第三十話 二学期と校長
夏休み明け初日、ボクは久しぶりのサラサラストレートヘアのサイドテールで制服に身を包み、紗良と教室へ向かう
すれ違う男子がボクをガン見してはコソコソと仲間内で話をしている
なんだ・・?新手のイジメか・・?二学期のターゲットはボクになったのか・・?
入院する1年くらい前に中学でイジメに合ったことを思い出してしまったボク
とは言っても特定の一人だけだが・・
当時もそうだったように、不屈の精神力でボクは周りの男子に愛想笑いを振りまいてやる
それを見た仲間内コソコソ男子は真っ赤になり、それぞれで仲間割れをしだした
ざまぁみやがれ!影でコソコソとボクの悪口でも言ってたんだろ?
ボクは中学の時とはひと味もふた味も違うぞ?
どうやら女子になったことで半端ねぇ女子の力を手に入れてしまったらしい
今日は存分に力を解き放ってやってイジメてくる奴らをボクに侍らせてやる!
脳内でヤバめ女子力に打ち震えたところで隣の紗良がボクに喋りかける
「あんた・・いつからそんなにあざとい千秋ちゃんになったわけ・・?男子全員にその笑顔振りまくのかな?まぁ多分男子だけじゃ済まないと思うけどね〜」
そんなことを言ってボクを脅してくる紗良少しイラッとしたが横目で紗良にバチが当たれ!と念を送ったから許すことにした
廊下を歩きすれ違いざまに挨拶してくる生徒に愛想笑いを振りまき、侍らせの種を蒔きつつボクは挨拶をして教室へと入った
すると一瞬クラスメイトの動きが止まってしばらく間を置いてボクに挨拶をしてくる
な・・なんだ?今の間は・・?挨拶は返してくれたけど・・
やはりイジメの前兆か・・?
ボクの顔が少し引きつる、平静を装いながらボクは自分の席に向かう
通りすがりにコソコソと話す、たまに話す程度の女子達にふと目をやると机に見覚えのある雑誌が広げられている
ボクは席につくとその女子達のコソコソ話に耳を立ててやった
「ねぇ・・やっぱりこのakiってモデルさん千秋ちゃんに似てるよね・・私ファンなんだよね・・」
チラチラと視線を感じる、ボクは気付かないふりをして最近ハマりだした恋愛小説を出して読み始める
それを見たもう一人の女子がコソコソと話しだす
「見て・・あの微笑み・・!絶対そうだよ・・!akiだって・・!ヤバい・・!うちの学校にモデルさんだよ・・!有名人だよ・・!」
くっ・・恋愛小説を見て無意識にほくそ笑んでしまったか・・
人の事をジロジロと・・
ヤベェのはてめぇだよ!
と思ったがボクは気付かないふりをして更に小説を読み込んでやる
そんなボクをよそに突然校内放送を知らせるチャイムが鳴ってまさかの言葉を放った
【2年B組、松元千秋さん、至急職員室までお越しください、繰り返します、至急・・】
な・・なんだと・・!?
始業式早々呼び出しだと・・!?
ボクが何した・・?!
これは教師もグルになった劇場型のイジメではないのか・・!?
こ・・このやろ〜!!
許さんぞぉ!!
こうなったらボクの女子力で先生の方々もろとも!
「校内全員侍らせてやる・・」
と心の声が外に漏れたところでボクは紗良に話しかけられた
「千秋・・変な恋愛小説読み過ぎなんじゃないの?ホントにアホなんだから・・」
ボクの後ろでボクの新バイブル恋愛小説を見下すように見てくる紗良
腹が立ったがとりあえずボクは紗良を盾に職員室に向かうことにした
階段を降りて1階の職員室に向かう途中、さっきの腹立ちのし返しをしてやろうと考えていると紗良が話しかけてきた
「呼び出し・・モデル活動の事じゃない?あんたみんな人に任せて自分じゃ何もしてないでしょ?もちろん学校にも許可取ってないよね?」
そう言われボクは思った
確かに・・勝手にお母さんやら紗良に話を進められて気付けばモデルに・・
ヤバい・・どうしよう・・
ボク怒られるの?
怒られるだけで済むの?
寄ってたかってイジメになるかも・・
怖いよぅ・・
ボクの脳内を絶望が支配し始めたところで紗良が続けて話す
「高校生なんだし何するにも責任感持ちなよ?中身は中学生なんて通用しないからね」
トドメの一言で撃沈するボク
足取りも重いがボクは職員室前まで来てしまっていた
気持ちは帰りたいが身体が言うことを聞かない
真面目なボクの身体はコンコンと職員室のドアを叩いて挨拶と共に勝手に身体が職員室へと吸い込まれていった
静まり返る職員室、直立不動のボク
静粛に耐えかねて、とりあえずボクは先生方に話し掛けてみる
「あ・・2年B組・・松元・・千秋でしゅ・・参上しましたでし・・」
タイミングよく噛んで、よくわからない言葉を発してしまったボク
それを見て横で必死に笑いを堪えている紗良、恥ずかしさで身体をフルフルと震わすボク
そんなボクを見かねたのか、近くにいたおばさん先生がボクに話しかけてきた
「松元さん、呼び出してごめんね、教室だと目立つと思って職員室に来てもらったのよ、校長があなたにお話があるみたいだから」
そう言っておばさん先生は、まさかの校長からの呼び出しで真っ白なボクを校長室へ案内してくれる
コンコン、とおばさん先生が校長室のドアを叩くと、中から偉そうな声が聞こえボクと紗良が校長室に通された
緊張するボク、気を紛らわすため校長室の備品をキョロキョロと見渡してやる
そんなことをしていると校長先生が笑顔で第一声をボクに放った




