第五十七話 源八朗と孫
ボクが大量に持って来たお茶を必要分だけテーブルに並べ、残りはボクの腰掛けるソファーの裏に隠したマネージャー紗良
あれから約一時間、長い雑談の末お茶の王、源八朗が口を開く
「ホゥホゥ!あれから私も松元さんが忘れられなくてね、いやakiさんだね、あの日の会議でね、うちの新しい商品の売出しの顔はakiさんにすると私が決めたのだよ」
にこやかな顔をボクに向けると続けて話す源八朗
「来年度の春に売り込む予定でね、テレビの宣伝とポスター、雑誌と多岐にわたる媒体のイメージ娘をaki元さんにお願いしたい、どうかね?」
ボクの名前が同化した事には何も触れずに優しい目で見つめてくる源八朗、隣りに座って少し慌てた源八朗の手下こと広報さんの飯田恵が源八朗に言った
「会長・・aki元さんではありません・・松元さんです・・彼女のモデル名がakiさんです・・お間違えなく・・」
ふぅ、と小さく息を吐いた飯田さん、間違えを正された源八朗が独特な笑い声を出してボクに話してきた
「ほう?ホゥホゥホゥ!私も歳だからね・・すまなかったね松akiさん・・それでどうですかね?受けてもらえるかね?」
akiと言う名前を新たに覚えたせいで、すでに源八朗の頭の中のボクの名前は同化を済ませて何人かいるようだ
なかなかのコントぶりにボクはフッと小さく口に手を当ててほくそ笑んでやったところで隣のマネージャー紗良がキリッとした表情で源八朗に言った
「会長!そのお話お受け致します、若槻さん宜しいですよね?」
一応アホ若槻に確認を取るマネージャー紗良
それを聞いたアホ若槻は小さく頷くと口を開く
「君がいいと思えば私に異論はないよ、今までの仕事ぶりからも君に任せていたほうが良い仕事が入ってくるからね」
無駄にマネージャー紗良を持ち上げてくるアホ若槻、キザな言い回しがボクの鼻について思わずくしゃみをしてしまったボク
一瞬ボクの方を見たマネージャー紗良だったが正面に居直ると源八朗に向けて話し始めた
「では、正式に綱島園様のご依頼お受け致します、細かい指示などあれば都度ご連絡頂ければ幸いです」
それを聞いた源八朗はご満悦の表情、ニコニコしてボクに話し掛けてきた
「ホゥホゥホゥホゥ!aki松さんの気立ての良さがうちのお茶を一層引き立ててくれる!和装したaki松さんが目に浮かぶ・・細かい事はこっちの飯田さんに聞いてくれるかね?どうも私は忘れっぽくてね」
そう言い!チラッと飯田さんを見る源八朗、それに合わせて飯田さんが話しだした
「akiさん・・会長は悪気はないので・・どうかお気になさらず・・先程会長がお話した通り、宣伝は和装を予定しています、会長がどうしてもakiさんの和服が見たいと仰るので・・」
少し引きつった表情の飯田さん、和装は源八朗の趣味なのかと、堂々公言した源八朗にわからないように小さくゴミを見る眼差しを送ってやるボク
それに気付いたのか源八朗がボクを見て和やかに話しだす
「ホゥホゥホゥ!気高く誠に妖艶な良い目をしているね、私の考えるイメージとピッタリだよ、私の孫も良い娘と出会えたものだね、早くひ孫の顔が見たいね」
その言葉にその場にいた一同は呆気に取られ源八朗に一斉に注目する
孫・・だと!?
ボクはそいつを知っているのか?
ひ孫の顔・・てことは孫は男子・・・
誰だ・・
男子は星の数ほどボクは付き合って来たぞ!?
まさか・・・
変態上松・・・!?
脳内で星の数の男子諸君が数えてみたら五本の指に収まっていた事に驚愕したところで、ボクは思わず源八朗に声を掛けてしまった
「げ・・源八朗・・さん・・会長・・孫って・・誰ですか・・?ボクがよく知ってる男子ですか?」
呼び捨てにもニコニコの源八朗、ボクを見て話しだす
「ホゥホゥホゥ!私を源八朗と呼んでくれるのかね?結構結構!孫の妻になる松akiさんにそう呼ばれるなら本望だよ、嫁いだ私の娘の子だね、孫も私には小さい時に一度会ったきりだがね、孫の名はリキちゃん、長野リキと言う子だよ、松akiさんと同じ学校で仲良くしてもらってると娘から聞いているね」
な・・なにっ!?
リキが源八朗の孫だと!?
変態上松じゃなくて良かったが・・
あのマッチョなリキが将来源八朗のように太っちょになるのか・・?
ホゥホゥホゥと笑うようになるのか・・?
そしてボクもホゥホゥホゥと・・・
だがしかし!!
源八朗・・まだまだ甘いな・・
このボクを将来の妻だと言ったな?
ふははははっ!!!
残念だったな!
ボクとリキはまだ友達なのだよ!
告白すらしていない友達以上恋人未満!
妻など程遠い!彼女ですらないのだ!!
しかし・・
このままでいいのか・・?
リキはなかなかにモテる・・
ボクの知らないところでどこの馬の骨ともわからない女子に告白でもされたら・・
ボクはお払い箱・・・
やだ・・?
そんなの怖いじゃん?
結婚もしてないのにこの歳でボク未亡人?
捨てられたくない・・捨てられたくない!
ボクはリキの唇を奪ってやったんだぞ!
リキはボクのものだ!
脳内で見知らぬ女子の略奪愛に嫉妬して怒りを覚えたところで、ボクは源八朗に言ってやった
「はい!リキ君とは将来を誓い合って日々愛を深めております!源八朗お祖父様と呼ぶ日も近いかもしれませんね!」
そう言って必死でリキに告白するプランとタイミングを考えるボク、焦りからなのか喉が乾きゴクゴクとペットボトルのお茶を飲み干す
それを見た源八朗が嬉しそうに話しだす
「ホゥホゥホゥホゥ!松akiさんはうちのお茶がとても好きだね?私と松akiさんの出会いを祝して沢山準備してくれたようだ、うちのお茶を大切なこの場に持ち込むとはやはり気立てが良い!」
このあと何故かボクの準備した大量のお茶で、その場の全員がボクとリキと源八朗の出会いを祝して乾杯をするのであった




