第三十二話 待ちぼうけの時間
10月の上旬、二学期が始まってから忙しく2つのファッション雑誌と、大手化粧品メーカーのイメージモデル、最近全国的に人気が出てきたLISA・RIZ主催の店舗イベントの仕事を終え、久しぶりに自由な時間を過ごすボク
とは言っても、なぜか人通りの多い駅中のお土産屋さんに入ってボクはアイツを待っているのだが・・
さっきも店に入るなり大人男子の店員さんに2度見された・・
最近は服装のせいなのか、はたまたモデルだとバレてしまっているのか、女子、男子、大人問わずにガン見される・・
黒い深めのキャップで顔は隠れてると思うのだが・・
ボクもモデルの端くれだから服装だけは最近特に気を使っている、とは言ってもカッコいいと思うもの優先だが・・
今日だって、白いショート丈のアシンメトリーシャーリングニットソーに黒のスキニーパンツとブラウンのローヒールブーツ、一応肌寒くなると嫌だから黒の薄手のカーディガンの袖を腰に結んである
カッコいいと思うがそんなに目立つ格好ではないと思う
ボクは気を取り直して、お土産屋さんの雑誌ラックの雑誌を1冊取り出すと、自分で勉強したファッションの完璧さに嬉しくなり、雑誌越しにニヤッとほくそ笑んでやった
それを見ていたのか、ガラスの向こうにいるオフィスレディが目をトロンとさせてボクをガン見している視線にボクの目線が合ってしまった
ボクは最近覚えた女子技の1つで、やんわり苦笑いを向けて小さく頭を下げてやった
雑誌をラックに戻し、またまた気を取り直してクルッとモデルばりに身を翻すとキャップのアジャスターから出したポニーテールのサラサラストレートヘアがキレイな弧を描いて周りにフローラルな良い香りを充満させた
それに気付いたであろう、隣で雑誌を読んでいた大人男子がタイミングよく深呼吸してゆっくりと息を吐いている
フッ・・バレバレだぜ!ボクの香りを吸い込んで香りプレイを楽しんでやがったな?
だが!ボクは大人女子になりつつあるんだ・・
そんなプレイを目の当たりにしたところで狼狽えはしない!
ボクは自分の女子力が日に日に増していることに手応えを感じニヤッと小さくほくそ笑んでやる
すると今度はボクの少し前にリュックを背負った小さな女の子が、ジッとボクのことを見ているのに気付いた
次は子供か・・ふん、そんなにボクが珍しいのか?子供は大人には見えない物が見えると聞く・・このボクの元男子オーラでも感じ取ったか?
まぁ所詮は子供・・ここはスルーだな
そう脳内で子供に対して偏見の思考でスルーをしようと、子供の横を抜けようとした瞬間、女の子がボクを指さして大きな声を上げた
「あー!ママのみてたほんにのってるおねぇちゃんだー!!ママー!ママー!!ほんのおねぇちゃんいるよー!」
女の子の純粋な眼によって、いきなりボクの素性を暴き倒して騒ぐ女の子
ボクは慌てて女の子の目線にしゃがみ込み指を自分の唇に当て静かに!とジェスチャーしてやる
それを見た女の子が何かを感じ取ったのかボクの真似をしてシーッとか言っている
それを見たボクは女の子の純粋さになぜか胸がドキドキして思わず話しかけてしまった
「んー?キミ可愛いね!ボクの真似するんだ?よく見てるねぇ?お利口さんだね!」
とボクが話してるところに、声を聞きつけた女の子のママがやってきて女の子の後ろにしゃがみ込んで話しだした
「こ〜ら!みーちゃんおっきな声は駄目よ?ママの見てる本のお姉さんだね?お姉さんお休みなんだから静かにしてあげてね?」
なかなか気の利いた事をみーちゃんと呼ばれた女の子に話すママ
その心意気と寛大な心にボクは胸を打たれて思わずみーちゃんママに話しかけてしまう
「お気遣いありがとう御座います!ボクのことを知ってて普通に話してくれたの嬉しかったです!」
とお礼を言ったところでみーちゃんとママに向けてとびきりのほくそ笑みを無意識にお披露目してしまうボク
それを間近で見てしまったみーちゃんとママは急に頬が紅くなって驚きの表情をボクに見せた
それと同時にみーちゃんが話しだす
「わあー!おねぇちゃんキレイ!ほんとおなじかおー!ママしんじゃになるっていってたおかお!ママみたー?」
そう言ってボクの真似をしてママに向けてほくそ笑みをお披露目しているみーちゃん
ママはまさかのみーちゃんの暴露によって更に顔が紅くなっている
そんなママが少し気の毒になってボクはみーちゃんにお話をする
「ママはおねぇちゃんのファンになってくれてるんだねー、おねぇちゃん凄い嬉しいよ?でもママ困らせたら駄目だよ?おねぇちゃんのアイテムあげるからママにごめんなさいしてあげてね?」
そう言ってボクは予備で持ってきていたグレーのキャップをベルトループから外してみーちゃんに被せてやった
みーちゃんはキラキラとした瞳で飛び跳ねて喜びだしてママにごめんなさいと謝っている
それを見ていたみーちゃんママがボクに慌てて話し始める
「あ・・akiさん・・!子供にそんな・・お仕事でお使いになる物では・・!」
そう言うみーちゃんママにボクは笑顔で言葉を返した
「大丈夫です、ボクの私物ですから!あっ・・1回だけ昨日試しに被っちゃったものなんですけど・・それでもいいですか?」
勝手に上げてしまったから一応キャップの事情も伝えておくボク、その言葉を聞いてみーちゃんママは無言だがとても嬉しそうな顔をした
その顔を見てボクは満足する
ファンは大事にしろ、プライベートでも女子として人として当たり前のことをみせろ・・と女帝マネージャー紗良とバックにつくお母さんに毎日毎日毎日毎日念仏のように四六時中言われるようになっていたボク
この行動は良かったのか、ボクにはわからないが、とりあえず目の前の二人は笑顔になったから良しとしよう
ボクはスッと立ち上がって、みーちゃんに小さく手を振って立ち去ろうとしたが、みーちゃんママに呼び止められてしまった
そして赤ら顔でボクに言う
「akiさん!私も娘も大ファンなんです!頂いたキャップにサインしてもらえないですか?」
さっきまでと打って変わって控えめにキラキラとした眼差しでボクを見つめるみーちゃんママ、みーちゃんがサインを書けとあげたキャップをボクに渡してくる
ボクはそれを受け取ると店員さんにマジックを借り、人生初サインをキャップのツバに書いてやった
我ながらカッコいいサインだ・・akiのaから斜めに伸びる線がたまらない
1週間考えて形にこだわったからな!
練習も授業中にしておいて正解だったぜ
自分のサインを見てレジ前でニヤッとほくそ笑んでやったボク
店員さんもそれを見て何か言いたげだったが、とりあえず苦笑いを向けてやって、みーちゃんのところに戻ったボク
もう一度しゃがみ込んでキャップをみーちゃんに被せてやった
その後みーちゃんママのお願いでお店の外で一緒に記念撮影に写ってやり、ボクとみーちゃんは手を振りあってボクはその場をあとにした




