第三十四話 街の雑貨屋
「お姉さま!これ可愛いじゃないですか!このなんとも言えない表情がどことなくお姉さまに似てる!」
駅から出て少しのところにある商店街を歩いていたときに、ボクは今いる雑貨屋さんに結月に腕を引っ張られて連れ込まれていた
ボクに似ていると結月が言っているのは入ってすぐのところの棚に列んでいる、いたずらっぽい顔をした猫のぬいぐるみだ
デフォルメだけどボクこんなに艶かし表情してるか・・?
そんなことを思っていると、棚の奥にニッパりした猫ちゃんのぬいぐるみを見つけたボク
すかさず手にとって結月の目の前に登場させてやる
「じゃ~ん!ゆず猫発見!さっきと同じ顔してるよ!あははっ!」
余りに似ていてつい笑ってしまったボク、結月が怒るかもと思って顔を見たが変わらず楽しそうな表情をしている
ボクが少しホッとした顔をすると結月がボクに聞いてきた
「お姉さま!このぬいぐるみ気に入りました!お互い今持ってるぬいぐるみ買って持ってましょうよ!そしたら結月、家でもお姉さまと一緒にいられるみたいで夢心地です!」
ほぅ・・その艶かしキャットがボクの身代わりを買って出るというのか・・
すばらしい!こんなことでボクの負担が減るのならこの話乗らない手はない!
そう脳内で考えたボクは笑顔でぬいぐるみの購入を快諾してやった
それを見て結月が言う
「お姉さまもお家で結月猫と毎日一緒になりたいんですね!結月嬉しいです!」
その言葉にボクは気付かされた
しまった・・ボク結月似のぬいぐるみを買わなきゃいけないんだ・・
毎日一緒に・・
うわぁ〜!!
これじゃぬいぐるみ見るたびに結月の事を思い出して落ち着かねぇじゃねぇか!
寝ても覚めても悩まされ続けるのか・・
絶対美容に良くねぇな・・
そう思ったボクは他に気を取らせたら買わなくて済むのでは・・と思い、とりあえずぬいぐるみを持ちながら結月と他の棚に移動した
すると目ざとい結月がまた何かを発見して一人で行ってしまう
ボクはこのまま結月を置いて帰ってしまおうかと思ったが、ママとおこちゃま作戦を
止めるわけにはと思い留まり、仕方なく結月の歩いていった方へ向かってやった
奥の棚を曲がったボクはショーケースの前にいる結月を発見し仕方なく歩み寄る、すると結月がショーケースを指してボクに言う
「お姉さま!これ綺麗ですね・・ピンキーリングって知ってます?」
唐突にリングを語られて首をかしげてしまったボク、それを見た結月は頼んでもいないのに勝手に語りだした
「お姉さまと結月にはもってこいのアイテムですよ?なんでも運気を上げる効果があるとかないとか・・左右どっちかの小指にはめて使うオシャレアイテム!ちょっと人と違う仕事をしてる結月達にとって、とっても相性のいい装備だと思いませんか?」
結月の言葉にボクはなんだか惹かれるものを感じてしまった
運気・・装備・・とっても相性がいい・・
ゾクゾクするワードじゃねぇか!
これをつけたらボクはRPGの勇者張りに仲間を侍らすことができるかも・・
いや・・侍らすどころじゃないぞ?
リングってのは大体どのゲームでも基礎能力を底上げする効果がある・・
ということは・・ボクの女子力が上がってあのうるさい女帝紗良をけちょんけちょんにできる力を得られるかもしれない!
何という夢心地アイテム!欲しい!
