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ホーリーブライト  作者: あさま勲


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ホーリー1

 青い空に白い雲。それに空が、あんなにも広い!

 車から駆け降り、あたしは空を見上げて思った。そして、目の前に広がる芝生の上に駆け出しクルクルと体を回してみる。

 体の回転に合わせスカートの裾が広がるのが面白い。調子にのって回りすぎ、あたしは目を回して倒れ込んだ。

 空が広く感じられるのは、回りに高い建物が何もないから。だからか、空をとても低く感じられる。

 自然と笑いが込み上げてくる。

 やっと自由になれたのだ。込み上げてくる喜びを押さえきれない。

 けど、これで終わりではない……まだ、ほんの始まりなのだ。

 とりあえず施設を抜け出すことができたってだけで、うまく身を隠しつつ高跳びできるかは今後の行動次第だ。

 あたしは乗ってきた車に視線を向ける。

 運転手不要の自動運転機能付き。

 問題は、この機能により車の所在が簡単に割れてしまうという点だろう。

 だから、この車とはお別れだ。

 ナビと連動するGPS機能を止めてしまうと、あたしには車が動かせないのだ……ハンドルを握るとペダルに足が届かないし、そもそも前が見えないんだ。

 これじゃあ運転方法を知っていたとしても、お手上げよね……

 ……って、まだあたしが何者かって自己紹介が、まだだった。

 あたしの名前はホーリー・サード。

 ディアス多星系連邦の名手を気取るジーリス。そこから買った遺伝子改造技術で作られた『優秀』な人間……の試験体、その三番目なのだそうだ。だからホーリー・サード……前の二人もホーリーの名前を与えられてるんだ。

 知能強化型のホーリー・ファーストと身体能力強化型のホーリー・セカンドが先に作られ、その結果が満足のいくものだったらしく、集大成としてファーストとセカンドの特性を単一の個体に……っといった考えで作られたのが、あたしなのだそうだ。

 現在、まだ五歳でしかない。

 けど、遺伝子改造によって先天的に与えられた記憶能力と暗算能力がある。その上、圧縮教育まで受けてるから、経験の方はともかくとして知識だけなら大学教育を受けた大人よりあると太鼓判を押されたっけ……正直に言って全然、嬉しくなかったけどね。

 あ、圧縮教育ってのは、身も蓋もない言い方をしてしまえば知識詰め込み式の暗記型の教育ね……持って産まれた抜群の記憶力で、あたしはサクッと終えたわけだけど経験による裏付けの無い単なる知識でしかないので、どこまで実践で使えるかはなんとも言えない。

 けど、これがあたしの頼みの綱なのだ。

 半ば無意識に今後の行動を考え始める。

 とりあえず、あたしの逃走が発覚するまで、まだ一時間程度の猶予があるはずだ。

 監視が甘くなるよう、聞き分けの良い子どもを演じてきたし、それを信じさせることもできていた。

 だから、隠れてネットでプログラムやエミュレーターの作成を請け負ってお金を稼いでいたことも知られていないはずだ。じゃなきゃ電子マネーがチャージされたカードの入手もできなかっただろう。

 そして出発点に決めたここは、大きな森林公園。

 ここで車を捨てて、後は徒歩なり公共交通機関を使うなりして高飛びする算段である。

 上手く宇宙まで行け恒星船に乗れれば高飛びできるし、あたしの逃走計画は完全に成功と言える状況になるんだけど……正直、酷しいかな?

 でも、足掻けるだけ足掻いてみるつもりだ。

 例え失敗に終わったとしても、考えて行動を起こしたことには意味はある。あたしが産まれ育った……去年まで居た施設で博士が言ってた言葉だ。

 あ、博士ってのは、ホーリー・シリーズの開発責任者ね。

 軍のお墨付きをもらい、限りなく黒に近いレベルの遺伝子改造を行って、あたし達は作られたんだ……そんな研究者だからか博士は悪人だとか思われがちだけど、あたしの知ってる範囲じゃ博士は悪い人じゃなかったかな?

 だから、例え失敗に終わって連れ戻されたとしても、あたしのこの行動には意味があると思いたい……って、失敗した時の事なんて、まだ考えなくて良いじゃないっ!

 気を取り直し、あたしは周囲を見回す。

 駐車場の先には、広場と森へと向かって延びる散策路。そして、散策路の手前にはホットドッグを売っているらしい屋台。

 ちょうど今、若い金髪の男が店に向かっているところだ。サングラスに黒い帽子を目深に被ってはいるけど、遠目にも若いってことが判った。

 サングラスの汚れが気になったのか、いったん外して眺めてたから顔が見えたんだ……綺麗な青い瞳だった。

 自分の身体は身体能力は強化されてる。視覚聴覚を始めとした五感だって例外ではない。この距離でも瞳の色の判別なんて簡単にできるんだ。

 あたしの髪は栗色で、瞳の色は緑色……瞳の色には不満はないけど、金髪は羨ましかったりする。変装のために髪を染めるなら金髪しようかな?

