線に向かってくる。

「おい、ちょっと待て」

 俺はボヤく。

 これから一悶着、起こるかもしれないってのに子供の相手なんかしてられないだが?

 ……これが、俺とホーリーとの最初の出会いで、ぶっちゃけ良い印象なんて持てなかったなぁ。

駆逐艦ワスプ

全長一八〇メートル 重量七○○○トン

連装型粒子砲三門 対空用レーザー機銃十八門 百センチ百二十口径レールガン二門

小型偵察機モスキートを二機搭載。


 ブリステル宇宙軍の新型駆逐艦。

 何十光年という距離を空間跳躍航法により静止時間において半年程度で航行できる快速艦にして新型の恒星型核融合炉を搭載。

 実体弾による核弾頭の応報がディアス多星系連邦における宇宙戦闘の主流だったが、遥かに弾速が早い粒子砲が帝国スメラやクルフス星間共和国の主力兵器と知り、流れに乗り遅れまいと急遽建造された駆逐艦。

 偵察機は持っているものの化学ロケット推進の旧型機で航続距離は短い。そのため母艦から無計画に遠く離れる事は自殺行為である。

 カタパルト等も無く、ロボットアームで艦外に吊り出しての発艦。帰艦も併走状態からのロボットアームによる回収だが帰艦時には燃料……推進剤をほぼ使い切っているため、やり直しか利かない場合が多く機体の損耗率も高い。


 ちなみに帝国スメラの同規模の艦と戦闘になった場合、まず勝てなかったりする。

 背伸びはしてみたものの周回遅れレベルの技術格差は簡単には埋められない。

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