ボクは結月そっちのけでショーケースを覗き込んでやる、するとシルバーに輝く小さな石が付いた2つのリングに目が留まるボク
即決で購入しようと値札を見たところでボクは現実に戻される
「な・なんだと・・数字が5万で止まっているだと・・!くっ・・何ということだ!」
思わず心の声が出てしまったボク、それを見てる結月が不思議そうな顔をしていたが苦笑いをして事なきを得る
こんな金額払えない・・訳じゃない・・
なんなら手元には買えるだけのお金は持っていたボク
アホ若槻の事務所の方針で仕事のギャラは翌日振込みなボクの懐事情・・しかも新人だけど仕事の内容はセミプロを飛び越えてプロのモデル・・一流とまではいかないがここ一ヶ月で高校生とは思えないほどの稼ぎを叩き出して正直自分でも怖いくらいだ
お母さんにはモデルをするには自分磨きで色々物入りだから稼いだ分はしっかり自分で管理して必要ならそこから使えと言われていた
しかし5万は大金・・うまし棒がいくつ買えるのか・・なんなら読んでいる恋愛小説以外に他の為になる小説を買ったほうが・・
そんな小心者千秋ちゃんに変貌してショーケースの前でフルフルと震えていると結月が話しかけてきた
「お姉さま!結月も半分お支払いしますから見ていたピンキーリング買いましょうよ!」
その一言に感動してしまうボク、無意識に笑顔が出てしまう
なんて結月はいい娘なんだ!ボクか欲しいリングの金額を折半してくれるなんて!
もうママとおこちゃま作戦なんてくだらない事はよそう!
結月はボクを好いてくれている親友なんだ!
よく考えてみれば意外と気が合うしな!
そんな手のひら返しを脳内で見せつけてやったところで結月が店員さんを呼んでショーケースのピンキーリングと、持っていたぬいぐるみの会計をしに誘導されていく、ボクも笑顔でついていった
会計を折半て済ませ、雑貨屋の入口付近にある大きめのスツールにボクと結月は腰掛けた
そしてさっき買ったリングの箱を結月が取り出すとボクに笑顔で言った
「お姉さま!ペアリングありがとう御座います!これで結月とお姉さまは完全なる親友ですよ!こっちのリングはお姉さまで!こっちは結月です!」
な・・なんだと・・!?
2つあるリングは両方の指にはめる為にあるんじゃないのか?!
2つの意味はお互いで1つづつと言うことだったのか!?
これは・・結月に知らなかったことを勘付かれたら年上としての立場が・・
とっさにそう思ってしまったボクは平静を装い笑顔で結月に話しかける
「ゆずもありがとう、そうだ!さっきどちらかの小指にはめるって言ってたけど・・ゆずはどっちにはめるの?ボクは右手にしようって思ってるけど・・」
とりあえず結月が言ってた事に合わせて話を振ってみるボク
そんなボクの問いかけに嬉しそうな顔で答えてくれる結月
「結月は左手にします!お姉さまは流石ですね!ちゃんとはめた方のお願い事知ってるみたいで!」
な・・なにを言ってやがる?
利き手が右だから右にはめたまでだぞ?
右と左で効果が違うというのか・・?
結月め・・流石に女子力が高いじゃねぇか・・
もうアバズレとは呼べんな・・
これは見習わんと・・
そう脳内で結月の評価が爆アゲしたところでボクは結月にほくそ笑んでやりながら言ってやる
「ゆず?そのお姉さまってやめない?歳だって1個しか変わらないのに・・ボクもっと普通に呼んでほしいな・・親友なんでしょ?」
そんなボクの表情を間近で見た結月はトロンした目をしてボクに返事をした
「やっぱりちゃんと駄目なところを叱ってくれるお姉さま・・いや・・ちーちゃん素敵過ぎます!結月・・ちーちゃんになら全てを捧げられます!絶対一生ついていきます!」
素直なんだが・・やっぱりちょっとズレてる気が・・
でも思ったより結月はいい娘だな
ボクも女子になってからこんなに悩んで笑って楽しく他人と外出たの初めてだ
一緒にいると大変だけど、気を遣わないで側に居てくれる同性ってありがたいな
折角好いてくれてるし大事にしてやらないと・・
紗良以外の女子との友情を少し知ったボク
改めて女子とは複雑な生き物だと認識した
このあともボクは結月に付き合い商店街を歩いていった