 そんなことを考えていると、風に乗って屋台からの匂いが漂ってきた。

 バターとソーセージの焼ける匂いだった。

 あたしのお腹が音を立てて鳴った。

 そろそろ昼食時で、しかもあたしの身体は高い身体能力の代償として新陳代謝が加速されてる。

 身体は小さいのに、一日あたりの食事量は大人と変わらないのだ……もっとも、胃袋自体は身体相応の大きさなので、その分は食事の回数を増やすことで対応してたわけなんだけど、今日は朝食以降は何も食べていない。

 車には移動中、軽く摘まめるような携帯食が積まれてるわけだけど……逃走計画の実行で緊張していたためか空腹に気づかなかったのだ。でも、ここまで来て一息付けたことで空腹に気づいたと。

 ……どうせ食べるなら、ホットドッグよね。

 あたしは少し考え結論を出す。

 手持ちの電子マネーは、大金と言える額ではあるが限りはある。今後の事を考えるなら、できるだけ使わす済ませたいわけだけど……自分のお金で買い物をってのに憧れてたんだ。

 知識はあったけど、まだあたしには買い物の経験なんてなかったしさ。

 自覚した途端、空腹が辛くなってきた。だから、屋台へと向かって駆け出した。この体質……燃費が悪すぎるのよね。

 買い物を済ませたらしい先程の男が退いたので、あたしも店員に声をかける。

「ホットドッグ一つと……えっと、牛乳も」

 カードを差し出しつつの、あたしの言葉に、店員が何やら難しい顔をする。

「親御さんは?」

 その問いに、あたしは難しい顔の理由に思い至った……クレジットカードや電子マネーの使用には年齢制限があったのだ。

 たしか十三歳以上……あたしは年齢的に完全にアウトだ。

 だから、あたしは黙って首を降った。店員も、あたしが買い物できないことを自覚したらしいと察したようだ。どこかホッとしたような気配である。

 買い物できない……そんな現実を突きつけられた途端、あたしのお腹が大きな音を立てて鳴った。

 すると、傍らで様子を見ていたらしい若い男が声を殺して笑う……そりゃ、あたしは世間知らずのお子さまですよっ!

「牛乳もらえるかい?」

 硬貨を差し出しつつ男は言い、牛乳を受け取るとあたしに手渡してくれた。そして、手に持った紙袋からホットドッグを一つ取り出すと、それもあたしに差し出した。

「やるよ。で、食べたら、ちゃんと家に帰るようにな?」

 思わず受け取ったあたしに言うと、その男は踵を反すと歩きだした。

「兄さん良い男だね……嬢ちゃん、お礼は?」

「あ……ありがとう」

 店員に言われ、あたしは慌ててお礼を言う。

 あたしの声が聞こえたようで、男は背を向けたまま軽く手を振ってくれた。

「あの兄さんの言う通り、それ食べたら家に帰りな……ゴミ箱は、そこな?」

 店員の言葉に、あたしは黙って頷く。そして、その場をそそくさと離れた。

 とりあえず、あたしの逃走計画は開始早々に蹴っ躓いたわけだ。

 電子マネーの使用には年齢制限がある……知識としては知っていたが、あたしの置かれた特殊な環境から見事に失念していた。

 この状況を、どうにかするために必要なものは……

「協力者がいるわね……」

 あたしは呟く。

 成人の協力者がいるが、そんな人に心当たりはない。

 だから、これから見つける必要があるわけだが、どうやって見つけるかって問題もある。

 そもそも、人の良し悪しは……何となくだけど直感でわかるのよね。でも、いい人だからこそ、手は貸してくれないと思う。

 ため息を吐き、あたしはベンチに腰掛け貰ったホットドッグにかぶり付く。

 ……美味しい。今まで食べたことの無い味だ。

 形や名前は知識として知っていたが、味は食べてみないと解らない……当たり前と言えば当たり前だけど、その程度の事もあたしは知らなかったんだ。

 普段食べてる物は、高カロリーの形成食……少量で高カロリーかつ必要な栄養素を補えるよう作られたものだが、アレって甘い油っこいばっかで美味しくないのよね。

 あたしは夢中でホットドッグを食べ終えた。そして同じく貰った牛乳を飲み干し……かけて、いつもの薬を飲んでいないことに気がついた。

 ……要するに胃薬なんだけどね。

 胃薬で消化を手助けしてやらないと、あたしの身体は十分に栄養やカロリーを吸収できないのだ……消化が追い付かず排泄されちゃうんだ。

 だから、最後に一口分残った牛乳でもって胃薬を飲み込む。

 知り合いもいない外の世界……これから上手くやっていけるのか自信を無くしてしまった。

 あたしの少ない人生経験の中から頼りになる大人を考えてみる。

 まずは博士……目の前にいるなら本当に頼りになる人なんだけど、問題は何処にいるかすら解らないことよね。接触が取れない以上はあてにはできない。

 逃げ出してきた施設の人間は問題外……って、探せば頼りになる人も見つけられただろうけど探さなかったし、それに気づかれたら逃亡計画自体を実行まで持っていけなかったと思う。

 だから、外で見つけた頼りになりそうな大人はって、大人自体、まだ二人しか会ってないわね……

 その二人で頼りになりそうなのは……屋台の店員は仕事を抱えてるから付き合ってくれそうにない。ホットドッグと牛乳をくれた金髪の男は定職に就いているかもしれないが、とりあえず今日は非番だろう。

 なら、頼るべきは金髪の若い男だ。

 これが、あたしとブライトとの出会いであり波乱万丈の逃走劇の幕開けになるわけだけど、この時はそうなるなんて全く思いもしなかった。

 あとこの出会い、絶対に運命的なものだと思うな……ブライトは嫌がるだろうけど、あたしは、そう確信している!

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